ローカルSM から事業継承!トライアルの新・出店戦略の実像とは
トライアルホールディングス(福岡県/亀田晃一社長:以下、トライアルHD)が青森県内で店舗網を急拡大している。既存のスーパーセンター(SuC)業態に加え、地場の食品スーパー(SM)から譲受した店舗を「トライアル」に続々転換。人口減少が続く青森県内で小商圏型の小型フォーマットを広げ、シェアアップを図っている。この動きから読み取れる、トライアルHDの新たな出店拡大戦略の実像とは──。
地場SM・佐藤長から一部店舗を譲受
トライアルHDは2023年9月、青森県内にSM「さとちょう」24店舗を展開していた佐藤長および同社の関連会社である青森食研から、一部事業を承継する事業譲渡契約を締結。同年10月に青森地方裁判所の許可を得て、2社が展開する18店舗および鮮魚テナント事業などを、トライアルHDが設立した青森トライアル(福岡県/柏村昌弘社長)を介して譲受した。
佐藤長と青森食研は、事業エリアにおける競争の激化や設備投資の拡大、さらには前経営トップの反社会的勢力との交際発覚などによって資金繰りが急速に悪化。23年6月に民事再生手続きを申し立てていた。
トライアルHDは10月以降、譲受した佐藤長の店舗について順次営業を再開。希望する従業員は継続雇用し、この時点では屋号も「さとちょう」のまま再オープンした。「地域の皆さまのため、営業再開を最優先にした」(トライアルHD執行役員広報部部長野田大輔氏)ためだ。
そして12月1日、初めて「トライアル」の屋号を冠して営業を再開したのが、青森県むつ市の「トライアルsmartむつ新町店」(以下、むつ新町店)だ。佐藤長からの転換店舗としては16店舗目にあたり、売場面積は約1000㎡、取り扱いアイテム数は1万超となっている。
鮮魚は地場の丸魚を軸に総菜はPCもフル活用
売場を詳しく見ていこう。トップの青果売場は主通路上の平台を軸に旬の野菜や果物を、“トライアル流”の彩り豊かなボリューム陳列で訴求。取材日は「青森県産サンふじりんご」が4個入り1袋で499円(以下すべて税込)、「静岡県産三ケ日みかん」が1袋299円、「青森県産キャベツ」が1玉99円などインパクトある価格で販売し、多くのお客でにぎわっていた。
続く鮮魚は、既存のトライアルの店舗とは一線を画した特徴的な売場となっている。まず特筆すべきは丸魚の充実ぶりで、加工場と売場をシースルーにした対面コーナーでは、青森県産の地魚を中心に、取材日は「クロソイ」(1尾400円)、「石カレイ」(同1000円)、「ニシン」(同300円)など20以上の魚種を販売していた。このほか刺身は「4点盛り」が799円、鮮魚寿司は「上にぎり6貫」が399円、「にぎり盛り合わせ16貫」が998円など手頃な価格で販売。また店内加工の魚介珍味の品揃えも豊富で、「にしん切り込」(100g159円)、「北海松前漬」「中華ほたて」(同259円)などが並んでいた。
精肉は価格訴求により力を入れており、取材日は日替わり特価品として「国産豚モモしゃぶしゃぶ用」(100g99円)のほか、「アメリカ産豚ばらうす切り」(同169円)、「国産若鶏もも肉」(同109円)、「国産若鶏手羽先」(同99円)など、牛豚鶏いずれもトライアルならではの品質と価格を打ち出している。
総菜はほかのトライアルの店舗同様、総菜製造を担うグループ会社、明治屋(福岡県/大塚長務社長)が担当。SuCの店舗に比べると品揃えは絞り込まれているが、「三元豚ロースカツ重」(299円)や「2段仕込みの旨み醤油から揚げ」(100g169円)など売れ筋商品のほか、「ごろっとイカメンチかつ」(299 円)などご当地メニューも差し込んでいる。なお総菜については主にフライ類は店内調理、米飯類は青森県黒石市にあるプロセスセンター(PC)からの供給となっている。
加工食品は700品目増、非食品も充実
このほか加工食品は転換前と比べて700アイテムほど拡充しており、ナショナルブランドの売れ筋を中心に価格を強く訴求するトライアル流の販売施策がフル導入されている。ゴンドラエンドでは広告掲載品や数量限定のセール品を集積し、取材日は「日清オイリオヘルシーオフ」(900g199円)を目玉に訴求。さらに主通路上では納品用のカゴ台車をそのまま持ち込み、「カルビーポテトチップス」を各種59円で販売するなど、競合を寄せ付けない“強烈な安さ”を随所でアピールしていた。
さらにむつ新町店で注目したいのが非食品のカテゴリーだ。ペットフードや洗剤、ボディ・オーラルケア用品などのほか、カー用品や園芸用品、文具などもフェースを広く確保して販売している。SuCで扱っているような非食品を一部導入することで、ワンストップ性を向上させるねらいだ。
そして、売場各所に掲示されているのが、「当店の価格はすべて税込価格表示。」というPOP。レジ横のサッカー台にも「欲しいものがいつでも安い。」「安心、安さ、実感!」といった文言のPOPが張り出されており、「トライアルならではの“わかりやすい安さ”」をお客に強くアピールしている。
地域住民にとっては佐藤長の閉店によって日々の買物に不便が生じていたところ、トライアルの出店は“待望”ともいえるものだったようだ。オープン日は開店時間前から雪が降りしきるなか多くのお客が列をなし、その後も入店制限がかかるほどの盛況ぶり。カゴをいっぱいにしながら買物を楽しみつつ、佐藤長の頃からのなじみの従業員と久々の再開を喜ぶお客の姿も見られた。「こうした光景を見ると、われわれが出店したことの意義を強く感じることができる」と野田氏は頬を緩める。
小型フォーマットのノウハウ蓄積が奏功
他方で、佐藤長の店舗承継を介したトライアルHDの出店は、青森県をはじめとする北東北エリアの競争環境を一変させる可能性があるともいえる。
既述のとおりトライアルHDは青森県内に複数のSuCを展開しており、そこに今回のむつ新町店のような小型のSMフォーマットで隙間を埋めるように出店することで、強固なドミナントが構築できるためだ。本稿執筆時点ではすでに佐藤長からの店舗転換はすべて完了しており、青森県内の店舗数はSuCが3店舗、佐藤長からの転換店舗18店舗の計21店舗となっている。
そもそも、こうしたSuCとSMを組み合わせたドミナント構築を可能にしたのが、トライアルHDが昨今積み上げてきた小型フォーマットの開発ノウハウだ。本拠とする福岡県ではここ数年、郊外の住宅地から福岡市内の繁華街の一画まで、さまざまな立地で「トライアルsmart」や、よりコンパクトな「トライアルGO」といった小型フォーマットの出店を重ねてきた。売場サイズや立地、商圏特性に合わせて個店ごとに売場づくりや商品政策を柔軟に組み立ててきた経験が、今回の佐藤長からの店舗承継もスピーディに実現することにつながった。
「出店の仕方が大きく変わっていることは明らか。SuCをメーンとした出店戦略を貫いていた以前のわれわれでは決して成し遂げられなかったと思う」とトライアルHD広報の金光博明氏は言う。
トライアルHDは今後の青森県内、東北エリアにおける出店戦略については明言していないものの、少なくとも一挙に21店舗体制を築いた青森県内での存在感は飛躍的に高まったといえる。ユニバース(青森県/三浦建彦社長)やマエダ(同/前田惠三社長)、紅屋商事(同/秦雅秀社長)といった有力地場チェーンがしのぎを削りつつ、少子高齢化・人口減少が加速するなか、競争は激しさを増しそうだ。
また、今回の佐藤長のケースのように、競争力を失ったローカルSMから店舗承継するという新たな拡大戦略が全国で展開されていく可能性も否定できない。“青森パターン”での出店戦略は、全国の小売市場に一石を投じる動きといえそうだ。
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