イオンリテール(千葉県/井出武美社長)の次世代スマートストアとして注目されるイオンスタイル川口(埼玉県川口市)ですが、水産部門では総合スーパー(GMS)タイプのモデル刷新というべき売場も展開しています。コロナ禍を経たニューノーマルのニーズに全方位で応えようというものです。また同店に限ったことではないですが、イオンリテールの水産部門は最近、産地と店舗とネットが連携した商品提案に力を入れています。
水産の魅力を余すことなく表現
イオンスタイル川口の水産売場は、コロナ禍を経ていっそう求められるようになった3つの機能を強化しています。
1つは生素材の魅力を打ち出すことです。生魚を展開する壁面部分はガラス張りになっていて、その長さは26尺(8m近く)、イオンリテールで最大といいます。売場と作業スペースの一体感を高める演出であり、さらには大型モニターも吊るし、鮮魚を加工する手元の映像などを配信しています。このモニターはコロナ禍に入った昨年以降、大型化が進みました。
2つ目はストックに便利な冷凍鮮魚のコーナー化です。店舗に真空パックの機器を備え、切り身などを「フローズンフィッシュ」として展開します。食品スーパー(SM)は総じて来店頻度が減少傾向で、だからこそまとめ買いできる冷凍切り身は顧客にとってありがたいものです。
3つ目は、魚総菜の展開です。これまでイオンリテールの魚総菜は、製造を水産部門で行ったとしてもデリカの売場に陳列していました。それを生魚の売場に隣接させ、焼き物・煮物・揚げ物・丼物まで、多くは同店に合わせて開発したメニューを並べます。丸魚に始まって、刺身に、寿司に、冷凍に、総菜にと、水産品のバリエーションを1つの売場で余すことなく表現しようというものです。
同店のスタイルは、週末来店型のGMS用の新モデルということです。日常使いのSMモデルとは異なる方法で、水産売場の魅力を高めます。
「ホビー(趣味)としての鮮魚」に応える
コロナ禍で大きく伸びた水産の中でも、壁面で展開する丸魚の伸長率が最も高いそうです。その背景には「ホビー(趣味)としての鮮魚」志向の高まりがあると、イオンリテール水産商品部の松本金蔵部長は指摘します。ホビーとしての鮮魚とは、手間をかけて魚料理にチャレンジしてみよう、丸魚を自分で捌いてみようといった志向で、この手料理ニーズには男性が多く含まれることも特徴です。
コロナ禍で時間的なゆとりが増えただけでなく、YouTubeなどで魚を捌く動画も増え、捌き方を確認してトライしやすい環境になってきました。料理とSNSの相性はそもそも高く、やってみた成果をまたSNSで発信するという拡大スパイラルが、ホビー鮮魚の裾野を広げているようです。
丸魚の提案として象徴的な取り組みのひとつが、「福島鮮魚便」の展開です。JF福島魚連や福島県との協業で18年6月にスタートしたもので、イオンスタイル川口など14店で常設コーナー化、ほかにも毎月、日数を絞って展開するケースが4店舗あります(21年6月時点)。
福島近海の漁業は、原発事故の後まだ本格的な操業に至ってはいません。しかし試験操業の段階から、イオンリテールのコーナー常設店では毎日品揃えしてきました。夏季など水揚げが減少する時期は、解凍品なども駆使してコーナーを維持しています。売場には専属の販売員が常駐して接客にあたり、鮮魚の品質についてはイオンリテール独自の検査も継続しています。
福島鮮魚便の魅力が、その豊富な魚種のバラエティであることは間違いありません。また値頃感も圧倒的です。6月からは店頭での販売から一歩踏み出して、ネットスーパー専用品「福島鮮魚便おさかなセット」の展開も始まりました。
店舗経由の鮮魚宅配
福島鮮魚便おさかなセットは、導入店のネットスーパーで注文を受け付けます。税込3240円と5400円の2タイプを用意、月曜〆の注文が次の土曜日に宅配される仕組みです。鮮魚の箱詰めは店舗で行い、チルド便で配送されます。
これは20年8月に始まった「鮮魚ボックス」の取り組みを福島鮮魚便にも応用したもので、産地と店舗をつなぐ物流網がネットスーパーを介して自宅まで延長されたかたちです。同様の方法で、ネットスーパー専用の鮮魚商品のバリエーションが広がっています。
6月下旬には、関東エリア73店を対象に神奈川のブランド鮮魚「松輪の釣り金目鯛」をネットスーパー専用品として発売しました。神奈川で水揚げされる金目鯛の2割だけという高級魚で、水揚げ直後に産地で切り身・刺身用に加工したものをチルド管理で、やはり店舗までの物流網を活用して運び、ネットスーパーを介して自宅に届けます。税込5378円となかなかの価格ですが、注文の翌週金・土曜日に配達する受注生産なので、ロスは発生しません。店頭で扱うよりもネット向きかもしれません。
高付加価値の鮮魚商品を産地から店舗へと効率的な物流システムでつなぎ、そこからネットスーパーでラストマイルを埋めるという仕組みは、リアル店舗があればこそ可能です。こうした商品開発が産地直送とはまた異なる、ネットスーパーならではの魅力を作り出すように思います。