9年でわずか25店舗 ブルーボトルコーヒーがあえてスローペース出店を貫く理由
出店や店舗運営にも貫かれる「Seed to Cup」
伊藤氏自身、前職の三井物産時代に米国に留学した際、「サンフランシスコで訪れたブルーボトルのコーヒーに感動して」ブルーボトルの日本事業立ち上げに参画した経歴を持つ。以来、日本をはじめとするアジア圏での店舗開発を担当し、2020年からはジェネラル・マネージャーとして日本エリアを統括する。
一貫してブルーボトルの店舗開発に携わってきた伊藤氏は、「ブルーボトルのグローバル戦略において、日本をイノベーションの発信源に位置づけている」と語る。
「私たちの言葉で『ブランドビーコン(beacon:発信機)』と呼んでいるが、新しい取り組みや実験的なアクションを日本で積極的に行い、そこで成果のあったものをグローバルに発信・展開している」
一例として、トラックでポップアップ的に出店する「コーヒートラック」は、最初に日本で行い、後に香港や韓国でも展開している。什器やメニューを店舗ごとに変える試みや、ファッションブランドの「HUMAN MADE」とコラボしたショップも、日本からアジア、さらにはアメリカに“逆輸入”する話もあるという。
日本の「喫茶店文化」にインスパイアされたブルーボトルのブランドが、この日本で育まれ、国境を越えて広がっているのは興味深い現象だ。そして、そこでも一貫しているのは「感動ドリブン」の姿勢だ。
「バリスタやスタッフが、来店したお客さまに感動を提供し続けることで、『またこのカフェに来よう』と思っていただくことが、ブルーボトルのビジネスの基盤になっている。ブランドアセットが『消費』されていくビジネスモデルではなく、ブランドアセットをコミュニティの中でお客さまとともに『共創』していくことで、ビジネスとしてのリターンも得られるモデルをこれからも追求していきたい」
ブルーボトルで提供するコーヒーは、豆の原産地から抽出に至るまでの各工程にこだわり、時間と手間暇をかける「Seed to Cup」を特徴とする。「感動」を起点に、出店の意思決定にも時間をかけ、店舗運営も顧客とのコミュニケーションを深めながら地道にコミュニティを築いていく姿勢もまた、1杯のコーヒーに対して丹念に手間と時間をかける「Seed to Cup」を体現しているといえるのではないだろうか。