ダイヤモンド・リテイルメディア・カンファレンス2017
小売業の成長を加速するデジタルイノベーション
「優れた顧客体験価値」の創造戦略
「顧客体験の“オムニチャネル化”とデジタルシフト」
小売業が考えるべきデジタル戦略とその実践
アドビ システムズ 株式会社
アドビ グローバル サービス統括本部 ソリューション コンサルティング本部 マーケット ディベロップメント エンジニア
熊村 剛輔氏
顧客接点の拡充で「個客化」し顧客の囲い込み図る
消費者は常に情報に接している。そうした消費者を相手に一概に「顧客体験」と言っても、それぞれ「何を価値として感じるか」には大きな違いがある。それを細かく分析し施策展開するのは難しい、という反応は当然である。しかしECとリアル店舗の両輪で成長を目指すなら「顧客体験」向上は、デジタルマーケティング戦略として最も重視すべきテーマである。膨大な情報を分析して最適なマーケティング戦略を実行に移すためには適切なツールの活用は避けて通れない。そしてデジタルマーケティングを組織横断的に統括する組織を設置することは必須である。
“3つの急増”を背景にマーケティングは複雑化
アドビ システムズ 株式会社
アドビ グローバル サービス統括本部 ソリューション コンサルティング本部 マーケット ディベロップメント エンジニア 熊村 剛輔氏
「オムニチャネル」と最初に言い始めたのは、2011年のMacy’sの事業報告書と言われている。それから6年を経過し流通業界では一般的な用語となっているが、その6年間でオムニチャネルに成功した企業もあれば失敗した企業もある。最初に言い始めたMacy’s自体、2016年に100店舗を閉鎖している。店舗を絡めた運営に関しては、日本企業の方がうまいように感じる。2016年は象徴的な出来事があった年。ブラックフライデーの売上げが店舗売上40%に対してオンライン44%と逆転したのだ。
オムニチャネルの目的は顧客接点の拡大。顧客接点が増えたことが意味することは、「3つの急増」である。その3つとはまず「顧客接点の急増」、それから「情報量の急増」、そして選択肢つまり「競合の急増」。そこでオムニチャネルは問題をさらに難しくしている。3つの急増につながるのは多様化と細分化。多様化とはPCやスマホなど顧客接点の多様化、ライフスタイルやニーズの多様化、コンテンツと情報の多様化、表現手法や顧客体験の多様化などがあり、細分化では情報接触時間の細分化、マーケティングセグメントの細分化、コンテンツと情報の細分化が起きている。かなり複雑化が進んでいる。
“Always On”の消費者の目をどう向かせるか
実際、人々の生活にとって“デジタル”は当たり前の存在になっている。スマホの普及により、消費者は常に情報に接しているようになった。つまり消費者は“Always On”の状態にあるわけだ。またデジタルテクノロジーの進展で、例えばミラーに写して色違いの服を試すことや、棚に欲しい商品がなくてもスマホでオーダーするなどは一般的になっている。もし欲しい商品が売っていなかったとしたら、2016年のデロイト調査によれば、店頭で買う人の場合ならECや別店舗など基本的に同じ店で買うという人が多い。しかしいつもオンラインで買う人は圧倒的に「よそで買う」ことを選択する。
その“Always On”の消費者と常につながるために、どのような顧客接点を持ち、どのような顧客体験を提供すればいいのかが問題になる。顧客の行動は「商品認知」にはじまり「興味関心」から「情報検索」「内容理解」「価値認識」と進み「購買」につながる。そして商品を購買したことで「体験/価値共有」に至る。その過程で最初は見込み顧客化のために広告などの媒体を活用したコミュニケーションを図り、さらに顧客化のためのコミュニケーション、最終的には“個客化”のためのコミュニケーションが必要になる。マスから個へ対象を変えたコミュニケーションが必要であり、とくに“個客化”コミュニケーションはデジタルがより効果を発揮する領域となる。では顧客体験とは何か?「いつでも」「どこでも」「だれでも」という数と規模の領域に加えて「いまだけ」「ここだけ」「あなただけ」とタイミングと場所・位置、そして個人を対象にした価値訴求に移っていくことにある。在庫情報と顧客情報を一元化することでECや店舗での購買の利便性向上というオムニチャネルから、顧客体験そのものがオムニチャネル化により体験価値を向上させることが重要だ。
“L3PS”を備えた全社横断的なデジタル専門組織を
これも米国の調査だが、2017年に米国流通企業が一番重要視しているのは「顧客体験」で54%。さらに「顧客体験」を2番目に重要とした企業は22%、3番目が13%でこれだけで90%近くの企業が「顧客体験」を重要項目に挙げている。
顧客体験向上のためには①顧客を深く理解して気遣い②一貫性のあるメッセージで③技術を意識させることなく④いつでも喜ばせること―の4つが不可欠になる。その顧客体験を中心にビジネスを推進するためには、まず顧客に関するデータを収集し的確なセグメンテーションを行うこと。マルチデバイス化やIoTを通じて顧客の声を聴くなど顧客を知ることが起点。さらにパーソナライゼーションや連続したカスタマージャーニーの管理などで最高の顧客体験を届ける。そのために独立した専門組織の立ち上げと小さくスタートし着実に成果を上げること、ツールの効果的な活用を図っていく。
「デジタルを活用している」とする企業でも、デジタル戦略が広告宣伝、販促、販売、CRMなど各領域と実は切り離されて存在するというケースが多い。理想はマーケティング戦略の上にデジタル戦略があり、その上で広告宣伝といったすべての領域をカバーしていることだ。そのためにはフレームワークが必要であり、何よりも強い専門組織を作らなければならない。確立すべきは「L3PS」。Lはリーダシップ、3Pはピープル、プロセス、プラットフォーム、そしてSがストラテジーを表す。このL3PSを念頭に組織横断的なデジタルマーケティング担当組織を作ることで、各部門でバラバラな施策展開を防ぎ情報統制を一元化できる。
ツールの活用で顧客理解と省力化、効率化を実現
そうした組織を設置した上で、顧客体験向上のために何をするか。まず“顧客行動”を書き出し、“コトバ”を“データ”で定義する。例えば「顧客」という表現も、各部門でまちまちなケースもある。単なる「訪問者」、「見込み客」そして「顧客」を、データを基にきっちりと区別する。KPIには“打ち手”の打ちやすいものを選ぶことも重要だろう。
そうした活動を支援するのがツールだ。ツールを用いることで顧客理解とニーズの分析、情報提供などを省力化、効率化することができる。多数のデータから一貫性のある情報を切り分ける作業は人手では難しい。
アドビシステムズは、「Experience Cloud」をはじめ「Creative Cloud」「Document Cloud」といったクラウドソリューションを提供している。「Experience Cloud」は、複数のソリューションと連携しカスタマージャーニーの最適化を高次元で実現する「Marketing Cloud」、顧客インテリジェンスエンジンとしての「Analytics Cloud」、幅広いフォーマットの広告を管理する「Advertising Cloud」などのソリューションで構成する。これらのツールを活用することで、数多くの顧客接点に対して、データで管理された顧客体験を実現することができる。