ダイヤモンド・リテイルメディア・カンファレンス2017
小売業の成長を加速するデジタルイノベーション
「優れた顧客体験価値」の創造戦略

2017/05/12 17:32

“生活者とのつながりを創る”
BAYCREWSのオムニチャネル戦略

株式会社ベイクルーズ EC統括 兼 事業支援統括 上席取締役 村田 昭彦氏

狙いはスマホでの顧客接点を最大化

 

ベイクルーズは「ファッション」だけにとどまらず、「フーズ」「ファニチャー」「ビューティ」と衣に加えて食と住、美容の4つの事業領域でライフスタイル提案する。ファッションでは30ブランドと306店舗、フーズでは19ブランドで57店舗、ファニチャーは2ブランド9店舗、ビューティは2ブランド3店舗を保有するが、EC市場が成長する中で、同社の課題はリアル店舗との相乗効果をどのように高めて行くかにあった。そこでブランド別から全事業をカバーするデジタル戦略専門組織を設立し、自社ECの強化と脱モール依存など新たなデジタル戦略構築を推進してきた。

 

共通プラットフォーム構築などデジタル戦略を推進


株式会社ベイクルーズ
EC統括 兼 事業支援統括 上席取締役
村田 昭彦氏

 最近5年間のEC市場に関する取り組みは、①新たなファンクションをつくる②プラットフォームを構築する③モール依存から脱却する、この3つがテーマ。まずファンクション(組織機能)については、5年前に部門横断型組織でデジタル戦略を推進する体制を構築した。それまでは各事業部内にECに関わる部署があり、ECに関する戦略や業務プロセスが事業部ごとに異なっていたが、新たな部門横断型組織をつくることで目標や戦略の共有、業務プロセスの標準化などが可能となった。

 

 このデジタル戦略の専門組織のポイントは4つ。システム開発などコア機能を内製化すること、意思決定をスピード化すること、全体最適化を進めること、そして各種KPIを設定してデータドリブンで施策を実行することを目指した。

 

 また、データ統合とAPI連携の仕組みにより全チャネルで活用できる共通プラットフォームを構築した。共通プラットフォーム化の目的は、業務効率や在庫効率の向上、CRMと統合基盤の連携など顧客基盤の強化、情報資産の活用がポイント。会員DB、商品DB、在庫DBも統合基盤に置くことで店舗でも、自社ECでも、他社ECでもすべてを一元管理できるようにした。

 

部門横断型専門組織主導のデジタル戦略
ベイクルーズのオムニチャネル・プラットフォーム

ファッション業界の平均を上回るEC化率を実現

 さらにモールなど他社ECから自社ECへのシフトも進めている。400以上ある店舗との相乗効果、データ資産の有効活用を図るために脱モール依存も進めてきた。

 

 こうした一連のデジタル戦略強化でEC売上高は2017年度に2012年度に比べ5倍の280億円に拡大し、全社売上高に占める自社ECシェアつまりEC化率は2017年度に25%と5年前に比べ16ポイント上昇した。ちなみにファッション業界のEC化率は平均で9-10%程度と言われており、2016年度のファーストリテイリングの国内ユニクロでは5%、ユナイテッドアローズが11%。アーバンリサーチは比較的高く21%となっている。

 

 モール依存脱却を目指したことでEC売上高に占める自社ECシェアも2012年度の23%から2017年度は50%と27ポイント上昇した。現在も50%を超えて着実に自社ECのウェイトは高まっている。

 

自社ECをハブに生活者とのつながりを創出

 一連の基盤整備を進め、この基盤を生かしてオムニチャネル戦略を進めてきたが、最大の課題は顧客接点の再構築だと考えている。ファッション市場全体の売上高が伸び悩む状況で、EC利用は着実に増えている。つまり店舗に来店する人は減り続けるわけだ。一方、オンラインでもスマホ内の可処分時間はメガプレイヤーの寡占化が進む。スマホの1日平均利用時間は2~3時間程度と言われ、そのうちアプリが8割で、Web利用はわずかに2割程度とされている。このような環境下でいかに利用時間を延ばしてもらうかが重要になる。

 

 つまりオムニチャネル戦略の狙うところは「スマホでの顧客接点を最大化」することにあり、そのためには「スマホで優れた顧客体験を提供する」ことが重要になる。その手段として有効なのが「オムニチャネル化を進める」ということなのだ。そのスマホでの顧客接点を最大化するために、ベイクルーズで取り組んでいるのが、自社ECをハブに生活者とのつながりを創るということ。アクセスベースでのシェアでのスマホ利用は80%あり、EC売上げベースでは75%を占める。顧客層は30代から40代だが、その顧客層とのつながりを創るのが課題というわけだ。

 

 顧客接点のKPIをユニークユーザー(UU)数や訪問数、1人あたりのサイト滞在時間などで表し、顧客体験のKPIをネットプロモータースコア(NPS)、1人あたりの年間購入金額(ARPU)、カスタマーリテンションレート(CRP)など、それぞれ複数のKPIを用いて顧客とのつながりを可視化する。なお、オムニチャネル化のアプローチとしては、①会員、在庫の一元化、統合②各DB統合によるサービス、コミュニケーションの統合③顧客体験化、といったように大きく分けて3つのステップで進めている。

 

月間UU数は5年間で260万人増の300万人に

 こうした取り組みにより、月間UU数は2012年度に40万人だったものが2017年度には300万人と5年間で260万人のアップにつながった。また月間の訪問数は2012年度100万人から2017年度は1100万人に拡大。顧客接点のKPIとして順調に伸長している。また、直近の1年間でECを利用したアクティブ会員数は2012年度の5万人から2017年度には33万人に増え、ARPUも2万7000円から4万2000円へと5年間で1万5000円のプラスとなっている。ただ、これらの数値ははっきりと増大しているものの、NPSに関しては5年間で微増にとどまっている、というのが実態だ。アンケートでの顧客の声も参考にしながら改善を試みているが、ロイヤルティについては目標水準には届いておらず、今後も課題として注力していく。

 

 オムニチャネル化といって社内で投資対効果を説明するのは、結構難しいものだ。そこで必ず売上げに与えるインパクトを可視化して説明している。例えばオムニチャネル化による効果として、機会損失の防止という点ではEC在庫のほかに店舗在庫の引き当て割合が12%あることで、年間14億円防止効果という実績がある。また、店舗とECのクロスユース拡大という点では、年間購入額ベースで店舗のみの顧客に比べ店舗とECの併用者は3倍、ECのみに比べれば5倍という実態だが、このクロスユースの売上げは全体の38%を占めるまで拡大し、前年に比べ14ポイント上昇し売上ベースで67億円のプラス効果があった。

 

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