過去の経験法則から「失敗の真因と成功の決め手」
トライ&エラーの連続
当連載第2回と3回で述べたとおり自社ブランド開発はチェーンストア志向企業によって1960年代から始められている。68年からはチェーンストア経営を学ぶ勉強会である「ペガサスクラブ」のメンバー企業は、勉強会の主宰者である渥美俊一の率いる現地訪問型の開発輸入セミナーに大挙して参加し、開発輸入による自社ブランド開発に着手したのである。
その後70年代は試行錯誤の時代だったが、過去回で紹介したようにウナギのかば焼きや牛肉など今日大衆の日常生活に定着した成功例が生まれたのだ。78年の日中国交正常化を皮切りに80年代は中国が産地に加わりソーシングの選択肢は増えた。
しかし中国は産地として未成熟だったために、値段は安いが品質が満足いくものにはならないジレンマが、開発輸入に対する熱意をそいだことも確かである。
本連載の第3回で述べたように、サービスのよい大手サプライヤーを使い続けたい社内の保守派が自社開発に反対する理由にしたことも事実である。その頃多店化のピークを迎えた各社は、棚割り作成や新規開店や特売時の人員派遣などこまめなサービスを提供するサプライヤーを使い続けたかったのだ。
90年代、大手としてはイオンと一部のホームセンター、そして各種専門店のスーパーストアを多店化する少数の企業が、あきらめずに自社ブランドの開発を続けてきた結果、2000年代にその威力を発揮して突出することになったのである。
多くの企業が同時期に自社ブランド開発に着手したのに、途中脱落する企業のほうが多かった。その中で一部の企業だけは失敗してもあきらめずにトライ&エラーを続け、成功を手にしたのである。
初めての課題に取り組むのだから失敗するのは当然だ。しかし欧米チェーン各社は自社ブランド開発に成功しているのに、自社だけできないはずはない。失敗要因を取り除けば成功できるのだ。それでも、すでに経験や知識としてわかっていることがあるなら最初から失敗しないように先手を打つべきだ。それ以外にも予期せずに発生する障害があるからだ。
失敗の歴史を調べると、その原因は各社に共通している。
第一の問題は、トップのかかわり方にある。トップの後押しがないと成功しない。有能な人材の潤沢な配置と、十分な予算配分、いずれも決定権を持つのはトップだからである。
商品開発を成功に導くには時間がかかるのだ。トライ&エラーの連続を余儀なくされるから、すんなりうまくいくはずはないのである。だからこそ、トップのこの事案に対する執念が試されるのである。
多くは商品部長に命じ、部長はバイヤーなどの部下に丸投げし、勝手にやらせておいて後から文句を言うというやり方だ。すぐに成果が出ないともともと少ない予算をさらに減らす。それで成功するはずはない。
トップの役割は人材と予算を供給するだけでなく、開発プロジェクトマネジャーを相手に1対1で定期的に進行状況を聞き取り、指導すること。同時に、障害を取り除くためにほかのマネジャーに新たな命令を出すことなのである。
開発プロジェクトの組織
未経験のプロジェクトを成功に導くには組織、つまり分業体制を整えることが重要である。しかし商品開発に失敗した多くの企業は、このスタートから間違っていた。商品だからと商品部長に命令することが多いのである。
ところが商品部長はこれまで大手サプライヤーとの取引で商品調達を進めてきた。だから、現状の体制を変えたくない。商品開発には反対の現状維持派なのである。
それでもトップの命令には逆らえないから商品開発に関する知識はもとより仕入れの経験さえ未熟な、実務に疎い若手に任せる。だから、当然失敗する。
別の例では商品部長がベテランバイヤーを選んで開発担当にする。しかしバイイング業務から外すわけではなく、「ついでに開発もしろ」ということだから時間がない。これも失敗に終わるのだ。
独立した商品開発プロジェクトがスタートしても人員が少なく、予算も少ないと、満足に活動できない。サプライヤーからの仕入れなら相手に調査や作表を要求すれば出てくる。だから商品に関する調査研究費の必要性を感じていない企業は多いのだが、自社開発のためには調査研究を自社で行わねばならない。
製品メーカーの設備投資費と同じようにチェーンの商品開発には調査研究費が必要なのだが、トップマネジメントにその認識がないことが問題である。
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