AI活用にフルコース仕立て…2025年のおせちトレンドを読み解く

宮川 耕平(日本食糧新聞社)
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時事性も踏まえ、伝統料理は革新されていく

 元旦は年中行事ですが、年々歳々その食卓は同じからず、です。和食で構成された伝統的なお重にも、年ごとに異なる意味合いが添えられます。2025年おせちで各社が打ち出すのは、能登半島地震の復興支援です。加賀料理で知られる土地柄から、同地のホテル・旅館や料亭とのコラボおせちは、以前からの定番企画でした。

 セブン-イレブン・ジャパン(東京都/永松文彦社長)と老舗旅館・加賀屋とのコラボおせちのスタートは、2009年に遡ります。以降16年連続で商品化され、今回は売上金の一部を復興支援に役立てるそうです。同様の仕掛けは多くの企業で見られ、伝統的なおせちにも今ならではの意味合いがあります。

 今ならではのアプローチといえば、イオン(千葉県/吉田昭夫社長)のおせちには大阪・関西万博とのコラボ商品があります。また、「AIと創った未来創造おせち」という変わり種もあります。AIおせちは、画像生成された色彩と食材のアイデアを、人智によって商品に落とし込んだものだそうです。ブレーンストーミングの手段としてAIを活用する企業は増えているようですが、これもおせち開発のブレーンストーミングであり、ここから新しい発展が開けてくるのかどうか? 前衛的な試みではあります。

AIの生成画像をもとに商品化したトップバリュのおせち(中央の丸型一段重)

 イオンのおせち開発で、意外なほどに意識していると思われたのが、ジャパネットたかた(長崎県/高田旭人社長)のおせちです。ジャパネットは「お正月用おせち料理の商品別販売数量・金額」が2年連続で日本一とうたっています。それは一品集中の結果なのですが、数多くのラインアップを展開するイオンが、対抗商品というべき「トップバリュ饗宴」を開発しました。

 イオンもジャパネットも二段重で、品目数はジャパネット70品に対しトップバリュは73品、価格はジャパネットが早期割引で税込1万9980円のところ、トップバリュは本体価格1万9800円を5%の早期割引としました。どちらにも年越しそばが付きます。また、予約を盆前からスタート、「夏の帰省時に正月の相談もできるように」という意図も同じです。

 No.1おせちへの対抗意識はさることながら、イオンの商品担当でトップバリュ社長も兼任する土谷美津子執行役副社長に、今年のラインアップで最も力を注いだのは何かと質問したところ、無添加おせち「瑞(みずき)」と答えてくれました。食品添加物を使用せず、甘すぎもしょっぱすぎもせず、おせちとして見栄え良く仕上げるのに苦労があったそうで、素材や調味料の工夫はもちろん、製法にも試行錯誤を続けたといいます。例えば黒豆を見栄え良く煮るために、古くから錆びた釘を入れて鉄分を補うといった方法があります。「瑞」では、黒豆を鉄器で煮ることにより昨年以上の見栄えを実現したそうです。伝統的な黒豆を仕上げる技法にも革新がある。これもおせち料理ならではと感じました。

 現代おせちは、伝統的かつ革新的に進化を続けています。そういったおせちを元旦の食卓に用意しておくニーズは、社会変化に対応しているともいえます。先に触れたように、おせちには元旦から台所を使わないで済むようにという役割がありました。現代においては、店舗が正月から営業しないでも済むように、予めおせちを用意する慣習が改めて広がる流れのように思います。

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