「焼肉きんぐ」の物語コーポが午後6時閉店の高付加価値型カフェを出店した理由とは
開店後1カ月間の売上は計画比1.7倍!
物語コーポレーションが競争の激しいカフェ業界にあえて参入したのは、「大きなマーケットで差別化して勝つ」という同社の方針があったためだ。
「新業態の開発にあたり、小さなマーケットは選ばない。カフェの市場規模は約1兆3000億円あるといわれており、中長期的にも拡大するとされている。そのうえ上位企業の寡占率が高くないことから、このマーケットに注目した。都心にしかない高品質で高付加価値志向のカフェをロードサイドに展開すれば勝機があるとにらんだ」(廣瀬氏)
他社で同様のコンセプトを持つカフェとしては、KONA’S(東京都/阿部和剛社長)が運営する「コナズ珈琲」が代表的だ。コナズ珈琲はハワイの食卓をモチーフにした高級志向のカフェ業態で、「プチ贅沢」のニーズに応える空間、メニューを提供している。
物語コーポレーションは「和」をコンセプトとした高付加価値カフェ業態がマーケットに少ないことに目をつけ、お客が憧れを抱くような非日常的な和風デザインのカフェである果実屋珈琲の出店に至ったかたちだ。
同社のねらいどおり、販促は一切していないにもかかわらず、オープンから1カ月間の売上は計画比の1.7倍を記録した。物語コーポレーションによれば、メーン客層は30代以上の女性で、土日にはファミリーも多く訪れるという。「大人になりファミレスを卒業したあと、行きたいと思うカフェがなかった女性層に響いた」と廣瀬氏は語る。
足元の課題は、好調のあまりオペレーション面に余裕がない点だという。今後はフルーツをストックするスペースを増設し、製造のキャパシティを広げる計画だ。
午後6時に閉店するメリット
そのほか果実屋珈琲では営業時間(午前8時~午後6時)を日中に限定することで効率のよいオペレーションを実現している。ポイントは閉店時間を午後6時に設定したことだという。
「一般的なカフェ業態の1日当たりの利益は、午後4時半までに95%が決まる。夜間に利益をとろうとするとそのぶん多くのコストがかかるため、欲張らず割り切ったかたちだ。かわりにテイクアウト用の物販ショップを併設し、収益構造の強化を図った」(廣瀬氏)
そのため店舗デザインはすべて昼を意識したものになっている。建物の天井部分にある柱や梁をあえて目に入りやすいように設計し、インテリアや備品なども木製のものを多く採用した。廣瀬氏は「人の視界に木が映りこむ割合を表す『木視率』が45%あると、人は安心感を抱くことがわかっている。店内が多少込み合っていても落ち着く空間を演出した」と述べる。
午後6時に店を閉めるのは、もう1つメリットがある。それは、女性社員の活躍促進だ。「夜間も営業するレストラン業態では、結婚して子供がいる女性社員が職場に復帰できないケースが多い。午後6時に閉店する店舗なら、そうした女性も職場復帰しやすい」(廣瀬氏)
物語コーポレーションの中期経営計画の重点戦略の1つに、「成長を加速させる新業態開発」がある。果実屋珈琲はその取り組みの1つだ。同社としては今後、果実屋珈琲の早期の業態フォーマットの確立をめざす。