インフレ下でいかに利益稼ぐか?食品スーパーの2025年の商品戦略まとめ

上林 大輝 (ダイヤモンド・チェーンストア 編集者)
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「価値訴求」を意識するバイヤーが増加

 SM各社の24年度上期業績は、多くの企業で販管費率が上昇し、売上総利益率が減少。原材料費やエネルギー費の高騰に加え、賃上げによる人件費の増加などが大きく影響した。商品単価が上がったことで売上は増加したものの、客数・買い上げ点数はともに減少を示す企業が目立った。

 本特集に際して、食品小売業のバイヤーに対しアンケート調査を行ったところ、約7割のバイヤーがこの1年の景況感を「悪い」と回答しており、消費者の生活防衛意識の高まりなどが理由に挙がった。

 競合への意識もまた変化が見られた。アンケート調査によると、各社のバイヤーが競合として意識している事業者では、「ドラッグストア(DgS)」が55.6%で前年に引き続き2位につけている。高速出店を続けるDgSは価格訴求に力を入れるだけでなく、生鮮を含む食品の品揃えを拡充しており、バイヤーにとって目が離せない存在となっているようだ。

 また、「コンビニエンスストア(CVS)」が38.9%と前年から7.2ポイント(pt)伸ばして3位につけた。食品小売各社で総菜をはじめ即食・簡便商品の品揃えを拡充するなか、CVSとの競合度合いがより高まっていることがうかがえる。

 このように外部環境が大きく変化するなか、各SMはどのような方向性でMDを策定しているのだろうか。同じくアンケート調査によると、各社バイヤーのMDの方針として、「付加価値の提供」と「(消費の)二極化への対応」がともに34.5%で並び、「価格訴求」が20%だった。

 実際、本特集で取材したSM各社でも、オリジナル商品の開発や健康志向の商品展開など、「付加価値の提供」を進めることで粗利益の確保を図っていた。インフレ下で節約志向が高まっているとはいえ、価格訴求に振り切っては収益性を維持できない。値頃感は残しながらも、付加価値型の独自商品の開発を加速することで、収益性向上を図ろうとする戦略が共通してみられた。

 そうした独自性を打ち出すうえで核となる取り組みの1つが、PB(プライベートブランド)の開発である。

 アンケートではPB開発・販売戦略において重視しているポイントとして、「味・品質」が前年から2.9pt伸ばして79.6%だったのに対し、「価格設定」は2pt減って63%だった。PBをこれまでのような単純な価格訴求ツールではなく、味や品質面で付加価値をつけてアピールするための商材として位置づけるバイヤーが多いことが見てとれる。

 また、「ブランディング」が46.3%と前年から16.3ptも伸長している点にも注目したい。商品の味や品質を高めるだけではなく、そうした価値やブランドとしての開発コンセプトをいかにお客に伝えるかを重視するバイヤーも増えてきているようだ。

 そうしたなか、PBによる独自性の創出に力を入れているのがサミット(東京都/服部哲也社長)だ。同社は、メーンで取り扱うオール日本スーパーマーケット協会(大阪府/田尻一会長)のPB「くらし良好」と重複しない範囲で、PB「サミットオリジナル」の展開を始めている。納豆や豆腐などの日配品をはじめ、冷凍の餃子やたこ焼きなどの簡単調理の商品など現在約130アイテムを展開している。

 また、今後はサミットで人気の生鮮総菜を冷凍商品化することにチャレンジを広げ、お客の好きなタイミングで温め、自宅でおいしく食べることができる商品を打ち出す方針だ。

 同じくオリジナル商品として、余計な添加物を極力使用せず素材にこだわったシリーズ「素材をそのまま」を展開している。これらは安さだけでなく、お客のニーズに合わせた、手に取りやすい“価格”と“価値”を両立した商品として販売し、ふだん使いしてもらえる位置づけの商品をめざしている。

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記事執筆者

上林 大輝 / ダイヤモンド・チェーンストア 編集者

2000年生まれ。埼玉県出身。法政大学文学部英文学科卒業後、地方新聞社の営業職を経て株式会社ダイヤモンド・リテイルメディア入社。

流通小売の専門誌「ダイヤモンド・チェーンストア」編集部で執筆・編集を行う。

趣味はお笑い鑑賞、音楽鑑賞。一番好きなアーティストは椎名林檎。

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