坪月商87万円を売る超繁盛ベーカリーが「食事パン」を売らない理由とは
看板になりやすい「食事パン」「食パン」が無い店
パンの個性が注目されがちだが、ビジネス戦略も注目したい。それは、一切の「食事パン」の提供をやめ、惣菜パンと菓子パンに特化したことだ。
「食事パン」とは油脂分や砂糖、乳製品を使わず、小麦粉と塩、水、酵母などでシンプルにつくり、パン生地にナッツやドライフルーツといった具材も混ぜ込まない、食事に合わせるパンを指す。代表格はバゲットやカンパーニュだ。未だ「固い」とか、「食べにくい」といった声もあるが、西洋料理の普及で一般家庭の食卓でも市民権を得、パン好きや同業者が店の実力をジャッジする際はまず、バゲットといった食事パンを見るという。作り手も食事パンは“腕の見せ所”といったイメージが業界では根強い。
そうした中で、西脇氏はバゲットを含む食事パンを提供しないことをコンセプトにしたのである。これは個人店としてはかなり稀有な事例だ。もちろん作ることはできるし、現在提供する惣菜パン、菓子パンに使うパンもバゲットに近いハード系パンやライ麦を配合するセーグルなど、食事パンとして売られるようなパンが多い。さらに来店動機に繋がり、ファンを囲みやすいとされている「食パン」の提供も本店限定で1種類に絞っている。
理由は、「リーン(油脂分の少ない)な食事パンは売れますが、大きいサイズの商品が多く、パン生地の量をたくさん使います。一方で惣菜パン、菓子パンに特化すれば、パン生地の量が少量で済み、数を多く作ってたくさんのお客さまに色々食べてもらえると考えました。食事パンが売りのお店は多いので差別化の意味もあります。また惣菜パン、菓子パンに特化することで1種しかない食パンが際立つと考えました」(西脇氏)。
食事パンは大きいサイズで焼くことでしっとり美味しくなるため、発酵させたパン生地の量で約300g〜1Kgの商品が多い上に、材料がシンプルな分、低価格で売られることが多い。
一方で惣菜パン、菓子パンは同じ生地でも1個70gに分割し、具材やソースで個性を出して付加価値をつけることで中心価格帯を1個300円前後に設定できる。つまり、同じ量のパン生地を製造しても販売できる個数と売上に圧倒的に差が出る。
同店では複数の素材やソースを組み合わせるため、原価率が40%強と高いが、前述の工夫と戦略から収益が出る仕組みとなっている。
また、クロワッサン、セーグル、ハード系、ブリオッシュなど、製造する生地の種類を7種類に絞り、100品に展開。生地1種につき、ソースや具材を変化させて10品から商品によっては20品に展開することでバリエーションを広げ、選ぶ楽しみを訴求している。