ミツカングループのD2Cブランド「ZENB」ECチャネルだけで販売好調な理由とは
ミツカングループのZENB JAPAN(愛知県半田市/濱名誠久 代表取締役社長)が展開する、D2Cブランド「ZENB」が好調を博している。スーパーマーケット(SM)やコンビニエンスストア(CVS)に卸さず、ECチャネルのみで販売する。特に人気なのが、タンパク質・食物繊維豊富な黄えんどう豆を100%使った「ZENBヌードル」で、2020年9月の販売開始後、22年1月には累計250 万食を突破した。「健康」と「おいしさ」が一致した、「新たな食生活」を提案するZENBのコンセプトとは。
いつもの麺よりタンパク質3倍、糖質30%オフ黄えんどう豆100%の「ZENBヌードル」
2019年3月に事業をスタートさせたZENB JAPAN。同社新規事業開発マネージャーの長岡雅彦氏は、「『ZENB』のコンセプトはミツカンの創業の経緯と似通ったもの」だと話す。1804年に創業したミツカンは、これまで捨てられていた酒粕に注目し、お酢を開発した歴史がある。ZENBも、「地球環境の危機が叫ばれる新たな時代に、これまで捨てられていた植物の皮や芯、さや、種などを可能な限り丸ごと使ったムダのない商品をつくりたい」という発想を起点にしている。
「ミツカンは2018年に『未来ビジョン宣言』を掲げた。10年後の地球の未来を考えた時に、環境負荷の少ない、植物性食品を有効活用し、人々の健康に食を通じて貢献できないかと考えたのがブランド立ち上げの理由だ」(ZENB JAPAN・長岡氏)
ZENBは「サステナブル」「健康」でありながら、「おいしい」商品の開発にこだわる。250万食を突破した「ZENBヌードル」は、つなぎを一切使わない黄えんどう100%の麺だが、喉越しと食感が良く、無理なく主食として食べられる。特長は、大豆を使った同じグルテンフリー麺特有のボソボソ感・酸化臭がないことだ。黄エンドウ豆は「大豆と違い、脂質とタンパク質のバランスが良く、乾燥させても嫌なクセが出ない(長岡氏)」のだという。グルテンフリーやプラントベースを選択する人健康・環境意識の高いお客の強い支持を受けた。
「『ZENBヌードル』は、糖質制限中の人やグルテンフリーを気にする人からも支持を得ている。食べれば食べるほど健康につながり、おいしい『新たな主食』であることを強く意識して開発した商品だ。大豆や穀物など様々な原料に挑戦し、黄えんどう豆が最も味が良くて様々なレシピに応用できる、添加物に頼らない原料だと気づいた」(同)
黄えんどう豆のうす皮まで”ゼンブ”使ったZENBヌードルは、お茶碗一杯の白米と比較すると食物繊維約6倍、タンパク質約3倍で、糖質は約30%低い。黄えんどう豆は遺伝子組み換えがなく、スウェーデンやインドでは日常的に食べられていた原料だが、ロングパスタとして開発したのはZENBが世界初だ。
一定期間で8食分が届く「定期便」の構成比が一番高く、リピーターを多く獲得した。まさに、「サステナブル」「健康」でありながら「おいしい」商品だと言える。
ZENBがD2Cにこだわるのは、「お客のエンゲージメントを高めたい」から
販売チャネルをECに限る、D2CブランドのZENBは、お客との間で双方向性の関係を築くことにも注力した。公式HP上でZENBヌードルを使ったパスタや焼きそば、汁麵などのレシピを公開しているが、その内100件以上は、ZENBのヘビーユーザーがTwitterやInstagramに投稿したものを掲載。「トマトとアスパラのワンパンパスタ」や「ZENB麺で海老ニラもやし焼きそば」など、お客がアレンジを加えたレシピを共有している。
「SMやCVSに卸さないので認知度は広まりにくいが、その分、既存のお客様との密なコミュニケーションを取ることを意識している。その上でZENBのブランドとしての意思や背景に『共感』してもらうことが重要だ」(同)
お客の声を積極的に取り入れる姿勢は、商品開発にも表れている。2022年1月に販売開始した「ZENB STICKリッチテイスト」はアンケート調査を元に、ユーザーに試作品を何度も送るなど試行錯誤を重ねて開発した。
「とうもろこしやにんじんなどの野菜8種類の皮と芯まで丸ごと使い、キヌアや玄米と合わせた『ZENB STICKオリジナル』は、ブランド開始以来のロングセラーだが、お客から『もっとしっとりとした、スイーツ感覚のスティックが欲しい』という声があった。そこで開発したのが『ZENB STICKリッチテイスト』だ。バターや卵などの動物性食品を一切使っていないが、果汁やココアバターを組み合わせたことで、野菜本来の甘味を活かした濃厚なおいしさが感じられる商品になった」(同)
ZENBが打ち出す商品は、コンセプトが非常に明確だ。だが、既存の流通チャネルで他の商品と横並びで陳列されるだけでは、商品の背景やストーリーが伝わりにくい。ZENBへのエンゲージメントを高めるには、販促をネットに限り、ユーザーとともに商品価値を高めていく仕掛けが必要だったのだ。
10年先の地球の未来のために。量産体制整える
ZENBは、環境・健康意識の高い北米、イギリスでも販売している。長岡氏は、「同地域では主食が小麦だということもあり、『グルテンフリー』商品群が日本よりも一般的だ。ZENBが受け入れられる素地はある」と話す。一方で、現地では競合も多く、知名度はまだ低いという。
価格面も今後の課題だ。「お客様の中には、『値段が高くて続けられない』と話す人も多い。今後は、量産体制を整えて、より多くのお客様に手に取ってもらえるようにしたい」(同)。課題もあるとはいえ、ブランド立ち上げから約3年で、ZENBヌードルをはじめとした人気商品を販売できたのは、ミツカングループにとっても大きな収穫というべきだろう。
「コロナ禍で、『食生活を見直そう』という意識が高まったと感じる。さらに、SDGs(持続可能な開発目標)的な観点も社会の中に広まってきた。ZENBのような『サステナブル』『健康』かつ『おいしい』商品はこれからの潮流になっていくのではないか」(同)
これまで麺類の商品をほとんど開発してこなかったが、調味料チームから精鋭を集めてZENBヌードルを開発するなど、ZENBに本腰を入れるミツカン。「10年後の地球の未来のための食生活」に資する商品を食卓に定着させられるのか、挑戦はまだ始まったばかりだ。