アマゾン、生鮮品当日配送の「ワンカート」戦略とは 物流網とAIでウォルマートに対抗

小久保 重信(ニューズフロント記者)

舞台裏で戦略を支えるAIの新技術

 この大規模な戦略をオペレーションレベルで支えるのが、アマゾンが導入を進めるAIの新技術だ。とくに、同社が「ニューロシンボリックAI」と呼ぶハイブリッド技術は、今後の品質管理とコスト効率を左右する重要な要素となる。これは、AIが事実に基づかない誤った情報を生成する「ハルシネーション」を抑制し、信頼性を高める技術である。

 このAI技術は、物流現場の自動化と精度向上に貢献している。その一例が、新型倉庫ロボット「バルカン(Vulcan)」だ。バルカンはニューロシンボリックAIを用いて空間認識の問題を解決し、人間の作業員に匹敵する速度でアイテムを処理する。

 今回の生鮮品配送戦略においても、バルカンが示すような高度なAI技術が、デリケートな商品を巨大な物流網の末端まで高品質かつ効率的に届けるための基盤技術となる。これは、サービス品質の維持と人件費を含むコスト抑制を両立させる上で、重要な要素となる。

小売業界の勢力図に与える影響

 アマゾンは26年にかけて対象都市をさらに拡大し、40億ドル(約6100億円)超を投じて地方の配送網も強化する計画だ。一方、ウォルマートも「人口95%に3時間以内配送」を掲げる。実店舗小売の巨人とオンライン小売の巨人は、もはやそれぞれの得意領域に安住することなく、同じフィールドで直接競合する新段階に入った。

 今後の課題は、サービスの質だと指摘される。EC事業者としての利便性提供能力と、小売業の原点である品質管理体制を、巨大な物流網の隅々において両立させ続けられるかが問われる。ビューチェル氏が率いるアマゾンの食料品事業は、この2つの卓越性を両立させ、ウォルマートが築いてきた地位にどこまで迫れるのか。その実現力が、今後の米小売業界の勢力図に影響を与えることになりそうだ。

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