アマゾンがねらう“低価格帯の覇権” 新EC「アマゾン・ホール」を世界に拡大
米アマゾン(Amazon.com)は超低価格商品に特化したオンラインストア「アマゾン・ホール(Amazon Haul)」のグローバル展開をねらう。2024年11月に米国で開始した同サービスは、25年後半に欧州への進出を予定。その後、メキシコをはじめとした他地域への拡大も視野に入れている。

アマゾン、低価格帯ECを積極的に展開!
アマゾンは24年11月、衣料品や化粧品、雑貨など、20ドル(約2900円)以下の低価格商品に特化したオンラインストア「アマゾン・ホール」を米国で開始した。同サービスは中国のサプライヤーから商品を直接調達し、豊富な品揃えと低価格を実現している。
この手法は中国発の消費者直送型(D2C)ECサービスである「テム(Temu)」や「シーイン(SHEIN)」が得意とする分野だが、アマゾンも積極的に展開。世界中でシェアを伸ばすこれらの競合に対抗し、低価格帯市場での存在感拡大を図る。
収益力向上にも注力する。米経済ニュース局のCNBCによれば、アマゾン・ホールはインフルエンサーと提携したストアフロントを開設したり、検索結果ページへスポンサープロダクト広告を表示したりすることで、広告収入を積極的に伸ばす考えだ。
アマゾンはこれまでも、自社のECサイトやモバイルアプリでスポンサープロダクト広告枠を拡大し、24年には562億1600万ドル(約8兆1513億円)もの広告収入を記録している。アマゾン・ホールでも同様の広告戦略を展開し、収益化を急ぐねらいだ。
課題は各国規制と「デミニミス・ルール」の弊害
一方で、アマゾン・ホールの世界展開には課題も残る。低価格維持のためのプラスチック包装の多用は環境意識の高い欧州で批判を受ける可能性があるほか、各国で異なるEC規制やデータ保護規制への対応が求められる。欧州連合(EU)にはEC規制やデータ保護規制に関して統一を図るための枠組みがあるものの、完全に一律ではない。
さらに問題となるのが「デミニミス・ルール(De minimis rule)」だ。これは一定額以下の小口貨物に対して関税を免除する制度であり、テムやシーインがコスト削減に利用してきた仕組みである。米国内では近年、この制度を通じた中国からの安価な製品の大量流入が問題視され、米国の製造業・小売業への悪影響や、違法薬物・知的財産侵害品流入のリスクも指摘されてきた。
こうした状況を受けてトランプ米大統領は先ごろ、中国及び香港を対象にしたデミニミス・ルール適用の停止を決定する大統領令に署名。25年5月2日午前0時1分(米東部時間)以降、中国・香港からの貨物には800ドル(約11万6000円)以下でも関税が課されることになった。
これによってテムやシーインは商品に安価な価格設定をすることが難しくなり、米国での成長戦略の見直しを迫られる可能性もある。米国以外でも同様の措置が広がれば影響はさらに深刻になるだろう。
アマゾン・ホールの米国事業にも一定の影響は避けられないが、アマゾンのアンディ・ジャシーCEOは「『アマゾン・ホール』向けの商品の輸入量は(テムやシーインのような)中国系ECよりも少ない」と、楽観的な見方を示している。
しかし、こうした関税強化の流れが他国へ波及する可能性もあり、状況は依然として流動的だ。アマゾンがねらう低価格帯市場の覇権争いにおいては、中国発の競合ECだけでなく、各国政府による政策変更も重要な要素となっている。
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