利用減少から一転、会員数過去最高のアマゾン・プライム 復調の理由は?

岩田 太郎(在米ジャーナリスト)
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宅配の改善でさらなる会員数増へ!

 第2の要因は、アマゾン・プライムの宅配スピードの改善努力だ。米国のアマゾン・プライムでは「翌日配達」が謳われているが、実際には配達量の大きさがアマゾンの配送能力を上回るなどの理由から、それ以上の日数がかかることも少なくない。インターネットでも、「アマゾンの宅配が遅すぎる」などの苦情コメントが散見される。

 そうした状況にアマゾンも手をこまねいているわけではない。とくに都市部などにおいてロジスティックスの強化を行い、同日・翌日配送率を高める努力を行っている。調査企業eMarketerのブレーク・ドローシュ氏は2024年1~3月期の売上増について、「より速くなった無料配達が顧客を引き付けている」との見解を示した。宅配が速くなれば、利用者数もさらに増え、さらに売上を伸ばす好循環が生まれる。

 さらに、今後プライムの利用者数を増やすと思われる第3の要因は、アマゾン・プライムが力を入れる生鮮宅配の強化だ。生鮮の同日配達では、配送料無料になる利用条件を頻繁に変更するなど、利用者を混乱させることもしばしばあった。だが、4月からは毎回の利用で35ドル(約5400円)以上の注文に対しては、月額9ドル99セント(約1550円)で何回でも無料配送が受けられる仕組みに改めた。

 証券会社の米JMP証券のアナリストであるニコラス・ジョーンズ氏は、「新たな利用条件は、新規インフラ投資を必要とせずに競争性を高めるもので、理にかなっている。プライム会員にとっては魅力的だ」と高く評価しており、さらなる会員増につながる可能性がある。

 ただし、生鮮に関しては、アマゾンは競合ウォルマートの会員サブスク「Walmart+」(2022年10月現在で会員数5900万人)やターゲットの「Circle 360」に挑戦し続けているものの、お値打ち感や利便性、特典の面で後塵を拝している現状だ。

 また、多くの消費者は、ウォルマートやターゲットの実店舗での生鮮食品の買物の経験が豊富であるのに対して、アマゾンは主に家庭用品や家電の購入先として認識している。生鮮面においては、アマゾンを「食品の買物先」として見てもらう抜本的なマーケティングの改革が求められているのではないだろうか。

 いずれにせよ、アマゾン・プライムは、インフレ下のセールイベント、配送の迅速化、生鮮宅配の利便性向上で利用者数をさらに増やし、それが売上・収益向上につながっていくと期待される。

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