解消に向かう米小売の在庫問題、次なる焦点は「小売が価格決定権を取り戻せるか」

2024/05/01 05:58
岩田 太郎(在米ジャーナリスト)
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現場経験とAIで在庫レベルを引き下げ

 ここで、ターゲットがどのようにして在庫を圧縮したのかを、決算発表におけるコーネルCEOの発言から読み解くと、面白い工夫があったことがわかる。同社で2022年に在庫が積み上がり問題化した際に、経営陣は人工知能(AI)による在庫適正化を導入した。

 しかし、AIの分析や予測のみで在庫が減らせたわけではない。ターゲットは、在庫圧縮担当チームを結成し、AIの分析と併せてチームの知恵で値引き率を下げながら、同時に在庫も圧縮していったのである。人材の現場経験とAIが相乗効果を発揮したと言えよう。

 こうして見てきたように、米小売各社は「売れ筋の在庫積み増し」「売れない商品の在庫圧縮」で収益を伸ばすことに成功しているようだ。

 こうした中、米金融大手バンクオブアメリカ(Bank of America)のアナリストたちは2月21日に発表した分析で、米小売各社の運送業者への支払い額から業界の在庫レベルの推定を行い、在庫と売上の比率(バランス)が適正水準に近付いていると結論付けた。

 その上で、「2023年に見られたような在庫一掃のための値引きの必要性が低下した」として、2024年に小売各社が値上げによる価格決定権をある程度取り戻す可能性に言及した。

 また、コンサルティング大手の米ボストン・コンサルティング・グループ(Boston Consulting Group)のポール・ゴイダン氏は、「中東の紅海における情勢不安定化などの要因で、サプライチェーンが再び混乱し、コスト上昇による値上げ圧力がかかる可能性」を指摘している。

 過剰在庫の解消や手元在庫の引き締まりによる米小売各社の価格決定権は、さらに強まるかも知れない。

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