アングル:米農家、炭素を吸収する「カバークロップ」に着目

ロイター(ロイター・ジャパン)
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米オハイオ州プレーンシティーの農場
米イリノイ州で農家を営むジャック・マコーミックさんは昨秋、農閑期の作物として大麦とラディッシュを350エーカーに植えた。写真はオハイオ州プレーンシティーで2021年5月撮影(2022年 ロイター/Dave Gruenbaum)

[シカゴ 4日 ロイター] – 米イリノイ州で農家を営むジャック・マコーミックさんは昨秋、農閑期の作物として大麦とラディッシュを350エーカー(約142ヘクタール)に植えた。だが収穫するつもりはない。春になれば除草剤で枯らした上で、同じ土壌に大豆を植える予定だ。

この大麦とラディッシュは食用には使われないが、植えれば独医薬品・農業大手バイエルがマコーミックさんに報酬を支払ってくれる。排出された温室効果ガスを吸収する「カバークロップ(作物)」として、バイエルに「カーボン・オフセット・クレジット」をもたらすからだ。

カバークロップを植える目的は、土壌の回復や土地の浸食緩和に加え、光合成を通じて大気から炭素を吸収することにある。炭素は、土壌内に残された根などの部分に貯留される。貯留量は「クレジット」として数値化され、企業は他の活動で排出した炭素をクレジットによって相殺することができる。

農業はこうして気候変動に適応しようとしている。農家はもはや、食用や飼料用に作物を売って収入を得るだけではなく、炭素排出を抑えるカバークロップを植えて対価を受け取ることもできるのだ。

米国ではカバークロップを植える農家が次第に増えている。その種類はライ麦やオート麦、野菜、ラディッシュまでさまざま。一部はバイオ燃料や飼料に転用されるが、大半は土壌内で朽ちた方が高い価値を生み出すため、収穫しない。

カバークロップは再生農業の柱であり、環境専門家はおおむね、伝統農業よりも進化したものとして好意的に受け止めている。再生農業のアプローチは、輪作、家畜の放牧、化学物質投入量の削減などを通じて土壌の健康を回復し、炭素排出を抑制するというものだ。

ミズーリ大学再生農業センターのロブ・マイヤーズ代表は、カバークロップの作付面積が2021年に最大2200万エーカーに拡大したと推計している。米農務省の直近データによると2017年は1540万エーカーで、43%も増えている。

マイヤーズ氏は、2030年までには年間の作付面積が4000万─5000万エーカーに達すると予想する。

専門家によると、官民の保全プログラムが拡大すれば、作付けの拡大は加速し、種苗・肥料企業に追い風が吹くだろう。もっとも企業は、農家がどのカバークロップを植えるか予想するのは難しいとしている。

バイエル、食品のランドオレークス、穀物商社カーギルなどは過去2年間に、カバークロップを植えて炭素を吸収し、土地の耕作を減らした農家に報酬を支払う「カーボンファーミング」計画を始動した。

米連邦政府は何年も前から保全プログラムに基づき、氾濫原や野生動物生息地など環境保護の必要性が高い土地の耕作を控えた農家に対価を支払っている。バイデン政権はこれをさらに拡大する計画だ。

 

動機

カバークロップの作付け拡大はこれまでのところ、土地保全に熱心な限られた数の農家が引っ張ってきた。土壌の肥沃化や治水など、炭素吸収以外の目的を追求した結果だ。保全プログラムによる支払いでは、種や労働のコストをほとんど賄えない。

「やりたいと思わなければできない」と農家のマコーミックさん。この6年でカバークロップの作付けを10倍以上に増やしており、バイエルから支払いを受けたのは昨秋が初めてだ。

「私がやっている事に対して1エーカー当たりいくらかのお金をくれるなら、受け取る。だがその報酬のためだけなら、やらないだろう。報酬が十分だとは思わない」。カバークロップが土壌の改善につながり、土地が干ばつに耐えやすくなることが一番の動機だという。

専門家の間では、農閑期にカバークロップの作付けを増やせば、収入の柱である主要作物の作付け期間が制限されかねない、との懸念も出ている。カバークロップの種が不足する恐れもある。作付面積が広がれば農業用化学物質の使用量が増加するとも指摘されている。

それでも環境専門家は、土地を半年間休ませて莫大な炭素吸収の機会を逃す従来型農業に比べれば、カバークロップは進歩だと言う。

フード・アンド・ウォーター・ウォッチの調査ディレクター、アマンダ・スターバック氏は「カバークロップはオーガニック・再生農業システムの非常に重要な一部になり得る。ただ、すべては実行の仕方次第だ」と述べた。

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