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重要性増すスーパーマーケットのSDGsとCSR アークスの社会性経営に学ぶ

新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う緊急事態宣言などが解除されました。この1年を振り返ると、東京都で緊急事態宣言及びまん延防止等重点措置が無かったのは、わずか48日だけでした。コロナ禍において、安定した食品供給で消費者の健康を支え、社会的な役割を大いに発揮したのがスーパーマーケットです。

そこで本連載では、今回から数回にわたって、スーパーマーケットの社会性(SDGs・CSR)経営に注目します。CSR(企業の社会的責任)とSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みが、スーパーマーケットの経営にどう位置づけられるか、これから何に注力したらよいのか、皆さんと一緒に考えたいと思います。

スーパーマーケットは次世代社会を創造する基盤

 社会性経営を考えるうえで一番大事なのは、日本のスーパーマーケットは何のためにあるか、その目的を長期的に達成し続けるには何が必要かを再確認することです。企業の社会性とは、企業が超長期で維持発展するため、すべてのステークホルダーとの信頼関係を構築し、維持向上させることです。CSRとSDGsも企業の社会性に含まれます。

 日本のスーパーマーケットの存在目的は、経営理念を読んでもわかる通り、「地域社会における食事を中心とした日常生活を継続的に支えるライフラインとしての機能の発揮」です。地域社会の人々などに働く機会と生きがい、そして教育も提供する役割もあります。お金に余裕がなくても、忙しくても、料理が苦手でも、性別・年齢・身体性などに関係なく、食品と食事を通じ、人々が健康を維持・向上でき、元気に働き勉強し、生活を楽しみ、次世代社会を創造する基盤がスーパーマーケットなのです。

 では、具体的にスーパーマーケットはどのような取り組みを行っているのか、ケーススタディとして特定の企業にフォーカスしてみていきます。

 今回から2回にわたって、ケーススタディの1社目としてアークス(北海道)を取り上げます。アークスがどのような基本方針を持って取り組んでいるのか、社会性経営を組織にどう浸透させているか、従業員・地域社会・環境といったステークホルダーとの信頼関係をどう構築しているかの3点について見ていきたいと思います。

事業会社が率先して社会性経営を推進

 まず、社会性に関する基本方針としてアークスが重視しているのは、地域社会のライフラインであるという役割です。スーパーマーケットは、生活・命の維持になくてはならないもので、地域社会と密着しています。ラルズ(北海道)と福原(同)が統合しアークスが発足した2002年、企業理念に地域社会のライフラインとしての意識を明確に取り入れました。今回のコロナ禍だけでなく、アークスは幾度かの大地震を経験しており、そのたびに自分たちが社会に多大な責務を負っていることを認識していました。スーパーマーケットは存在そのものが社会的であることがわかります。

 次に、アークスがどのように社会性経営を推進しているか見てみましょう。アークスの社会性経営の特徴は、事業会社が率先して取り組んでいる点にあります。事業会社の福原がサステナビリティ推進室を2021年春に設置したのに続き、持ち株会社のアークスでもグループ横断のSDGs推進組織の設立が検討されているとのことです。

 組織への浸透では、情報開示が役立っています。アークスグループが公表している「アークスレポート」やウェブサイトでは、社会性の取り組みに関する特集が組まれ、北海道胆振東部地震での活動の様子、新技術を活用したトランスフォーメーション計画など、各グループ会社の取り組みが紹介されています。社会性に関する情報はSDGsの分類に沿って整理され、細かく記載されています。非財務情報は今後充実されるようです。

従業員との信頼性を構築する3つのポイント

 ここからは、従業員・地域社会・環境といったステークホルダーとの信頼関係をどう構築しているかをみていきましょう。従業員に対する取り組みは、3つのポイントがあります。

 1つ目は、「雇用の安定」です。アークスはM&A(合併・買収)で成長してきましたが、「M&Aの際に従業員を解雇しない、取引先との関係を大切にする」という方針をとっています。グループ入りした企業の従業員に関しては、業績向上を図りながら労働条件を揃えるようにしています。

 2つ目は、「ダイバーシティの推進」です。18年から北海道大学による「『食と健康の達人』拠点」活動に参画し、19年1月には女性の働き方・生き方の議論を重ねました。そして19年8月に「ダイバーシティ推進プロジェクト」を設置。現場の声から課題を認識し、解決のアイディアを出し合っています。さらに20年11月の役員合宿研修会を経て、21年1月にプロジェクトの社内誌『rashiku』を創刊。現場のモチベーションや自主性が高いと、現場に必要な意見を集約でき、残業時間の削減や組織の生産性アップにつながっているようです。

 女性の活躍を支える仕組みも丁寧に整えています。ラルズでは18年店長に女性を登用しました。まずは任せてみて、本部がフォローしています。また、第1期から複数人を登用し、女性同士の横のつながりでお互いにフォローし合えるようにし、毎年1~2名ずつのペースで増やしています。

 3つ目は「インクルーシブな働き方」です。アークスグループでは、従業員一人ひとりが持てる力を最大限に発揮できる環境づくりがめざされています。人事制度では、たとえば「1日2時間だけ」「日曜日のみ」といった勤務も可能です。また65歳の定年を過ぎた従業員には、再雇用制度を用意しています。半日単位の有給休暇制度も導入しています。

環境保全でも多数の取り組み

 続いて地域社会に対する取り組みを説明します。アークスでは、地域のライフラインとして日常の安定的な食品提供はもとより、震災時に備えてグループ全体で39の地方自治体と災害時支援協定を締結しています。ユニバース(青森県)では災害用備蓄倉庫も設置しています。

 地域社会で住民の健やかな心と体を育むため、食育セミナーや料理教室、収穫体験といったイベントも企画・運営しています。福原では、地域住民の健康促進と交流につながる野球、サッカー、バレーボール大会などを長年支援。子ども食堂への食材提供も実施しています。

 環境に対する取り組みでは、08年より北海道内グループ企業でプラスチック削減のためにレジ袋を有料化し、その売上を北海道CGC「みどりとこころの基金」に寄付しています。収益金は、千歳の山林保全のほか、北海道の高校生に対する奨学金など社会を支えることに使われています

 ラルズでは、トラックの使用比率を落として貨物物流にする「モーダルシフト」を通してCO2削減に取り組んでいます。この取り組みが評価され、17年にグリーン物流優良事業者表彰における経済産業省商務・サービス審議官表彰を受賞しました。

 そのほか、顧客・取引先とともに3R(Reduce/Reuse/Recycle)運動も推進しています。資源循環型社会の実現をめざし、3R運動を含め、さまざまな資源の回収に力を入れています。店舗には、リサイクル品の回収ボックスと、古紙・資源物の回収コーナーが設置されています。ユニバースは、3Rへの取り組みが評価され、17年に青森県から循環型社会形成推進功労者に、18年には環境大臣から3R活動優良企業に表彰されました。

 アークスでは、地域のライフラインとして機能を発揮するという、社会性を重視する企業理念が02年に策定されています。企業統合を進める中で、社会性を重視する基本方針に基づいて、事業会社各社が積極的に従業員、地域社会、そして環境への取り組みを推進している様子が伺えます。

 そこで次回は、こうした社会性への取り組みが、アークスの商品戦略・店舗戦略・接客サービス戦略にどう具体化され、企業の発展に結び付いているかを見ていきたいと思います。