3月14日、気象庁は東京(靖国神社)での桜の開花を発表、東京では統計開始以来、最も早い開花となった。一方、同日午後、都心では雪が降り、桜と雪が同居する事態となった。天候や世の中など諸々の不安定さを予感しながら、今日も小売業界に少々思いを馳せるのであった。(本稿は全3回で構成された「無理解の壁」の続編<第4弾>です)。
動きだしたイオンの地域再編
3月になり、イオンの地域再編が九州を除く5エリアで動きだした。この「地域再編」とは、イオンが2018年10月10日付で発表した「スーパーマーケット改革」を示す。ここでは便宜的に“地域再編”と呼びたい。
当該リリースの主な内容は、スーパーマーケット(SM)事業の強化を目的として、全国6エリア(北海道・東北・東海中部・近畿・中四国・九州)ごとに事業会社を再編するというものである。具体的には、北海道ではイオン北海道とマックスバリュ北海道(以下MV)、東北ではイオンリテール東北カンパニーとMV東北、東海中部ではMV東海とMV中部、近畿ではダイエーと光洋、中四国ではMV西日本とマルナカおよび山陽マルナカ、そして九州ではイオン九州とMV九州の経営統合である。
19年3月のMV西日本によるマルナカと山陽マルナカの完全子会社化を皮切りに、同年9月にはMV東海によるMV中部の吸収合併へと続き、そして20年3月はイオン北海道によるMV北海道の吸収合併、イオンリテール東北とMV東北の統合、ダイエーによる光洋の完全子会社化が続く。東北エリアでの再編では、MV東北が株式交換によってイオンの完全子会社になり、その上で会社分割によって切り出されたイオンリテール東北カンパニーの食品・日用雑貨・ディベロッパー部門を承継するプロセスを経る(新商号「イオン東北」)。
統合内容に関して継続協議中の九州エリアを除き、SMの地域再編に関しては事実上、この3月で新体制がスタートした形と言えよう(図表)。
地域再編の2/3はGMS+SMの組み合わせ
さて、イオン側の発表は「スーパーマーケット改革」であったが、再編対象の企業群の業態を見る限り、GMSとSMの統合が6エリア中4エリアと2/3を占め、SM同士の統合は2エリア(東海中部・中四国)のみである。
18年10月の発表当時、業界関係者の感想は“難度は高そう”が多かったように思う。SM+SMの組み合わせのエリアに関しても、上場SM同士の経営統合である東海中部(MV東海・MV中部)は別として、中四国は上場SMと非上場SMとの組み合わせであり、かつ各々相応の規模であるため、統合作業は大変そうとの見方もされていた。
実際、19年2月期決算説明会においてMV西日本の加栗章男社長(当時)は、マルナカの有する生産者との調達ルートの強さを評価しつつも、(上場企業と非上場企業における)管理体制面での違いを指摘し、ガバナンス強化の必要性をコメントしていた。そしてMV西日本の統合初年度の業績は、20年2月期上期(3-8月)実績で前年同期比3割営業減益(連結営業利益8億円)となり、平尾健一社長(19年9月就任)へのバトンタッチ後の同第3四半期累計(3-11月)実績も連結営業赤字1.7億円を計上し、赤字転落となった。
SM同士の組み合わせであっても苦戦模様となっている事例を見ると、GMS+SMの組み合わせとなっている他エリアにおいても事業統合のハードルは高そうと推察される。
当サイトにて3回にわたってGMSとSMについて語ってきた。主な論旨は、同じ食品を取り扱いながらもGMSの食品売場とSMは全く別物であり、稼ぎ方・利益確保の方法は対照的である、そして、単純な事業統合はSM側をスポイルしてしまうと言うものであった。必然的にイオンの地域再編に対する筆者の見方は厳しい視線を向けることとなる。
現場レベルでは現実的な対応策を模索・推進
一方、事業統合の当事者達=事業会社の経営者・現場担当者達は前に進むしかない。(トップダウンで突然、降ってきたかもしれない地域再編の指示に対して)できうる限り実効性のある施策を現場目線で模索・検討し、実行していくのみであろう。
北海道と九州での取り組みはその試金石となるかもしれない。両エリアともGMSとSMの統合であるが、アプローチは異なる。北海道は吸収合併方式(20年3月)、九州は持株会社設立予定(現時点)である。
北海道では、イオン北海道(GMS)によるMV北海道(SM)の吸収合併が完了し、3月1日付で新生イオン北海道が発足した。イオン北海道の青柳英樹社長は、19年2月期決算説明会にて、(GMSとSMの経営統合に関し)物流インフラ部隊に対して配送の最小単位をMV側に合わせるように指示している旨をコメントしている。
同説明会における青柳社長の説明によると、同氏はマックスバリュ(イオンによる旧MV)の創業プロジェクトに参画していたことでSMの特性を経験しており、SMの小ロット対応の必要性を認識しているとのことであった。
続く20年2月期中間決算説明会において、青柳社長は「地域単位で営業事業部をまとめるものの、お客さんがGMSとSMを使い分けていることを踏まえて、データを見ながら商品やプライシングをGMSとSMとで変える必要がある」と前回説明会から踏み込んだ考えを示している。
こうした方針の下、新生イオン北海道の取り組みは始まったばかりである。新組織におけるGMS・SMの運営が巡航速度に乗るにはある程度の時間が必要とみられるが、今後の動向は注目されるかもしれない。
九州では、GMSとSMはオペレーションが異なるとの認識に立った上で両事業を持株会社の下に置き、(一本化による統合効果が大きいと見込まれる) 商品面・管理面は持株会社に集約する方向で検討しているようだ。ただし、イオン九州はイオン北海道との意見交換もしている模様で、九州における統合方式の詳細は流動的かもしれない(イオン九州の柴田祐司社長はイオン北海道の社長も歴任しており、両社の情報交換は自然な流れとみられる)。
残念な歴史が繰り返されるのか、新章スタートとなるか
上記で紹介した通り、各地の地域法人はGMSとSMの経営統合に際しても現実的で実効性のある方法を模索・検討し、実行しようとしている。
小売業は“やってみないと分からない”ところがあり、走りながら修正していく面もある。1~2年後の成果はどのようになっているであろうか。
願わくば、新たな歴史の1ページが記されることを期待したいと思う。
桜の開花が進みつつも、まだ少し肌寒い桜並木を散策しながら、そんなことを思う今日この頃である。