デジタル活用の新局面!H2Oリテイリングがめざす新たな小売モデルとは
DXでリアル店舗の利便性も向上
──百貨店のリアル店舗におけるDXの状況はいかがでしょうか。
小山 カード決済をその場でできるタブレットPOSの導入を進めています。阪神百貨店では60台、各店舗でも数十台の無線タブレットPOSが稼働中で、年度内に約5000台を投入する計画です。
タブレットPOSの導入によって、たとえばお客さまにコスメの商品を実際に試していただきながら、従来のようにレジカウンターへ移動せずにその場で決済まで完了できるようになり、従業員、お客さまともに利便性が大きく向上することが期待されています。
また、一部店舗ではお客さまの情報を即座に参照できる接客用タブレットの実証実験を開始しました。将来的には「タブレットPOS」「接客用タブレット」「スマートフォン」の機能を集約したデバイスを導入したいと考えています。
こうした無線タブレット導入の本格化に向け、今後3年をかけて店舗ネットワークを整備し、店内のWi-Fi強化などを含めたデジタル環境を構築していく予定です。

日本IBM、ファイザー、PwCを経て、
2014年に三越伊勢丹ホールディングス役員兼
三越伊勢丹システム・ソリューションズ
代表取締役社長に就任。
17年よりPwC Japanグループで
小売・流通セクター統括パートナーを務める。
21年4月、エイチ・ツー・オー リテイリング
執行役員に就任。IT・デジタル推進室長として、
デジタル戦略の推進を担う
──食品事業のデジタル戦略についてはいかがですか。
小山 現在、「阪急オアシス服部西店」(大阪府豊中市)で、トライアルホールディングス(福岡県/亀田晃一社長)グループのRetail A(I 東京都/永田洋幸代表取締役CEO)が開発したスマートカート「Skip Cart」(以下、スキップカート)導入の実証実験を始めています。スキップカートとはお客さま自身がスキャンをしながら買物できる、セルフレジ機能つきスマートカートシステムです。
そのほか、フルセルフレジの導入やAIカメラによる顧客行動分析の実施も視野に入れており、構想段階ではありますがゆくゆくはAIを活用した「デジタル店舗」も展開していきたいと考えています。
──26年度の海外富裕層向けの売上高目標を約500億円に設定しています。訪日外国人客向けのDXはどのように推進していくのでしょうか。
小山 既存のVIP顧客向けカード制度を活用することで、定期的に来店する訪日外国人顧客を識別する仕組みを構想しています。パーソナライズされた情報を提供したり、スマホアプリを活用して訪日前から情報を提供したり、来店や商品の予約を可能にするようなサービスを提供したいと考えています。また、越境ECの拡充により、日本国内だけでなく、海外からも当社で扱う商品を購入可能にする仕組みを構築予定です。
ただし、こうしたサービスを実現するためにはEUのGDPR(一般データ保護規則)や、中国の個人情報保護法に準拠したデータ管理が求められます。現在はその準備を進めている段階です。
社内で開発した生成AIを活用
──情報セキュリティについてはどのように考えていますか。
小山 近年、セキュリティやガバナンスの専門家を外部から採用し、組織体制を強化しました。さらに、外部協力会社の手を借り、すべてのユーザーやデバイスを認証する「ゼロトラスト化」を進めています。本社をはじめとした主要拠点にはすでに実装済みで、全社への展開を進めています。
また、顧客データを利用する際には、必ず情報取得や利用の許可を求める「オプトイン」を取得することをルール化しました。これにより、プライバシー侵害を防ぎながら、パーソナライズされたサービスを提供できるようにしています。
従業員のセキュリティ教育も進めており、デジタルアセスメントによるリテラシーの評価なども行っています。
──「デジタライゼーションによる効率的な働き方の促進」の一環として社内開発した生成AIを活用しています。
小山 社内向けの生成AIツール「クマ吉」を社内で段階的に展開しています。このツールはノーコードアプリ開発ツールの「App Sheet」とAIプラットフォームの「Vertex AI」を組み合わせて、社内で開発しました。
「クマ吉」は、社員が業務で生成AIを活用しやすいように、用途ごとのテンプレートを用意しています。たとえば「文章から百貨店っぽいタイトル作成」「売場レイアウト提案」「SNS投稿前レビュー」「仕事の悩みを聞いてくれるおばあちゃん」などです。社員の業務負担を軽減し、とくにデータ整理や文章作成の効率化に寄与しています。社内から「自分も利用したい」というリクエストも多く届いているようです。
──デジタル推進の今後の方針について教えてください。
小山 われわれはデジタル活用を推進していますが、それはお客さまと向き合う現場があってこそです。つまり、DXは手段にすぎず、それを用いて何を成し遂げていくのかが肝要です。先にも述べたとおり、現在はこれまで整えたIT基盤を現場でどう活用するかのフェーズに移っています。そのため、今後はいっそう現場を第一として注視しつつ、デジタル戦略を推進していくことが不可欠だと考えています。
会社概要
| 本社所在地 | 大阪府大阪市北区角田町8-7 |
| 資本金 | 177億9600万円 |
| 代表者 | 代表取締役社長 荒木直也 |
| 設立 | 1947年3月7日 ※2007年10月1日 商号変更 |
| 連結売上高 | 6574億円(2024年3月期) |








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