デジタル活用の新局面!H2Oリテイリングがめざす新たな小売モデルとは
※本記事はダイヤモンド・チェーンストア3月1日号別冊「流通テクノロジー」の一部記事を再編集したものです。文中の所属・肩書等は発行時点のものです。
関西を本拠とし、百貨店や食品事業を展開するエイチ・ツー・オー リテイリング(大阪府/荒木直也社長:以下、H2O)。同社はこれまでに約243億円を投資してIT基盤を整備し、OMO型の購買体験の実現や、社内業務の効率化など、積極的にデジタル戦略を推進している。
そのDX(デジタル・トランスフォーメーション)戦略について、同社の執行役員でありIT・デジタル推進室長の小山徹氏に聞いた。
グループを横断した顧客情報の統合を推進
──H2OがDXを推進してきた背景を教えてください。
小山 H2Oは2021年に「長期事業構想2030」を策定し、その中で、顧客起点のビジネスモデルをめざす「コミュニケーションリテイラーへの転換」という方針を発表しました。具体的には、デジタルを活用したコミュニケーションを通じて、お客さま一人ひとりに適したさまざまな商品やサービス、新たな価値を提供することをめざす施策です。
この方針を推進していくために、会社の上層部とIT・DX推進担当である私との討議の場として「IT・デジタル経営委員会」が設置され、「長期事業構想2030」実現に向けたデジタル化が本格的に開始されました。

──DX戦略の現況はいかがでしょうか。
小山 私がIT・デジタル推進室長に就任した21~23年度にかけて約243億円を投資し、個別に最適化されたシステムを整理して、全社共通のIT基盤の構築を推進しました。現在8割程度が完了しています。
また、百貨店、ECサイト、食品スーパー(SM)、商業施設などの事業部門ごとに分散していた顧客データを統合するため、グループ内で共通化した顧客ID「H2O ID」を導入するなどしてデータ基盤を構築。ほかにも社内業務効率化のために生成AIも開発しました。
24~26年度にかけては約260億円を投資し、構築したIT基盤を業務に活用して「OMOスタイルの実現」「自社データの整備・拡充」「デジタライゼーションによる効率的な働き方の促進」につなげていくフェーズに移行しています。
──「H2O ID」導入の進捗について教えてください。
小山 これまでに、百貨店のECサイト「阪急阪神百貨店オンラインストア」などへの導入が完了しています。今後は、26年をめどに百貨店の実店舗への導入を完了し、その後SM、商業施設など含め、グループ全体の情報を一元管理していく予定です。
さらに、名寄せ(重複データの統合)を行い、一人の顧客の行動を網羅的に把握していきます。お客さまへの理解を深めるために、将来的には世帯単位での顧客データの管理も検討しています。
──情報の一元化によってどのような顧客体験を実現しますか。
小山 一人ひとりのお客さまに適した購買体験を提供するとともに、オンライン・実店舗におけるシームレスな買物体験を実現したいと考えています。具体的には、顧客の特性を把握してそれぞれに適した販売促進を行うほか、購買頻度や特定領域の関心の高さなどから顧客を識別し、たとえば限定イベントや試着会への招待など特別サービスを提供します。
また、現在は「阪急百貨店」や「阪神百貨店」の実店舗とECサイトがそれぞれ個別に顧客情報を管理しており、たとえばECサイトのお得意さまが店舗に来られても、識別することが難しい状況です。もちろんお客さまの許可を得たうえでですが、今後H2O IDによってグループを横断した顧客の購買状況を従業員が把握することができれば、店頭における接客も大きく変わってくるでしょう。
そのほか、実店舗とECのデータを一元化し、まるで店舗で買物をするようにECで商品を購入できる仕組みを提供できれば、と考えています。
こうした取り組みを推進するためのハブとして、百貨店事業において25年秋口をめどに会員証機能を付与した新アプリのリリースを予定しています。H2O IDによって、百貨店の実店舗とECにおける顧客の購買履歴や会員情報を統合し、パーソナライズされた最適な情報を提供する仕組みを現在構築中です。