アパレル企業が倉庫自動化の前に検証すべき「物流最適化の大原則」とは

小島健輔 (小島ファッションマーケッティング代表)

アパレル業界に限らず、労働力の逼迫もあって物流倉庫の自動化が急がれているが、物流倉庫運営の効率化・自動化が目的化して、ロジスティクス総体の最適化とは必ずしも一致しないケースが目に付く。自動化で倉庫運営自体は効率化できても、調達・配分・補給の一次物流から再配置の二次物流まで一貫するロジスティクス総体の効率を損なっては本末転倒という誹(そし)りは免れない。物流の基本原則から店舗物流と通販(EC)物流の一元化、在庫効率と顧客利便まで「全体最適」という視点で検証する必要がある。

アダストリアの最新自動化倉庫に見る違和感

 最近、稼働したばかりのアダストリアの最新鋭自動化物流倉庫(常総物流センター)のPR動画を見て、強烈な違和感を否めなかった。自社のPR用に作成してYouTubeに公開している動画だから自画自賛のはずだが、入荷した商品を専用コンテナに入れ替えて自動棚入れシステムの自走ラックに人力で載せるシーン、ピッキングした個々の商品を中国製の小さな自走ロボットに逐一、人力で載せるシーンを見て、今時、ありえない人海作業に驚かされた。

アダストリアが公開している「アダストリア・ロジスティクス 常総物流センター」の紹介動画

 段ボールで届いた商品を人力で自動棚入れシステムの専用コンテナに入れ替え、人力で自動棚入れシステムの自走ラックに積み込むのは二重の不合理を感じるし、巨大な倉庫の中を多数の自走ロボットが行き交う様は確かに未来的(?)だが、各店舗の出荷段ボールまで商品を運ぶ小さな自走ロボットのトレイに作業員が逐一、商品を載せるのは不思議な光景で(ここってFCじゃないよね?)、半世紀前のトータルピッキングの自動振り分けコンベアシステムの方がはるかに合理的に思えた。

※DCとTCとFC・・・入荷した商品を棚入れしてからピッキングして出荷する保管型のDC(Distribution Center)に対し、棚入れせず仕分けして送り出す通過型の物流施設がTC(Transfer Center)で、FC(Fulfillment Center)は通販の出荷用DC。

 おそらく、従来は手作業で行なっていたプロセスを自動化した結果だと推察されるが、「入荷商品を各店舗に仕分けて出荷する」プロセス総体を最適化するという視点で設計すれば、全く別の自動化が仕組まれたのではないか。店舗業態だけでも40ブランド、EC専業も含めれば68ブランドに達するアダストリアの多数の事業は、ファストな横売り型から一部は計画生産の縦売り型までMDもサプライも様々でパターン化したプロセスが組めず、物流部門(子会社のアダストリア・ロジスティクス)としては現況対応の課題解決に徹するしかなかったのだろうが、それでは全社ロジスティクスの最適化は見えて来ない。

※縦売りと横売り・・・同一品を備蓄補給して大量継続販売するのが「縦売り」、バラエティを揃えて少量を蒔き切りで売り切っていくのが「横売り」。

 まずは多数の事業の物流プロセスをパターン化するのが先で、自動化プロセスに乗らない事業は自動化ラインから外してバイパスラインや外注で対応するなどの割り切りも必要だったのではないか。もっと根本的な課題として、多数の事業を選別して成長事業・高効率事業に集約するなど、事業構造そのものを効率化するという経営判断も必要かと思われる。

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記事執筆者

小島健輔 / 小島ファッションマーケッティング 代表

小島ファッションマーケティング代表取締役。洋装店やブティック、衣料スーパーを経営する父母の下で幼少期からアパレルとチェーンストアの世界に馴染み、日米業界の栄枯盛衰を見てきた流通ストラテジスト。マーケティングとマーチャンダイジング、VMDと店舗運営からロジスティクスとOMOまでアパレル流通に精通したアーキテクトである一方、これまで数百の商業施設を検証し、駅ビルやSCの開発やリニューアルにも深く関わってきた。

2019年までアパレルチェーンの経営研究会SPACを主宰して百余社のアパレル企業に関与し、現在も各社の店舗と本部を行き来してコンサルティングに注力している。

著書は『見えるマーチャンダイジング』や『ユニクロ症候群』から近著の『アパレルの終焉と再生』まで十余冊。

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