大胆な発想の転換が必要な時代 ECとQRに対する大きな誤解と新戦略
SPAという言葉は「製造小売業」と訳されている。自分でものづくりを管理し、自ら販売することを、アパレル業界だけでなくすべてのCPG (コンシューマ・グッズ:一般消費財)産業に当てはめて、世間ではコミュケーションをされているようだ。
しかし、SPAの権化とも言えるファーストリテイリングは自家工場を持っていない。どことは言わないが、メーカー系アパレルは独自Webを立ち上げて「直営店舗」と呼び、自らをSPAと呼んでいる。
あるいは、ダブルレジ(デベロッパーのレジとアパレルのレジ)にダブルインプットして、アパレルのレジで管理会計上の売上高を計上し、デベロッパーからの支払い明細書と突き合わせ、財務会計上の違算管理をして売上修正しているというやり方をSPAと呼んでいるケースもある。この複雑な仕組みは、米国企業に勤めていた私が外国人に説明するときもっとも苦労するところだった。

変わるブランドの役割
1990年以前、アパレルは「メーカー」に産業分類されていた。当時はDCブームといって、原価300円程度のシャツにブランドネームをつけて1万円以上で販売していた時代だ。もともと、「ブランド」とは、欧州の貴族文化が発祥で、庶民と差異化するために生まれたものである。彼ら高貴な身分の人たちは、独特の英語を語り、急激に成功して金持ちになった「成金」とは異なり、「血筋」を大事にした。そこに目をつけたのが、今のメゾンと呼ばれるブランド・コングロマリットだ。
この「ブランド」を当時の成金国家である日本に持ち込んだところ、「自分たちは世界で二番目の金持ちだ」という自負もあり、「ブランド品」は売れに売れた。当時の日本人の共通認識は「自らは中の上クラス」というものだった。しかしバブル崩壊後、世界で3番目のアパレル消費国となった日本に、世界企業が攻め込んできた。「ZARA」「Abercrombie」「H&M」「Forever 21」である。最近では、「Shein」「AliExpress」などが、中国広東省に山のように捨てられた残反や残品を数百円という激安価格で世界にばらまいた。
失われた35年を経て、日本の労働生産性は10位に転落。1人当たりGDPは韓国にも抜かされた。「将来不安」と「年金崩壊」への危機感、世界的潮流であるSDGsも相まって、国のお金の動きは停滞。上がらぬ賃金で生活苦が続いている。お金が流れなければ、経済は動かない。国民も「不況の時代に着飾ってバブル時代のように生活を謳歌する」という感覚は持ちえていない。ユニクロのように、装飾を極力排除し、素材から開発して定番品を世界一と言われるコスパで販売するアパレルがどんどん市場を奪い、毎年のように過去最高益を更新しているのはこのためだ。
これを「安いからだ」「規模がでかいからだ」としか見ていない人は、ファーストリテイリングの本当の怖さを知らないと言わざるを得ない。彼らが、これほどマーケティングを外さないのは、店を出すときは経営トップが自ら出向き、店舗開発担当者とディスカッションしながら、「現場」「現実」「現物」の三現主義を貫いているからだ。
さすがに、これだけの所帯になると、チェーンストアからエリア制・個別企業経営へ大きく舵取りを変えているものの、彼らの三現主義は変わらない。ユニクロを研究すればするほど、彼らが愚直なまでに基本を順守し、トリッキーな飛び道具に飛びつくことなく、事業目的ドリヴンなデジタル開発を推進していることがわかる。つまり、「魔法の玉手箱」など存在しないことがわかってきたのである。ユニクロがやっているのは、世界の潮流を正しく読むこと、つまり正しいマーケティング分析なのである。
今のアパレル経営者に必要なこと
最近、私への講演依頼、執筆依頼はマクロ環境についての話が多くなってきた。実際、私の本業は市場分析を行うシンクタンクではない。個社の置かれた状況を分析し、消費者の嗜好の変化を正しくつかみ、個社に対してテーラーメイドで処方箋を書くコンサルタントである。しかし私は、必ずマクロ動向から話を始めるようにしている。というのは、私が過去に事業再生に成功した事例を振り返ると、マクロ動向に忠実・愚直に進め、むしろ、不要なことはしていない事例ほど成功しているからだ。
たとえば、これから日本人の平均年齢が上がると聞けば、シニア向け事業をやる。インバウンドが増え、日本製の化粧品が売れると聞けば、化粧品会社を買収するなどである。何も難しい話ではない。いたってシンプルなのだ。これに対し、業績が悪化している企業は横文字が多く、「米国で流行ったことは4年後日本に来る」とか、「あのアパレルがやっている」「あの有名な先生がこういった」というような、風が吹けば桶屋が儲かる的な論理の飛躍で物事を進めている。
ファンドもそうだ。一時流行ったターンアラウンド・事業再生に手を出すファンドは少なくなってきた。過去の統計をみれば、上りのエスカレータに乗るのが最もパフォーマンスがよい。逆に下りのエスカレータを全力疾走して上まで登る再生系投資はパフォーマンスが悪いのである。有望なインダストリー、成長中の企業への投資が増え、経営課題がはっきり見えていても下りエスカレータ(業績悪化中)の産業案件には投資をしなくなってきた。したがって、今、アパレル経営者にもっとも必要なのは、世界のマクロ情勢、そして次の世代を担う若者の立ち位置をしっかり理解することだと思う。










