カスタマーハラスメント抑止・リスクヘッジに有効!5つの対応策を解説

西尾 晋(エス・ピー・ネットワークエス・ピー・ネットワーク執行役員・総合研究部担当/主席研究員)
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<対応策④>警察対応に持ち込む場合の対応策

 迷惑行為などのカスタマーハラスメントが行われた場合、企業としては毅然とした対応を行うことが極めて重要である。最近の複数の飲食店での迷惑動画事案でも、被害にあった企業が警察対応および損害賠償請求を行うなど、各企業は毅然とした対応を行っているが、このような流れは今後も加速していくだろう。企業として、迷惑行為やカスタマーハラスメントに対して、このような毅然とした対応を徹底して行っていく必要がある。

 警察対応については、行為者側の故意性・悪質性を明確化して、警察が対処しやすくなる工夫も必要である(前回記事を参照)。また、警察対応に関して補足すると、迷惑行為を含むカスタマーハラスメントを行ったお客さまが、傍若無人な振る舞いをしたり暴れたりすることで、従業員や他のお客さまが受傷する可能性が高いなど緊急性を有する場合は、警察官職務執行法に基づく保護を求めるなどの対応も視野に入れてもいいだろう。

 こうした場合は、110番通報して、迷惑行為をするお客さまが店内で暴れているなどの状況を報告したうえで、従業員やほかのお客さまが怪我をする可能性があると緊急性の高さを伝える。そして、警察官の臨場を要請することが重要となる。

 警察官職務執行法第3条では、「異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して次の各号のいずれかに該当することが明らかであり、かつ、応急の救護を要すると信ずるに足りる相当な理由のある者を発見したときは、取りあえず警察署、病院、救護施設などの適当な場所において、これを保護しなければならない。一 精神錯乱又は泥酔のため、自己又は他人の生命、身体又は財産に危害を及ぼすおそれのある者」と規定されており、警察官の臨場を要請しておけば、精神錯乱の状況などが認められ、自傷他害の危険性があると警察官が判断した場合は、「保護」による対応も可能となるからである。

<対応策⑤>社内体制の整備

 迷惑行為などのカスタマーハラスメントが行われた場合は、現場で適切に対応するのはもちろんのこと、事件化やSNSなどによる拡散を視野に入れた組織としての初動対応を適切に行う必要がある。

 そのためには、事案発生時の報告ルール、報告要領・基準、報告内容、現場への支援体制(応援要員や管理者などの急派)、広報との連動も含む危機管理体制の整備などの体制整備も欠かせない。現場でカスハラなどの被害を受けたり、受傷した従業員がいたりした場合の対応要領(病院付き添いやメンタル面を含むフォローアップ)も必須である。刑事事件化を見据えた場合は現場での犯罪事実の確認や証拠保全、警察対応を行えるスキルを有した人材が必要になる場合もある。

 自社でそのような体制整備や人員確保ができるのであれば、しっかりと体制整備や人材確保を行うとともに、とくに危機対応に関する研修やトレーニングも実施しておく必要がある。自社で体制整備や人材確保を行う場合は、現場経験が豊富なスタッフやOBを配置することも、一つの手である。

 また、自社での体制整備が不十分な場合は、このように現場に駆けつけて諸々の対応・支援を行える機動性の高い専門家と連携するなど、体制整備を行っておく必要がある。迷惑行為を含むカスタマーハラスメントへの対応は、従来のクレーム対応の枠組み・体制だけでは対処しきれない場合があり、法務・広報・危機管理・人事労務的な視野・ノウハウも不可欠であることを認識しておかなければならない。

 本稿は、迷惑行為を含むカスタマーハラスメントへの対応を中心に解説してきた。このロジックは、前回解説した対応策とともに、さまざまなケースで活用できるセオリーである。暴言・暴行・ハラスメント行為、迷惑行為(禁止区域での喫煙なども含む)のほか、たとえば、インターネットの動画媒体にアップするために無断撮影を行おうとする者などによる撮影行為に対しても、同様のロジックで対応することが可能である。汎用性が高いセオリーだけに、現場にしっかりと周知、研修しておくことで、現場の従業員の不安を解消できる。

 次回は、危機管理の専門家から見た、リアル店舗小売業で想定されるその他のリスクについて、事例や対応方法を交えて、解説する。

 

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