人口減少に高齢化、人手不足にECの台頭、足元ではコスト高時代に突入しメーカー商品の値上げラッシュが続くなど、スーパーマーケット、とくに売上規模の小さい中小スーパーの経営環境は厳しさを増す一方だ。近年は大手チェーンによるM&A(合併・買収)も続いており、資本力で劣る中小スーパーが続々と大手の傘下に取り込まれている。中小スーパーは今後、どのように生き残りを図っていくべきなのか。人口減少時代における中小チェーンの勝ち残り戦略について、中小スーパーの経営コンサルティングで実績多数の鈴木武夫氏が解説する。
課題山積のローカルマーケット
首都圏などの大都市圏と地方とではマーケットは大きく異なります。都市部においては来店客は徒歩や自転車が中心、半径500m、あるいは1km圏内でも商圏人口は数万人に上ります。一方、地方においては、徒歩・自転車での来店客は少なく、90%以上はクルマでの来店となります。商圏も5~10km圏内 が当たり前の世界で、その広さでやっと商圏人口は数万人という規模です。
大都市圏では、高齢者の運転免許証の返納などがニュースなどで取り沙汰されますが、地方では「運転免許証返納は考えられない」という人が多くいます。鉄道やバスなどの交通インフラがまったくと言っていいほど整っていないためです。
このように、地方を本拠とするスーパーマーケット企業の経営環境は非常に厳しいのが現状です。本連載では、人口減少が急激に進むローカルエリアにおいて、スーパーマーケットが生き残り、そして勝ち残るためには何が必要なのか、これから何を始めるべきなのかについて考えてみたいと思います。
現在、地方は人口減少、高齢化(お客だけでなく従業員の高齢化も)、人手不足、最低賃金の上昇、ネット販売の急伸に加え、足元では世界経済の混乱に伴う原材料高騰による商品の値上げ、水道光熱費の高騰などに直面しており、経営環境は厳しさを増す一方です。
もちろん、大都市圏も同じ課題に直面していますが、異なるのはそれらが深刻化するスピードです。とくに地方における人口減少や高齢化のスピードは大都市圏の比ではなく、これらへの対応は喫緊の課題です。また、これらの問題はスーパーマーケットだけでなく、競合するドラッグストアやホームセンター、外食産業も同じであることも忘れてはいけません。
地域No.1チェーンの存在
ご存知のように、日本の国土の70%は山地で、各都府県の県境は高い山々、あるいは大きな河川によって区切られています。小売業が「地場産業」と言われる由縁でもあります。
みなさんが生まれた地や生活する地、あるいは店舗展開するエリアを思い返してみて下さい。各都道府県には、それぞれ有力スーパーといわれるチェーンが存在しているかと思います。「地域シェアNo.1」と言われるスーパーマーケットチェーンは、少なくても約20%のシェアを握っているとされます。滋賀県で圧倒的なシェアを握る平和堂のシェア率は40%を大きく上回るとも言われています
北海道の例にして考えてみましょう。北海道の人口は約522 万人。北海道では、アークス(北海道)、イオン(千葉県)、コープさっぽろ(北海道)がそれぞれ約3000億円の売上規模があるとされ、次いでセブン&アイ・ホールディングス(東京都)で約1000 億円、4グループ合計で約1 兆円の売上規模があると言われています。
この上位4グループの売上シェアは約80%とされ、残りの約20%を地場のチェーンで分けあっているのが北海道マーケットの現在の姿です。寡占化が大きく進んでいるというのも北海道エリアの特徴です。
津軽海峡を挟んだ対岸の東北地方では、各県のNo.1企業が大きなシェアを握っています。
青森県のシェアNo.1はアークスグループのユニバースで、2021年度(以下、同)の売上高は1313億円。筆者が独自に算出した県内シェアは約31%です。岩手県は同じくアークスグループのベルジョイスで最新の通期売上高は803億円と県内シェア約28%を握ります。秋田県は伊徳で、売上高は576億円。県内シェアは約21%です。山形県はヤマザワで売上高883億円、県内シェアは26%となっています。宮城県と福島県は少々異なり、リージョナルチェーンのヨークベニマル(合計売上高4694億円)がトップシェアを握っています。
※東北エリアの広範囲で店舗展開するイオン東北の業績(売上高約2100億円)は考慮していない
地域で勝ち残るには……
各社とも多少の県境を越えての出店はあるものの、地域No.1チェーンは基本的に地元の県で店舗を展開しており(宮城県、北関東でもドミナントを形成するヨークベニマルは除く)、そのシェアは20~40%ほどであることが多いです。
これを自社の事業エリア、県、地方に置き換えてみてください。だいたい当てはまっているのではないでしょうか。
では、このような環境下では、どのような戦略を取れば競争で勝ち残ることができるのでしょうか。そのためにまず必要なのは自社のポジションを正しく把握することです。2番手なのか、3番手か、それとももっと下位なのか。自社の規模によって戦い方も異なります。「自社が何をしたいのか」「地域をどのようにしていきたいのか」という“ビジョン”も重要です。
本連載では、いわゆる中堅以下のスーパーマーケット企業を売上規模で分けて、それぞれの戦略について考察していきたいと思います。①売上規模1000億円前後、②500億円前後、③100億円前後あるいはそれ以下、のチェーンについて次回以降、戦略を解説していきます。