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一食2000円のカレーを1000円で出して利益をだすには… もうやんカレー、意外なコスト削減の方法とは

前回に引き続き、渋谷、新橋、横浜などに12店舗を構える「もうやんカレー」(東京都)の辻智太郎社長に「他社の商品に負けずに、売れ続ける商品」の作り方について話を聞いた。厳選した香味野菜と果物をエクストラバージンオイルのみで約72時間かけてじっくり炒め、煮込んだソース。25種類以上のオリジナルのスパイスが使われ、約2週間の熟成期間を経て完成するもので、数多の食品メーカーがレトルトカレーを作りたくて打診をしてきたが、そのこだわり具合に諦めてしまうのだという。ではもうやんカレーはそんなこだわりカレーを出してどのように利益を出すのだろうか?

― 大量の野菜や果物、そして25種以上のオリジナルスパイスを煮込んで作るもうやんカレー、果たして採算に合うのでしょうか?

 合うように工夫をするのです。こんなに大量に野菜を入れて煮込んでいると、通常だと販売価格は1品につき平均で2000円を超えないと適正な利益は出せないはずです。ところがうちは1000円前後で提供しています。創業間もない頃から機械を導入してきたことで価格を下げることができたのです。職人の手ですべてを作ろうとすると人件費が高くなり、価格を上げていかざるを得ない。それは避けたかった。

 自分には職人のようなプライドはなく、とにかくお客さんに満足していただきたかったんです。体に優しく、健康にいいと自負しているカレーですから、会社員や学生、主婦の方など幅広い層に食べていただきたかった。加えて、お客さんや地域の人たち、従業員やその家族、取引先や業者さんなど、皆さんのことを考えないと商売は上手くはいかない。皆さんの輪の中に入ろうとするためにはどうすればいいかと考えれば、お客さんが求めているものが次第にわかるようになるはずです。

 例えば最近もうやんカレーでは、いずれお店を持ちたいと願う会社員の人たちに向けて「独立支援コース」も設けました。コロナ禍拡大以降、「独立するまでそちらの店で学びたい」といった問い合わせが増えてきたためです。いずれにしろ、輪に入らずに自分の店のことだけを考えていると、輪の中にいる人たちからはじかれるのかもしれませんね。

― 今は、相当に難しい時期です。コロナ禍で多くの飲食店が閉店しました。

辻 お客さん自体が減ったことがきっと大きいのでしょうが、家で食事を作り、食べる人が増えたこともあると思います。時代が変わりつつあるのです。最近は、スーパーで売っている食品の質がとてもいい。レンジで温めるだけでものすごくおいしい。もう、飲食店でわざわざ食べる時代ではなくなりつつあるのかもしれません。もうやんカレーのソースもスーパーで販売しています。

 つまり飲食店の経営には、お客さんが本当に食べたいものを徹底して追求していくことがいっそう求められているのです。

―「お客が食べたいものを追求する」ためには、どうすればよいのでしょうか?

 お客さんに直接お聞きするのがいいと思います。実は1号店をオープンさせた当初、経営危機の時期があったのです。昼間は会社員のお客さんがたくさん来てくれましたが、夜になるとオフィス街だったこともありお客さんが少なくなる。

もうやんカレー 辻智太郎社長

 来店してくれたお客さんにはよく「本当は、何を食べたいのですか?」と聞きました。売れなければ仕方がないですから、恥も外聞もありませんでした。ある時、中年の男女のペアが「サラダが欲しい」「一品料理も食べたい」「ワインもいいな」と答えてくれました。それですぐにメニューの変更を考えました。変更にあたっては、いきなり新しいものをメニュー盛り込むのではなく、まず業者さんにお聞きしました。他のお店で扱っているものならば、お客さんがわざわざ来ないでしょう。それで考えたのが、「鴨の炙り焼き」と「セロリとホタテのサラダ」。これがありがたいことに飛ぶように売れて、経営が軌道に乗るようになったのです。

 私は常に、「お客さんが求めているものはなんだろう」と徹底的に調べるようにしています。例えば味。特にこの5年で、多くのお店で味が濃くなってきました。普通では物足りないというお客さんが増えているのだと思います。だからこそ、「もうやんカレーに行かないと食べることができない味」にするわけです。

 売れる商品を作るのは難しいです。それでも愚直にお客さんのことを考え続ける、それしかないのではないでしょうか。