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『KASHIYAMA』オーダーメイドはなぜ、オンワード品質で3万円、1週間納品が可能なのか? 

2017年からメンズ向けのオーダーメイドブランド『KASHIYAMA』を展開してきたオンワードパーソナルスタイル(東京都/関口猛社長)。在宅勤務・オンライン会議の増加による働き方の変化により、デザイン性と機能性を兼ね備えたファッションへのニーズが高まる中、新たなワークスタイルを提案する「EASY(イージー)」の売上が好調だ。すでに海外展開もスタートしている「EASY」の独自性とはどこにあるのか。関口猛社長を取材した。

オンライン会議時代の新たなワークスタイルを提案

微調整も可能なオンラインオーダー画面

―オーダーメイドの新ライン「EASY」の特徴とは?

関口 コロナの影響で働き方は大きく変化しました。クラシックなスーツの需要が減少する中で、それに変わるワークスタイルを提案しようと「EASY」という新たなラインを投入したのです。すでに展開していたクラシックスーツの「the Smart Tailor」より3000円程度安い29700円~という価格帯です。

 程よいトレンド感があり、機能的でデイリー使いができる、家庭で簡単に洗濯できる、動きやすいのが特徴です。メンズであれば「軽くて涼しい 長時間でも快適」「雨を弾くから汚れにくい」「すぐ乾くから毎日洗える シワにも強い」とう3つのカテゴリー提案があり、自分に合ったアイテムを選びやすい点もポイント。生地にもこだわり、伸縮性があってしわになりにくい、超軽量、撥水加工されている、家庭で洗えるなど、とにかくさまざまな工夫をしています。

―統計学を活用したオンライン完結型の採寸システムを取り入れたと聞きました。

関口 クラシックタイプのオーダーメイドスーツ「the Smart Tailor」は、初回のご注文ではリアル店舗でスタッフが採寸させていただくのが基本ですが、オンラインのみでも精度の高いオーダーが完結するシステムを開発しました。

 オンラインオーダーでは、撮影した写真データを元に採寸する方法もありますが、背景や被写体との距離などによって誤差が生じやすく、正確性に劣ります。研究に研究を重ねた結果、「EASY」では東京大学発の3D関連アルゴリズム技術と創業時から蓄積された当社のデータを活用し、統計学を取り入れた独自の採寸システムを採用しています。

―具体的な注文方法はどのようなステップで行うのでしょうか?

関口 生地、デザインを選んだ後、身長、体重、年齢を入力。次に、お腹、胸、おしり周りの形状、さらに身長に対する腕の長さ、身長に対する脚の長さをそれぞれ3つの選択肢から選びます。

 家にいながら、オンラインで、自分の体型にジャストフィットしたアイテムを時間をかけずに購入できるのは魅力だと思います。実際に試した社員からは、手での採寸と全く変わらなかったという声も聞きます。またデータが保存されるので、2着目からはさらにスピーディーに注文が可能。1着目の着心地から自分好みに微調整することもできます。

オーダーメイドなのに1週間、オンワード品質で29700円~という価格

大連の中国工場内部

―オーダーメイドブランド『KASHIYAMA』の強みはどこにあるのでしょうか?

関口 アパレル業界において長年の課題である在庫問題を解決しようと、「オーダーメイドの民主化」を掲げ、在庫をもたないビジネスモデルを拡げていきたい、と『KASHIYAMA』を立ち上げたのが2017年です。スタートは、メンズのクラシックタイプのオーダーメイドスーツ「the Smart Tailor」というラインでした。

 オンワードにはスーツづくりで培ってきた90年以上もの歴史があります。品質はそのままに、生地、色、デザインを自由に選んでいただき、お客さま一人ひとりにぴったりの一着を「the Smart Tailor」なら33,000円、「EASY」なら29700円という低価格、しかも納期最短1週間でお届けする。これが『KASHIYAMA』の強みです。

―1週間という短納期が実現できる理由は?

関口 これまで30日かかっていた納期を1週間に短縮できたのは、イノベーションに徹底的に挑戦した結果です。自社工場が中国の大連にありますが、品質を維持するために製造工程は極力機械化せず、手作業をできるだけ多く残しています。一方で、受注、物流段階ではテクノロジーを最大限活用し、ご注文いただいた翌朝には生地を裁断し始めます。圧縮パック梱包「パックランナー」で工場からお客さまにダイレクトにお届けすることで、短納期が実現しています。また、さらなる需要に対応できるように、今秋には新しい工場も稼働する予定です。

意外にも女性の心をつかんだ「EASY」の機能性

高い機能性と軽やかな着心地を実現した「EASY」

―「EASY」の反響はいかがでしょうか? 

関口 実は、想像以上に女性に受けているんです。レディースは23種類のデザイン、110種類以上の生地を揃え、組み合わせは2500通り以上、3つのセットアップカテゴリーに5つのアイテムを展開しています。また、女性は単品買いが多いのが特徴です。

 マーケティング結果からも明らかになっているのですが、家庭で洗えることが女性に高く評価されています。「EASY」のもつ機能性と、カジュアルにもオフィスにも使える点が支持される要因ではないかと思います。

 3月の販売開始以降、「EASY」の販売実績は計画どおりで、購入層は、40代が最も多く、次に30代、続いて50代となっています。

 店舗でのお買い上げが多く、オンラインでの販売は現状13%程です。初回からオンラインで完結できる採寸システムには自信をもっているので、オンライン経由の販売を伸ばしていく工夫が必要だと認識しています。

―マーケティングも工夫されているそうですね?

関口 2着目以降をオンライン経由で注文いただけるよう、「オンラインサポート」のテスト運用を始めています。「生地の厚みがわからない」「色の感じや雰囲気を知りたい」「デザイン選びのアドバイスが欲しい」など、オンラインオーダー上でのお困りごとに対して、ビデオ会議ソフトウェア「Microsoft Teams」を使ってスタッフがオンラインで接客します。

 『KASHIYAMA』ブランド全体としては、学生限定で就活用オーダースーツを22000円で提供するキャンペーンを行っています。また、店舗スタッフが自らSNSにファッションに関する豆知識などを定期的に投稿する、クラシックスーツを着用した動画をアップするなどして、認知度を上げる試みをさまざま行っているところです。

アメリカ、中国に『KASHIYAMA』出店、あらゆるものをオーダーメイドで

KASHIYAMA新宿東口店
関口猛社長

―今後の戦略について教えてください。

関口 「オーダーメイドの民主化」を掲げる私たちは、アメリカの大手D to Cブランドをベンチマークし、高品質を維持しながら、いかに無駄をなくし効率化するかを模索し続けてきました。すでに、ニューヨークのマンハッタンに旗艦店を構えるなどアメリカで5店舗を出しており、アメリカでも「EASY」の将来性は必ずあると確信しているところです。

 日本で3月に販売開始して以降、「EASY」の機能性はお客さまに少しずつですが、着実に認知いただいていると思います。「the Smart Tailor」をはじめとするクラシックスーツは、今後はドレスアップファッションへと移行し、機能的でありながらきちんと感がある「EASY」が、新たなワークスタイルにマッチしたファッションとして広がっていくものと考えています。

 ただ、まだまだクラシックスーツに変わる段階にはきていない。課題は、新たなワークスタイルとして「EASY」をどうアピールしていくか。まずは、アイテムを増やすこと。女性向けにはシューズのオーダーメイドもやっていますが、さらなるアイテムの追加を検討しています。

 目指すのは「ありとあらゆるものをカスタマイズして購入できる時代」です。『KASHIYAMA』は今後もオーダーメイドのビジネスモデルを世の中に広めていきます。