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総菜、生鮮食品の強化が食品スーパーの生き残る道=マックスバリュ九州 佐々木 勉 社長

福岡県に本部を置き、九州全県で食品スーパー(SM)を展開するマックスバリュ九州。商勢圏では、同業のSMのほかにもディスカウントストア(DS)、食品の扱いが大きいドラッグストア(DgS)などが台頭し業態の垣根を超えた競争が激しさを増している。そんななか、どのように自社の特徴を出し、差別化を図っていくのか。同社の佐々木勉社長に聞いた。

各地で食品を扱う異業態が台頭

佐々木 勉(ささき・つとむ)●1955年7月9日生まれ。79年ジャスコ(現イオン)入社。95年三岐商品水産マネージャー。2001年水産商品部マネージャー。03年SSM商品本部北関東商品部長。04年SSM商品本部西関東商品部長、関東カンパニー食品商品部長。07年フードサプライジャスコ(現イオンフードサプライ)代表取締役社長。11年イオンアグリ創造取締役。14年マックスバリュ九州代表取締役社長

──小売企業間の競争が激化しています。とくに九州は、全国的に見て競争の激しい地域と言われます。現在の経営環境についてどのように認識していますか。

佐々木 非常に厳しいという見方をしています。SM企業同士の競争はもちろんですが、食品の売上高構成比が50%を超えるDgS、徹底して価格訴求するDSといった異業態と競合するケースが増えています。なかでも近年、毎年2ケタ出店を続けて九州各地で急速に店舗数を増やしているDS企業もあり、徐々に存在感が高まっています。

 DgSやDSなどの異業態の店舗では、加工食品だけでなく、生鮮食品を低価格で販売することで集客を図るケースが増えています。コンセッショナリーチェーンや専門店とうまく連携し、競争力ある売場づくりをしており、SMにとっては大きな脅威となっています。

──そんななか、マックスバリュ九州の2017年2月期の業績を見ると、売上高1703億円(対前期比9.9%増)、営業利益26憶円(同27.5%増)と好調でした。この結果をどう振り返りますか。

佐々木 前期の業績に与えた要因として最も大きかったのは熊本地震です。発生直後、大半のSM店舗が閉まったままだったのに対し、当社店舗は比較的早期に営業再開にこぎつけました。

 最も早かった店舗は震災翌日でした。天井が落ちるなど大きな被害を受けた店舗であっても、地震発生後2週間ほどで営業を再開しました。いずれの店舗も多くのお客さまに頼りにされ、供給が追いつかない状況が続きました。予期せぬ需要があったため売上高は大きく跳ね上がりましたが、もしそれがなければ例年並みの伸長率だったと分析しています。

 前期の業績を受け、18年2月期は非常に厳しいと見ています。店舗によっては、対前期比で数割減の水準で推移しています。高いハードルではありますが、今期も何とか目標をクリアしたいと考えています。

──前期は次代の事業展開を視野に入れた新型店舗を出店しました。

佐々木 これまでの店舗とは外装、内装のほか、品揃え、売場づくりなどすべてを見直した、新しいタイプのSMです。16年3月に「マックスバリュエクスプレス二日市店」(福岡県筑紫野市)と「マックスバリュ上荒田店」(鹿児島県鹿児島市)、同年9月に「マックスバリュ熊本北店」(熊本県熊本市)の3店舗を出店しました。二日市店と上荒田店は1年が経過し、結果を検証しているところです。

2016年3月に出した「マックスバリュエクスプレス二日市店」。外装、内装とも落ち着いた雰囲気の新型SMだ

──今期はどんな重点施策に取り組んでいますか。

佐々木 第一は「地産地消」です。九州は県あるいはエリアで味の嗜好が異なります。お客さまの嗜好に合わせることを基本に、各地で生産された商品をそのエリアで消費するというかたちで地域密着を図ることを重視しています。第二は「人材教育」です。いかに優秀な従業員を育成するかが、競争の激しい時代を勝ち抜く大きなポイントになると考えています。

福岡都市圏を中心に新型店舗を拡大

──出店政策について教えてください。

佐々木 現在、当社が展開する店舗は、大きく分けて4種類のフォーマットがあります。1つは、都市型SMの「マックスバリュエクスプレス」です。売場面積250~300坪の小型店で、一定以上の商圏人口を抱える都市部にフリースタンディング(路面店)で出店しています。2つめは、標準フォーマットの「マックスバリュ」。郊外立地で売場面積は600坪超、原則として単独出店はせず、おもに近隣型ショッピングセンター(NSC)のテナントとして入っています。3つめは、取扱アイテム数を絞り、効率的な店舗運営のもとで圧倒的な安さを訴求するディスカウント業態の「ザ・ビッグ」、4つめは「ザ・ビッグ」の小型店「ザ・ビッグエクスプレス」です。

 当社では、これら4つのフォーマットを立地や競合状況、商圏特性に合わせて使い分けることで集客を図っています。このうち、今後の出店戦略において主力フォーマットとして位置づけているのが、都市型の小型SM「マックスバリュエクスプレス」です。

──その「マックスバリュエクスプレス」の新型店として出したのが16年3月に出店した二日市店ですね。具体的にどのような店づくりをしていますか。


新型SMでは、こだわり商品を積極的に取り入れる。青果部門ではオーガニック野菜を集めたコーナー、加工食品ではパクチーコーナーを設けている

佐々木 競争が激化するなかでわれわれの強みを明確にするため、当社はここ数年、品揃えを徐々に見直してきています。青果や日配品など購買頻度の高い商品は競合店に負けない価格をEDLP(エブリデイ・ロー・プライス)で提供しつつ、一方で味や素材などに徹底的にこだわった商品も強化することで差別化を図っています。二日市店では、こうした価格と品質を強化しました。

 さらに、それらの品揃えの変化をお客さまの視覚にも訴えかける店づくりに取り組んでいます。二日市店では、従来の「マックスバリュ」から外装、内装ともにイメージを大きく変えました。いずれも落ち着いた色で統一し、スタイリッシュな買物空間を演出しています。

──このフォーマットは今後どのような展開を考えていますか。

佐々木 現在はあくまで検証段階で、新型店のスタイルを確立させてから増やしていきたいと考えています。というのも、「マックスバリュエクスプレス」の屋号を冠する店舗は現在約20店舗ありますが、条件はさまざまで標準パターンといえるものが定まっていません。売場面積150坪の店舗もあれば300坪の店舗もあります。店舗によって立地や駐車場の規模も異なります。今後、あらゆるデータを検証し、最も競争力のあるかたちを見定め、拡大していきたいと思います。

──出店エリアについてはどのように考えていますか。

佐々木 福岡都市圏を中心としたエリアを考えています。新型店を新規出店したのは、今のところ二日市店だけなので、まずは2ケタに乗せたいと考えています。新店だけでなく、既存店を改装するかたちも含め、徐々に店舗網を拡大していく方針です。

──店舗網の拡大にあたって、物流の整備について計画はありますか。

佐々木 強い店舗網構築のために必要なのはPC(プロセスセンター)です。今後、都市部で広げていく小型SMでは、店内加工の総菜以外はPCで加工した商品を扱い、店内では簡単な作業で済ませられるような効率運営が求められます。18年秋には、佐賀県基山町に総菜と精肉を加工する機能を持ったPCを稼働させる計画です。

地域で異なる味の嗜好に対応

──商品政策の基本的な考え方を教えてください。

商勢圏ではDSやDgSとの業態を超えた競争が激しさを増している。そのなかで差別化部門として総菜に力を入れている

佐々木 各部門でこだわり商品を積極的に取り入れ、豊富に品揃えすることはさきほどのとおりですが、差別化部門と位置づけているのは総菜です。総菜を温かい状態で販売する「ホットデリカ」は、出来立てを提供することでお客さまの満足度を上げられる商品です。われわれの商勢圏では、DgSやDSが台頭していますが、そうした業態がまだ着手していないのが総菜です。総菜そして生鮮食品を強化することがこれからのSMの生き残る道だと認識しています。

──総菜部門の中でも最大の特徴となっているのが、100g当たり128円(税抜)で提供する「量り売り総菜コーナー」です。

佐々木 二日市店では常時40種類以上のメニューを提供しています。お客さまがその中から好きなものを選んで買うことができるビュッフェスタイルのコーナーです。中華、和風、洋食のほか、パスタ、サラダなど多様なメニューを揃えており、お客さまから好評です。

 本来なら同じ100gでもいくつかの価格帯を用意できれば、さらにメニューの幅を広げられます。ただ同じトレイに価格帯の異なる商品を入れるとなると、売価計算に手間がかかるため、今のところは単一の価格で展開しています。

──今期の重点施策の1つ「地産地消」については、商品政策にどのように反映させていますか。

九州は各県あるいはエリアにより味の嗜好が異なる。マックスバリュ九州は「地産地消」を重点施策として地域の嗜好に対応した取り組みを強めている

佐々木 当社の営業体制は現在、九州をおもに県やエリア単位で6つのブロックに分けています。それぞれのエリアで味の嗜好は異なります。九州においては、地域の嗜好を踏まえた商品・サービスを提供するローカルSMが地域の支持を得ています。われわれも、地域の嗜好への対応は不可欠な要素だと考えています。

 昨年春には、SM事業の責任者が各エリアの商品部長を兼任するといった組織変更を実施することにより、各店舗が地元の商品を機動的に提供できる体制を整えました。加工食品において、各地で支持の高い商品を取り入れています。二日市店でも、調味料や日本酒などで地元商材の取り扱いを強化しました。

 さらに最近では、加工食品だけでなく、総菜で地域商品にチャレンジしています。今年5月27日、イオンタウン(千葉県/大門淳社長)が長崎県長与町で開発したNSC「イオンタウン長与」に核店舗として入っている「マックスバリュ長与中央店」では、長崎県で支持されている「トルコライス」を販売しています。オープン後、売れ行きは好調で、手応えを感じています。こうした取り組みを、ほかのエリアあるいは店舗でも広げていければと考えています。

「生鮮塾」をスタート、実践的な人材教育を強化

──地産地消と並び、今期の重点施策に人材教育を掲げる理由は何ですか。

佐々木 品揃えを豊富にし、こだわり商品を積極的に取り入れていますが、それらはただ売場に並べているだけで売れていくわけではありません。たとえばオーガニックの野菜にしても、それがからだによいと売る側が本当に感じてこそ、お客さまに価値が伝わります。競合他社との差別化を図るためには、いかに商品知識を持った従業員を育成するかがポイントになると考えています。

──実際に人材教育のための取り組みはありますか。

佐々木 青果、鮮魚、精肉の3品において部門ごとで教育を行う「生鮮塾」をスタートしています。次期チーフ候補や商品部への配属希望者などスペシャリストを志向する従業員を対象にしたプログラムを用意しました。塾長を務めるのは、各エリアの事業部長や商品部長です。座学ではなく、参加者が実際に役に立つ技術や知識が見つけられるように、OJT形式による業務を通じた教育を行っています。

──成果は上がっていますか。

佐々木 まだこれからです。まずは従業員が自店の商品を食べる習慣を身につけるといった、基本的なところから始めているところです。

 これから知識や技術の習得を段階的に進めていきます。将来的には、部門のマネジメントにまで携われるような、数値管理分野も教育プログラムに加えていきたいと考えています。今のところ、生鮮3部門だけですが、今後は総菜でも同様に取り組んでいきたいと思っています。

──目標とする経営数値はありますか。

佐々木 まずは営業利益率3%をめざします。店舗数についていえば、前期末152店でしたので、次は200店舗をめざします。売上高は19年度に2000億円を達成できればと考えています。そのために今後、積極的に出店する予定の小型SMの標準フォーマットを早期に確立することに注力していきます。