愛媛県に本部を置き、四国全県と中国エリアの広島県、山口県で事業展開するフジ(尾﨑英雄社長)。近年、商勢圏では競争激化、少子高齢化が進むなか、「中四国くらし密着ドミナント」を掲げ、地域の生活を支える拠点となる店づくりを進める。昨年度、創業50周年の節目を迎えた同社の尾﨑英雄社長に、今後の事業展望や課題などについて聞いた。
新社長が営業を管掌
──2018年2月期をいかに振り返りますか。
尾﨑 現時点(18年2月上旬)ではまだ決算を締めていませんが、難しい年度だったと感じています。18年2月期第3四半期の連結決算は、営業収益2,352億円で対前年同期比0.06%減。近年、主力業態とするスーパーマーケット(SM)事業は、青果、鮮魚、精肉、総菜の生鮮4品を中心として順調に推移しました。しかし衣料・住居関連品は、売場面積縮小の影響もあり、減収となりました。また、改装した既存店はおおむね前年実績をクリアできていますが、一部地域では競争も激化し、苦戦しました。営業利益は48億円(対前期比2.2%増)、経常利益は60億円(12.6%増)と増益となりました。昨今の人材確保難などにより販管費は上がったものの、商品管理・在庫削減などコスト管理力の向上により粗利益率が改善したのが要因です。
──1月29日に、尾﨑社長が会長兼CEO(最高経営責任者)、山口普専務が社長兼COO(最高執行責任者)に就任内定の人事を発表しました。
尾﨑 近年、環境の変化や業種業態を超えた競争はより激しくなっています。そのようななか、政策と実行をより強固なものにしていかなければなりません。現場と一体になって改革・前進していくことが必要です。新社長は営業、商品、店舗の責任者を兼務し、店長やバイヤーといった、最前線のマネジメントを担当します。営業全般を強化し、現場改革・強い店頭づくりを進めます。そして、今後は地域連携や商品連携などさまざまな連携を視野にいれた取り組みも必要になってきます。私自身、これまで目の前の課題への対応に終始してきました。20年後の経営のありようを地域社会の変化等を見据えながら方向づけしていきたいと思います。同時に経営の質を上げていくための政策展開にも力を入れてまいります。
──営業力強化とのことですが、あらためて、現在の経営を取り巻く環境はどのように認識していますか。
尾﨑 年々、厳しさが増していると感じています。商勢圏では、有力なSMが増えているほか、食品の扱いが大きいドラッグストア(DgS)、ディスカウントストア(DS)といった異業態が存在感を増しています。また国内では少子高齢化が進んでいますが、とくに当社が本拠とする中四国エリアは、そのスピードが全国水準より早いのが現状です。
そうしたなか、従来と同じ事業展開をしていては、お客さまからの支持を得ることができません。常に目まぐるしく変わる環境、ニーズに対応し、地域の皆さまのくらしを積極的に支えていく店づくりを実践していきます。その実践を通して、当社が経営ビジョンに掲げる「中四国くらし密着ドミナント」を実現していきたいと考えています。
50周年を機に企業スローガン、ロゴマークを刷新
──これからの店舗戦略について教えてください。
尾﨑 今後はよりSM事業に力をいれていきます。近年の出店数は年間2店舗程度にとどまっていますが、今後は愛媛県松山市、また広島市を中心とする都市圏での店舗網拡大を機軸としながら、年間3~4店舗の出店を目標としています。商圏特性や競合状況などを見ながら用地を精査し、慎重に出店を進めているところです。
──そうしたなか、2月9日には山口県山口市に「フジ小郡店(以下、小郡店)」をオープンしました。
尾﨑 山口県内9店目、全社では96店目となるSM業態の店舗です。JR周防下郷駅からほど近く、国道9号線に面する立地です。周辺は小中高の教育機関、病院がある利便性の高い立地です。商圏内には20~30歳代のファミリー世帯が多く、人口、世帯とも増加傾向にある注目のエリアです。そうしたなかで、近年需要が拡大する「簡便」「即食」を特徴とする商品を充実させ、また地域密着の方針のもと、地場商品も積極的に取り入れました。さらに、単身者の利用を想定し、「食べきり」、「使いきり」の商品にも力を入れるなど、最新の品揃え、売場づくりを行っています。
これからのSMは、単にモノを販売するだけでは、お客さまにご支持いただけません。店内ではベーカリー売場と隣接する場所にイートインコーナーを設けていますが、飲食スペースとしてだけではなく、地域のお客さま同士が交流する場としても利用していただきたいと考えています。
──小郡店から新しいロゴマークを導入しています。
尾﨑 昨年、創業50周年を迎えたのを機に企業スローガンとロゴマークを刷新、18年度から導入を開始し、小郡店は、それに先駆けて導入しています。
私たち小売業は、地域の人々のくらしに支えられています。地域のくらしに寄り添い、地域のお客さまにあてにされ、信頼される存在でなければなりません。新しいロゴマークには、街角にあるフジが、お客さまや地域からより親しみを感じていただける存在になりたい、という思いをこめ、街に寄り添えるやわらかいデザインを用いています。新スローガン「この街に、あってよかった。」のもと、地域の皆さまに「フジがあってよかった」と感じていただける企業・お店をめざして、新たな歩みを進めていきます。
──新規出店の一方、既存店はいかに活性化しますか。
尾﨑 現在、商圏特性や競合の状況などを見ながら優先順位をつけ、順次、改装、もしくは建て替えを進め、店舗網の強化を図っています。
愛媛県にある「フジ宇和島店」は今年1月末で一時閉店し、現在、建て替え作業を進めています。同店は1967年10月のオープンで、当社1号店という象徴的な店舗です。今冬オープンを予定している建て替え後の店舗では、食料品を中心に日用雑貨品などふだんの生活に必要な商品を提供するほか、地域コミュニティの場としても親しんでいただけるような店づくり、サービスを行います。
──リニューアルした場合、前後でどれほどの効果がありますか。
尾﨑 改装の場合、好調店舗は売上高が1割増となる店舗もありますが、総じて5~8%増で推移しています。競争が激化、また少子高齢化によりマーケットが縮小しており、なかなか最盛期の水準にまで戻すのは難しいのが現状です。
08年に開業したリージョナルショッピングセンター「エミフルMASAKI」(愛媛県伊予郡松前町)もそろそろテコ入れする時期だと考えています。14年にテナントの入れ替え・直営売場のゾーニング変更を中心としたリニューアルを実施しましたが、あらためて施設、機能を見直します。これら定期的な活性化策により、常に魅力ある店舗を維持していきます。
天候や相場に左右されにくい生鮮の商品政策
──商品政策(MD)についてはどのような方針ですか。
尾﨑 常にニーズに耳を傾け、それらに応える商品を安定的に品揃えするのが基本的な考え方です。ただ「この街に、あってよかった。」をスローガンに掲げるフジとしては、お客さまに本当に喜んでいただける新たな取り組みへも積極的にチャレンジしていきます。
基軸となるのが生鮮食品です。このところの野菜の高騰などを鑑みると、小売業は単に仕入れて販売するだけで使命を果たせているのかと自社を省みているところです。企業からすれば価格が高ければ売上高が上がりますし、逆だと下がってしまいます。一方、お客さまの立場に立てば、安ければ嬉しいし、高いと困る。これでは相場に右往左往しているだけで、小売業としての工夫がありません。たとえば、冷凍や冷蔵技術を駆使した商品開発により、相場安の時に加工した、プライベートブランド(PB)の鍋野菜セットを安定した価格で販売するといったように、今後は、最新の技術を駆使して問題解決を図ることも模索していかなければなりません。
──PBといえば、ユニー(愛知県/佐古則男社長)、イズミヤ(大阪府/四條晴也社長)との3社によるPB「スタイルワン」があります。
尾﨑 スタイルワンは09年から販売をスタートさせ、これまで加工食品、日配品、生鮮食品など多様なカテゴリーの商品を充実させてきました。ただ近年、連携する企業の状況も変化してきています。イズミヤさんは14年からエイチ・ツー・オー リテイリング(大阪府/鈴木篤社長)グループとなり、ユニーさんも17年8月、持ち株会社のユニー・ファミリーマートホールディングス(東京都/髙柳浩二社長)がドンキホーテホールディングス(東京都/大原孝治社長)と業務資本提携を発表しました。今後も、当社を含む企業の環境は変化するでしょうし、その時の状況に応じた取り組みができればと考えています。
──商品戦略の一方で、サービス施策についてはどのように考えていますか。
尾﨑 高齢化とともに、従来とは異なるサービスも工夫しなければなりません。「フジグラン高陽」(広島県広島市)は、81年に当社が初めて広島県に出した店舗で、商圏内は高齢化の進行が著しい地域のひとつです。そうしたなか、数年前から店頭でラジオ体操を実施しています。毎朝9時からイベントスペースで開いているのですが、毎日100人ほどの参加者があり盛況です。ご年配の方はとくに健康への意識が高く、また、ここに来れば仲間と交流できるという楽しみも感じていただいているのだと思います。
また無料の買物バスも運行しています。商圏内の高陽ニュータウン内を巡回し、お客さまを店舗までお連れしています。利用者からは好評で、今後も続けていきます。このようにこれからも商圏特性の変化に応じた、新しいサービスを工夫していきます。
物流機能を競合企業と統合
──取り巻く環境が大きく変化するに伴い、商品、サービスをはじめ、あらゆる分野を見直さなければならないということですね。
尾﨑 そのとおりです。前述したように、従来のやり方のままでは、これからの時代を生き残っていくのは難しい。その意味では、お客さまには見えない部分も変えていかなければならないと考えています。
これまであらゆる企業が商品開発をはじめ、すべてを自社で完結させてきました。しかし近年、少子高齢化、人口減少に伴い、人材確保難が深刻な問題となりつつある今、チェーンストアを支えるインフラについても互いに助け合う時代が来るのでは、と思います。物流を例にとれば、競合する企業同士であっても共同物流を実施し、互いの店舗維持を優先させるといったことです。連携を強化し、地域のお客さまのライフラインを守っていくことも、私たちの役割だと感じています。
実際に、あるコンビニエンスストアのチェーン企業から、当社の物流を使わせてほしいと打診されたことがあります。今後は反対に当社からお願いすることもあるでしょうが、すべては、お客さまの暮らしを守るためです。
──最後に、今後の抱負について聞かせてください。
尾﨑 これからも地域の皆様が安心して生活できるような店づくりに力を入れていきます。お客さまのニーズに応じた商品、サービスを追求し、「この街に、あってよかった。」と思われる存在となれるよう努力していく所存です。