丸善の書店営業利益率が「たったの0.1%」でも経営は安泰の理由
書店と比べ営業利益率88倍! 図書館サポート事業とは
文教市場販売、図書館サポート事業は大部分が図書館事業と考えてよい。事業子会社は、大学や研究機関向けの書籍販売や、それら施設の建築や内装設備の設計施工を手掛ける丸善雄松堂、公共図書館・大学図書館への書籍販売や納入する出版物の仕様に合わせた装備作業、書誌データを作成販売する図書館流通センター(TRC)の2社だ。
21年1月期決算では、文教市場販売の売上が564億円、図書館サポート事業が303億円。足し合わせると867億円となり書店部門を超えている。営業利益をみても文教市場販売が29億9800万円、図書館サポート事業が26億6900万円。先の「店舗・ネット販売事業」の売上高、営業利益と比べるとその差は歴然としている。
決算資料をみると、大学向け書籍販売や大学売店の売上は減収だったが、コロナ禍による電子図書館の利用者や大学のオンライン授業拡大の影響で、電子書籍や電子図書館の売上が伸長。衛生管理ツールとして販売してきた書籍除菌機も需要が拡大したという。
むろん出版業界の慣例として書店の粗利益が低いこと、同期が新型コロナのマイナス影響を加味するとしても、グループ全体の事業構成をみたときに、図書館事業が大きく貢献をしているのかは明らかだ。
とくにこのコロナ禍においては、地方公共団体の電子図書館サービスがにわかに注目され活用されるようになった。実はTRCは公共図書館への電子図書館サービス国内最大手。電子出版制作・流通協議会調査によると、電子図書館(電子書籍貸出サービス)を実施している自治体は205で電子図書館数201。そのうちTRCのシェアは9割近くになる。
筆者が20年10月にTRCに取材したときに、19年は1年で新規4館の増加だったが、20年は10月までに25館増。担当者の答えは、その10月においても「この1カ月で例年の1年分(の契約)がきている」だった。読書や学習支援のツールとして問い合わせが続いているとのことだった。感染防止のために来館をできるだけ控えてほしい公共図書館側が、地域住民へのサービスとして注目し急遽導入を決めた事例も多かったようだ。
同業他社も同様の電子図書館サービスはあるが、TRCはその地域のニーズに合わせた独自コンテンツを提供して付加価値を高めている。一般的に、電子図書館で読めるデジタルコンテンツは、既存の出版社が刊行した著作物のごく一部や、著作権保護期間が終了した文学作品などを集めた「青空文庫」ばかりと思われがちだ。だがTRCは、その自治体の地域資料や、広報紙、郷土本も電子化し、地域住民の情報媒体として提供する支援もしている。ユニークな取り組みとして、和歌山県の有田川町立図書館は、地元小学生が書いた作文集を生徒自身が朗読した音声をデジタルコンテンツとして聞ける取り組みを行っている。
また、TRCは公共図書館などから図書館業務の受託運営もしている。カウンター業務や書誌目録の作成、蔵書点検などを請け負う形だ。直近のグループ全体の受託館数は、学校図書館を中心に21年2月期初から187館増加し、1676館にまで伸長している(内訳は公共図書館553館、大学図書館223館、学校図書館他900館)。
このようにしてみると、グループ全体でみると「書店の丸善」というイメージ以上に図書館事業が大きな収益源となっている。昨今、グループ書店においても度重なる緊急事態宣言による営業時間の短縮や、入居するテナントビルの方針によって営業ができない店舗もいくつかある。これはそのまま売上、収益減に直結するマイナス要因だが、この非常時に、書店の「本分」である店頭販売以外に、収益を得る方法があることは今後大きなプラス要素となってくることは間違いないだろう。
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