ウィズコロナ時代のショッピングセンター経営23 モールリテール、ネットリテール、その先にあるSC進化論
スマホとコロナ禍が「ネットリテール」を加速
このようにリテールは、ストアリテール、ストリートリテール、タウンリテール、トランジットリテール、モールリテールと進化・多様化してきたが、ここに大きくインパクトを与えたのが、スマホの登場とコロナの襲来である。

2008年に登場したスマホは消費者の手の中に店舗を出現させ、時間と場所に関係なく消費行動を可能にした。さらにコロナ禍によって、国民は行動制限と接触の回避を余儀なくされ、リアルな場所への外出機会は減少。とくに、これまで“最強”と言われていた駅ビルなどのトランジットリテールにダメージを与えたことが特徴的である。スマホとコロナ禍によってECの利用が伸び(図表1)、「ネットリテール」が消費行動の中心に躍り出ることとなった。
緊急事態宣言が続きコロナ禍の出口が見えない一方、デジタル技術の進歩や5Gの普及によってネットリテールはますます伸長する。将来は「買う」という行動さえ自動化されるだろう。
「モノを買う」以外に人が集まる理由をつくる
では、ストアリテール、ストリートリテール、タウンリテール、トランジットリテール、モールリテールは今後どうなるのか。

残念ながら、人口減少社会においてネットリテールを凌駕するリアルなリテール形態をつくることはかなり難しい。とすると、これまで開発されたリアルな場所はリテールから一線を画す必要がある。モノを買うことは二の次。とにかく来店してもらうことをまずはねらうしかない。
そのためには時間消費性、滞在性、優れた空間環境、多機能化、エンターテインメント性などが重要だ。エンターテインメントと言うとアミューズメントパークのようなイメージを持つ方もいるが、それ以外にも人々が出掛けていく理由はある。人は決して家でジッとしていたいだけではない。移動欲求もある。
モノを売るのはネットに任せる――。それぐらいのいさぎよさを持ったうえで「場所」「広場」「コモンスペース」を表現した「パークリテール(Park Retail)」へ進むことも1つの選択肢として動き出している。
近年ではシンガポールのチャンギ国際空港にある「ジュエルの緑量」のほか、ロサンゼルスの「The Grove」や「Americana at Brand」など、2000年代にアメリカで登場した「ライフスタイルセンター」も1つの解だろう。
日本にも古くから人が集まる場所はある。なぜ人が集まるのか。コロナ禍によって多くの制限がなされている今、考える時期ではないだろうか。

西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役
東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員。2015年11月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒
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