オンワード樫山などを傘下に持つアパレル大手のオンワードホールディングス(東京都/保元道宣社長)。同社が4月8日に発表した2021年2月期の連結決算は、売上高が1743億2300万円で対前期比29.8%減、営業損益は212億3000万円の赤字、経常損益が201億7400万円の赤字。最終損益は231億8100万円の赤字(前期は521億3500万円の赤字)だった。
2022年2月期の売上高は前期比9.3%増の1905億円、営業利益は32億円の黒字、経常損益は30億円の黒字(前期は201億7400万円の赤字)となる見通し。売上高3000億円など、2031年2月期までに大改革を成し遂げると中長期経営ビジョンをぶち上げた同社。アパレル産業全体が沈むなか、どのようにV字改革を成し遂げるというのか?
過去の成功モデルと決別してめざす「新生オンワード」
アパレル不況が深刻な中で直撃した新型コロナウイルス。予想されたとはいえ、結果は厳しいものだった。不採算店舗の大量閉鎖や希望退職を募るなど、痛みを伴う改革で決死の立て直しに取り組んでいるが、もはやかつての成功モデルは完全に“オワコン化” しており、妥協なき改革しか生き残りの道はないのが実状だ。
「ONWARD VISION 2030」と題した中計で目標として掲げる数字は意欲的だ。最終年度とする31年2月期には売上3000億円、営業利益250億円をめざす。コロナショックで大きく売上が縮んだとはいえ、21年2月期の1743億円から1.7倍にジャンプアップさせようというものだ。
それ以上に、売上の内訳をみると、まさに過去を捨て去る覚悟がにじむ、生き残りをかけた抜本改革といえる内容となっている。
まず目がいくのが、非アパレル部門の増強だ。ライフスタイルセグメントとして展開するウエルネス事業、ビューティー・コスメ事業、ホームライフ事業、グルメ事業、ギフト事業の5つの売上を1000億円に設定。これは21年2月期実績の349億円(構成比18.3%)と比べると3倍近い数字で、達成期限の2031年2月期では売上構成比の3分の一を占めるまでに成長させる。
アパレルEC化率50%、ECで1000億円めざす
アパレル分野におけるEC化率のアップも加速させる。苦境の中で唯一の光明といえる同社のEC売上。着実に伸長を続け、21年2月期の国内アパレルEC売上高は約416億円で、構成比は約24%。そのうち約9割が自社ECとなっており、ZOZOなどの外部プラットフォーマーに依存せずとも成長できる素地が整っている。
2031年2031年2月期にはアパレル全体で2000億円をめざすなか、ECでは売上高1000億を目標に設定し、アパレルのEC化率50%をめざす。そのための施策として、デジタル人材育成の「オンワード人材プロジェクト」を産学連携で開講するなど、人材確保にも余念がない。
組織変革も大胆に進める。これまでの縦割りで硬直した体制からフラットで多様な人材が活躍できる企業体への進化を目指し、組織と人材プラットフォームを抜本改革。個性が生きる組織への転換を図り、キャリアパスや評価方式も変革することで変化に強い組織へと生まれ変わる。
販売・開発手法も180度転換
顧客との接点も180度の転換を図る。これまではマス広告で認知させ、集客。店舗でのきめ細かい接客で販売につなげるというスタイルが主流だった。企業主導の一方通行の顧客とのコミュニケーションを、SNS等も活用し顧客とダイレクトにコミュニケーションし、そこから商品開発や販売につなげるなど同じ目線に立って双方向で価値を共創するスタイルへと転換。自律的に顧客軸のコミュニティが増殖し、そこで欲しいものが生まれ、流通が拡大する仕組みを構築する。
主軸のアパレル事業へもこうした改革を反映させる。これまでの定番ブランドはキープしつつ、新規に立ち上げた「ネオ・ビジネスモデル事業」を将来の主力事業に育てる。具体的には消費者の声を拾い上げ、商品開発するプロジェクトで、すでに消費者とリモート座談会を行うなどで動き始めている。
過去の成功モデルとの決別の先に復活がある――。打ち出された施策の一つひとつにそんな決意がにじむ大胆な改革シナリオ。アパレル部門の事実上の縮小、EC化率50%、脱定番ブランド、商品開発のオープン化、縦型組織からの脱却…。忍び寄る危機になりふり構わない抜本改革の先にある10年後の同社の姿は、良くも悪くもいわゆるオンワードらしさは微塵もない。
ただし、これが10年前なら間違いなく「革新的」といえた。だが、打ち出されたどの施策もコロナ禍をもろともしなかった企業はすでにやり遂げているもので、遅きに失した感は否めない。先の読めない時代を生き抜くために必要な要素として、顧客至上主義やそれと連動したDX(デジタル変革)が重要であることはコロナ下で図らずも鮮明になった。
1年後さえ見通せない閉塞感漂う社会情勢にあって、変革リミットに設定した10年という期間は長い。その頃、いま以上に市場や消費者の価値観が変質しているとしてもなんら不思議はない。
市場環境の変化に起因する深刻なアパレル不況を業界最大の試練とするなら、環境に適応すべく進化を遂げ、それを乗り越えることは同社の宿命といえる。業界の雄が踏み出した生き残りをかけた決死の一歩がどこに着地するのか、しばらく目が離せない。