事業横断でシナジーを発揮しペットのコンシェルジュをめざす=イオンペット 小玉 毅 社長

聞き手:千田 直哉 (株式会社ダイヤモンド・リテイルメディア編集局 局長)
構成:小木田 泰弘 (ダイヤモンド・ドラッグストア 編集長)
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ペットのカルテとオーナーの購買履歴を統合

──さて、3月にイオンペットの社長に就任されました。

小玉 当社は、売上規模は約300億円と小さいながらも、物販やトリミング、動物病院など、ペット関連のすべての事業を手掛ける、世界にも例がない物販とサービスを網羅した複合企業体です。生体はテナントさまを導入して扱っています。通常の小売業態ならば、1社だけで関連事業をすべて手掛けることは難しいでしょう。ペットのワンストップショッピングが当社の特徴であり、強みです。

 主な事業は、生体を除く物販、動物病院、トリミングサービス、ホテル、しつけ教室の大きく5つです。しかし、それぞれ専門性が高いこともあり、各々が独立して成長してきた歴史があります。物販の販売員、獣医師、トリマーなど、ほぼ交流もなく組織も縦割りでした。

 ペット関連のビジネスは、生体の販売からお客さまとの関係がスタートします。その際に、獣医師やトリマーを紹介し、ペットのケアなどを提案するようなこともできていませんでした。各々がバラバラでシナジーを発揮できていなかったのです。

 そこで、今期(16年2月期)からはお客さまのご利用データを活用したワン・トゥ・ワンマーケティングの実施に着手します。

 社長就任後、私が着目したのが動物病院に蓄積されていた膨大なカルテです。ペットオーナーの情報に加え、ペットの既往歴がすべて記載されていました。また、トリミング事業でも膨大なカルテがありました。これもペットとオーナーの情報です。

 一方で、当社は昨年、ポイントカードと電子マネー「WAON」が一体になった「イオンペットWAON」カードを発行しました。動物病院の診療を除いて、当社でのご利用200円(税込)につき5ポイント、電子マネー「WAON」での200円(同)のお支払いで1ポイントを付与するものです。「イオンペットWAON」カードは、驚くことに1年間で55万人のお客さまが会員登録しました。この55万人のお客さまはすべてペットオーナーです。この「イオンペットWAON」カードからは、すべての購買履歴が分かるようになっています。

 これらカルテや購買履歴のデータをイオンのプラットフォームを活用して1つのIDで統合すれば、ペットとオーナーの情報を一元管理した、まったく新しいビジネスモデルをつくることができると考えています。

 具体的には、ペットの飼いはじめからケアまで、一気通貫のサービスを提供できるようになります。

 ペットは、たとえば犬種によってかかりやすい病気があったり、治療方法も変えなければなりません。犬種や年齢に合わせたペットフードを選ぶことも重要です。また、個別のペットの既往歴やそのオーナーの利用履歴からは、過去、ペットがどんなものを食べてきたのか、既往歴や治療の内容、そして今後どのようなケアが必要になるのかまでわかります。これらビッグデータを生かして、ワン・トゥ・ワンマーケティングを実施します。これが当社の戦略の1つの柱です。

──いつごろからスタートするのですか。

小玉 動物病院やトリミングのカルテはこれまで手書きでしたから、過去にさかのぼって電子化できるように準備を進めています。この1年は、ワン・トゥ・ワンマーケティング実施の体制づくりとその投資をします。早ければ17年2月期からワン・トゥ・ワンマーケティングをスタートしたいと考えています。

イオンペット

ペットを飼うハードルを下げ、ペットホルダーを増やす

──データ活用によるワン・トゥ・ワンマーケティングの実施は既存顧客の維持深耕策です。市場の縮小が進むと考えられるペット業界では、新しい需要も創造していかなればなりません。

小玉 業界をあげてペットホルダーを増やしていかなければなりません。

 ペットフード協会(東京都/越村義雄会長)によると、犬の飼育頭数は1087万2000頭、猫は974万3000頭で、飼育率はそれぞれ15.8%、10.1%となっています。ペットの飼育を希望する飼育意向率は飼育率の2倍近くあり、潜在的なニーズは高いと言えます。

 ペットの飼育を阻害する要因は、「集合住宅に住んでいて禁止されているから」「十分に世話ができないから」「最後まで世話をする自信がないから」「しつけをする自信がないから」などがあります。

 しかし、これらの不安や不満を解決することで、ペットホルダーを増やしていけると考えています。

 先ほど述べたように、当社にはペットに関する膨大な情報があります。ですからお客さまがどのような場面でお困りになるかをすべて想定し、解決策をご提案することができます。たとえば、膝の弱い犬種に合ったペットフードや運動の仕方を前もってお客さまにお伝えすることができます。当社はしつけ教室も運営しているので、さまざまな相談にも乗ることができます。また、高齢者が「最後までペットの面倒をみられない」と、ペットを飼うことを躊躇されているなら、万が一のときは保険でペットをサポートできる仕組みをつくることもできるでしょう。さらには、グループのカジタク(東京都/澁谷祐一社長)と組んで、犬の散歩をはじめさまざまなペット関連の支援サービスを提供することもできます。

 このようなことをお客さまに広くお伝えすることで、ペットを飼うことのハードルを下げることができると考えています。

──ペットの飼育を検討している方々に対し、どのようにリーチしますか。

小玉 1つ考えているのは、当社のWEBページをペット関連のコミュニティサイトにすることです。イオンのショッピングポータルサイト「イオンスクエア」のようなイメージで、ペットオーナーや飼育意向を持っている人同士が交流できるようなサイトをつくりたいと考えています。

 また、全国に約200ある店舗を通じてさまざまな情報を発信し、啓蒙していきます。現在、有料のしつけ教室を無料化したり、店頭でさまざまなご相談に乗ることで、お客さまの不安や不満を相当解消できると思います。

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聞き手

千田 直哉 / 株式会社ダイヤモンド・リテイルメディア 編集局 局長

東京都生まれ。1992年ダイヤモンド・フリードマン社(現:ダイヤモンド・リテイルメディア)入社。『チェーンストアエイジ』誌編集記者、『ゼネラルマーチャンダイザー』誌副編集長、『ダイヤモンド ホームセンター』誌編集長を経て、2008年、『チェーンストアエイジ』誌編集長就任。2015年、『ダイヤモンド・ドラッグストア』誌編集長(兼任)就任。2016年、編集局局長就任(現任)。現在に至る。
※2015年4月、『チェーンストアエイジ』誌は『ダイヤモンド・チェーンストア』誌に誌名を変更。

構成

小木田 泰弘 / ダイヤモンド・ドラッグストア 編集長

1979年生まれ。2009年6月ダイヤモンド・フリードマン社(現ダイヤモンド・リテイルメディア)入社。「ダイヤモンド・チェーンストア」誌の編集・記者を経て、2016年1月から「ダイヤモンド・ドラッグストア」誌副編集長、2020年10から同誌編集長。

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