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ユニクロやZOZOは知っている シンプルにビジネスを変えるために覚えたいデジタル化の本質

2016年冬、私は一人の大物と大手町で食事をしていた。彼は世界を代表するデジタル企業のトップである。わけあって、その大物とサシで話す場を得た私は、彼から、その後の私の視点を大きく変えるデジタル化の本質を聞いた。

peterhowell / istock

デジタル化の本質とは

 彼は言った。

 「デジタル化といっても、それほど難しいものではない。一言でいえば、企業の営業活動のプロセスごとに、なにかしらのセンサーをおき、そこから吸い上げるデータをクラウドに貯める。貯まったデータを人工知能(AI)で分析し、様々な意味合いを抽出して、さらに営業活動に役立てるということだ」

 大物であればあるほど、ものごとを単純化して人に伝えることが上手で、なるほどとスッと頭に入る。逆に、小物ほど、子細、細部の話、あるいは、ビジネスと関係ない専門用語の話を繰り返し、いくら聞いても事業視点の本質は見えないことが多い。

 当時、クラウド、IoT、オムニチャネル、ディープラーニングなど、バズワードが世の中に飛び交い、メディアは、今まさに世紀末と化したアパレル業界に「ノアの箱舟」が現れたと大騒ぎをし、「デジタル化に投資する」といえば株価が大きく上がった時代だった。かくいう私も、こうした世の中の動きに乗り遅れてはならないと、必死に学んでいた矢先、彼の一言で全てが繋がったような気がした。以後、何かに迷ったら、常に、彼の上記の言葉を思い出しデジタル戦略を考えるようになった。

 例えば、上記をアパレル業界に当てはめれば様々なことが見えてくる。

 

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マーケティングは「分析の切り口」が全て

 まず、「マーケティング」から考えていきたい。

「デジマ」(デジタルマーケティング)などという言葉がはやり、企業は「データサイエンティスト」と呼ばれる、デジタル・データ分析の専門家を置かねば生きてゆけない、などといわれていたのは記憶に新しい。しかし、よく考えればおかしな話だ。マーケティングというのは、「分析の切り口」が全てである。

 「分析の切り口」が違っていれば、データなどいかようにも解釈が可能だ。例えば私は、ハンズオン型コンサルタントだから、クライアントと一緒に実務をこなすのだが、当時、ビッグデータ分析と呼ばれるマーケティング企業の最終報告会に参加し、私を含め、参加している人達のほとんどが「居眠り」をしていたのを思い出す。つらつらと、何の仮説もないまま、ただデータを「教科書にのっているフレームワーク(枠組み)」に従って分析し、なんら示唆性のない、次のアクションに繋がらないPowerPointのスライドが100ページ以上も続くのだから、眠るなという方が無理な話である。多変量解析、コンジョイント分析、感度分析、クラスタリングなど、難解な用語が続く。おそらく、参加した人間は「So what ?」と聞きたいのだろうが、事業会社で「仲間を刺す」ことは御法度だ。誰もが居眠りをするしかないのである。聞けば、その部署(マーケティング部門)は、昔から何年も前から、このようになんらアクションに繋がらない調査を繰り返しているという。膨大に消費されたこれらの調査のほとんどはゴミ箱に直行していた。

反面教師にしたい
「本質を見ずに目新しさに飛びつく」愚

 さらに、驚いたのはB2B(企業間取引)企業にデジタル・マーケティングを導入しようというプロジェクトに立ち会ったときだった。おそらく、どこかの本に、「これからはB2Bであってもマーケティングが重要になる」とでも書いてあったのだろう。それをそのまま鵜呑みにし、また、クライアントもなんとなく斬新に聞こえる響きにプロジェクト化に踏み切ったのだろう。本質をみず、目新しさに飛びつく日本人によくある話である。

 しかも、そのプロジェクトで「ペルソナ」(自社の製品を購買してくれる顧客を偶像化してマーケティング戦略を考える手法)という言葉が出てきて、まず驚いた。私はポジティブに、「この企業は、いわゆるB2B2C(一見、企業間取引だが、前工程の企業の先にある一般消費者を見ながらマーケティング戦略を立案する考え方)なのだろう」と考え、前工程が持つべき顧客データを中間流通の当該企業が持つのだろう、と考えたのだが、どうも、そういうわけでもなかった。

 次に「マーケティングの4Pは」と話し始めたところで、「この人達は、なにも考えていないのだ」と悟った。当たり前である。4PのうちのPlaceは、前工程の企業に制約を受け、後工程の本企業になんら自由度はなかったし、Priceにしても、前工程の企業に売り込むことができても、その前工程の企業が自由に上代をつけるのだから、一体、この企業にとって「顧客」とは誰か、というところが見えなかったからだ。

 当然ながら、このプロジェクトは混乱を極め、いわゆるコンサルタントの最後の「伝家の宝刀」である「屁理屈」で、無理矢理因果関係を作って終了した。結果、誰もが何をしてよいか分からないまま役員の鶴の一声で中止となった。理由は、「何が何だかサッパリわからない」からである。

シンプルな戦略コンセプトこそ
強く、正しく、企業を導く

 次に「バリューチェーン」について考えたい。

 バリューチェーンとは、価値連鎖などと訳され、製品(工場の製造物)から商品(店頭での販売物)までのライフサイクルの道程を指し、工程ごとに製品(または商品)に付加価値を与え、最終的にマーケットに創出されるという概念だ。

 アパレル業界では、このバリューチェーンが、激しくフラグメント(分断)化されており、実際に製造を請け負っている商社でさえ、時にどの工場で生産されているのかわからないほどだ。SDGsにおいて重要な「トレーサビリティ」などあったものではない。サブコンにサブコンが組み合わさって、複雑怪奇なモノ、カネ、情報の流れとなっている。

 こうした「ものづくり」を最適化するのが、PLM (Product lifecycle Management)と呼ばれるパッケージソフトウエアである。主たる製造元は米国だが、いわゆる企業の「企画(アパレルでいえばMD業務)」、「生産(アパレルでいえば素材と付属発注、および組み立て工程)」、「流通(アパレルでいえば、海外からの貿易業務)」、「販売(アパレルでいえばECやリアル店舗販売)」の一連の流れとなる。

 アパレル業界では、販売はリテーラー、流通は商社、生産は海外工場で、企画はアパレルと考えればよい。

 冒頭の「大物」のシンプルなコンセプトに当てはめて考えれば、アパレル業界におけるバリューチェーンの全体最適化のためには、「どこかがクラウド上にPLMパッケージを上げ、それを、複数のバリューチェーン(ものづくりの流れ)を司る企業群が、共同で活用すれば良い」、ということになる。また、こうしたサプライチェーン(ものの流れ)を何本も束ねれば、産業効率も上がるし、実際に、クルマ業界などは、企業間を超えてそのような動きになっている。

 マーケティングのデジタル化(デジマ)もそうだ。顧客の動きを顧客接点のB2C企業の活動とするなら、それらをECによって吸い上げて、顧客の購買履歴データ(ダイナミックなデータ)をAIなどを使って分析し、顧客とのエンゲージメント(顧客との長期的な関係を強固にすること)を高めてゆけばよい。決して、商社などの中間流通が、Placeを考えるなどトンチンカンな話にはならないはずだ。このように、シンプルな戦略コンセプトというのは、かくも強力で、私たちを正しい方向に導いてくれる。

 しかし、現実はどうか。バリューチェーンを司る企業が、他社を出し抜いてでも自社に利益誘導するという「個別最適」に走り、また、デジタルベンダーも自社パッケージを個別企業に営業販売しようとする。おかしいなと思って調べてみると、米国や欧米などは、商社という中間流通は存在せず、バリューチェーン全体は極めてシンプルでスタティック(静態的)である。あまり茶化すのは本意では無いのだが、日本のデジタルベンダーは、こうした米国と日本の彼我の差を理解せず、米国から「日本は世界で最もでかいアパレル消費国の一つだ。PLMパッケージを入れろ」とプレッシャーをかけられ、個別最適営業をやっているように見えて仕方ない。

 

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プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)