ウィズコロナ時代のショッピングセンター経営13 脱賃料依存 テナントの企業成長からSCが収益を得る方法
売上ではなく企業成長からリターンを得る
仮に店舗内装の負担を5千万円だとしてもこの5千万円はあくまで単店ベースでの負担とリターンの期待に過ぎません。その店舗がうまく行くか行かないか、そこだけに成否が掛かることとなります。
これが「本当のテナント開発なのだろうか」というのが今回の問題意識です。本当のテナント開発とは、テナントを誘致しそこから賃料を収受するのではなく、そのテナント企業の育成と成長からリターンを得るべきと考えるのです。ここで重要なのは「店舗視点から企業視点」への転換です。
まず、仕組みを説明します。これまでテナントの内装投資に拠出していた資金を資本出資に変更します(図表2)。
この場合、資金を内装設備では無くテナント企業そのものに投資するのです。この狙いは、テナントの企業成長による「配当収入」と将来の「上場益」を狙うことにあります。
したがって、この手法には以下の能力が求められます。
①伸びる商品やサービスや技術などを見抜く目
②経営者の資質と企業の診断力
③出資した後の企業育成力
④上場を支援する証券取引業の知識
⑤場合によっては人の派遣
これまでのテナントリーシングとは、全く異なるアプローチです。これまでのような人気のあるテナントを追い掛けて自社SCに誘致しても内装投資や商品リスクをテナントに課し、出店してからのリスクを全てテナントが負担していくものではありません。
今のSCでは、出店したテナントは営業がうまく行かず退店となればそのリスクは数千万円、飲食店であれば億と言う単位の損失を被ることになります。これが本当の「テナント開発」でしょうか。
路面にある人気店を誘致し、出店に関する負担を背負ったがために倒産させてしまうようなテナントリーシングを多く見てきました。これからはそんなことがあってはいけないのです。
本当のテナント開発とは
今までのような人気店を誘致して店舗巡回とコミュニケーションと販促と接客ロープレとアナログなSC経営とは決別することを提案します。
これまで「これが売れる」「これがイケる」と誘致し、大きなリスクをテナントに課すのではなく、本当に「これが売れる」「これがイケる」と言うからにはそこに資金を出してハンズオンによってテナントを成長させ、出店を拡大し、その成長からリターンを得るビジネスにテナントリーシングを変えることです。これが本当のテナント開発ではないでしょうか。
これまでのSCテナントリーシングは、不動産の価値に依存した手法でした。これからは新たにテナントを作り出すテナント開発を行わなければテナント区画は到底埋まることはありません。
特に地方であれば地域の名産や名品や新たな商品開発などがその対象になるでしょう。素晴らしい製品やサービスを提供する方が未だ法人化されてしないようであれば、資金提供や定款作成、法人設立などエクイティ出資と経営コンサルティングの両方をSCが率先して行うべきだと考えます。
前の記事
ウィズコロナ時代のショッピングセンター経営12 花形から一転…テナントリーシング受難の時代到来と賃料ビジネスの崩壊

ウィズコロナ時代のショッピングセンター経営14 賃料ビジネスからの脱却とマルチ収益化の手法
商業施設の価値を再定義する「西山貴仁のショッピングセンター経営」 の新着記事
-
2025/12/01
第128回 少子高齢化時代におけるショッピングセンターのターゲット設定 -
2025/11/18
第127回 ショッピングセンターが「フロア収支」を採用しない理由 -
2025/10/31
第126回 SC運営の成否を決める顧客の滞在時間 “装置産業”としての役割とは何か -
2025/10/17
第125回 「駅ビル」が抱えるリスクを百貨店の歴史から考える -
2025/10/03
第124回 相次ぐフードホールの開業 日本で成功するためのカギとは -
2025/09/19
第123回 「営業時間統一」という常識打破に向け、SCに求められる対応とは
この連載の一覧はこちら [128記事]
関連記事ランキング
- 2025-11-25ワコールを追い詰めた「三つの革命」
- 2025-12-02HUMAN MADE上場から考えるファッション産業の構造的限界
- 2025-11-27急拡大するリカバリーウエア市場を攻略する
- 2024-09-17ゴールドウイン、脱ザ・ノース・フェイス依存めざす理由と新戦略の評価
- 2025-03-12ユニクロ以外、日本のほとんどのアパレルが儲からなくなった理由_過去反響シリーズ
- 2025-11-24間違いだらけのアパレルDX改革、根本から変えるべき「KPIの設計哲学」
- 2025-11-26業態別 主要店舗月次実績=2025年10月度
- 2021-11-23ついに最終章!ユニクロのプレミアムブランド「+J」とは結局何だったのか?
- 2022-04-22ユナイテッドアローズ重松理名誉会長が語る、創業秘話とビームスを立ち上げた理由とは
- 2024-09-03アローズにビームス…セレクトショップの未来とめざすべき新ビジネスとは



