破綻が迫るアパレル企業の事業再生手法#5 オペレーション改革、ターゲットは?
ターゲットは家賃とプロパー消化率向上、破棄損の撲滅
企業が行っている杜撰な(というより、古い教科書の)マーチャンダイジングおよび、ほとんど無意味な、「仕入れ先たたき」は、なんの利益ももたらさないだけでなく、かえって余剰在庫を増やし、商品品質を劣化させ、企業から競争力を奪っている。そして、今でも多くの企業が、こうしたやり方から抜けきれない。
ではどうしたらよいのか。
数字をみれば明らかで、アパレル企業が収益を良化させるには、二つしか解は無い。それは、
- 仕入れた商品はすべて売り切る
- 値引きをしない
である。
論理的に考えて、この二つが実現すれば、私の提唱する4KPIの「企画原価率」と損益計算書の原価率は等しく同じになる。ユニクロやワークマンが、企画原価率が40%を超えても、損益計算書の原価率が、一般アパレルより低いのはこのためた。私のこうした提言に対して、「実現できる企業は少ない」など、ご批判をされる方がいるのは知っているが、私はこのやり方で何社もの企業の利益率を上げ、再建に成功してきた。論理的であるということは、かくも強いのだ。
「『できない理由』をあれこれいう前に、なぜ、どうすればできるのかということを考えないのだろうか」といつも私は思う。昔の私なら、そのままクライアントに言っていただろう。しかし、そうした企業は、私が何をしても改革は無理だと思うようになってきた。ご自身が信じる道を歩めば良いと私は思うし、そもそも、私にあれこれいう義務も責任もない。
最近では、私が戦略コンセプトを説明したところ「イメージできない」という答えが返ってきて、支援を辞めたこともある。時代が変わり、世の中が変わり、勝ち方の法則も変わっているのだ。アパレル業界は、数社を除いて全滅に近い状況である。そんなときに、業績が悪化している企業が「イメージできるもの」だけをやって業績が改善すると思っているのだろうか。新しい時代のやり方こそ、自らの手でイメージできる姿に変えるのが自主的な改革というものではないだろうか。
「改革の先導者」と現場が一体となり、例えまだ世にないコンセプトであっても、それが机上の検討であっても、論理的に正しいものであれば「まず、やってみよう。きっといけるはずだ」という気持ちがなければ企業改革は成功はしない。私にそれを言う資格もリーダーシップもないとおっしゃるなら私は引こう。ぜひ、ご自身の信じる道を進んでいただきたい。
私も若い頃は、幾度も「反対勢力」に対して向き合い、幾度も説得を繰り返してきた。しかし今思えば、そのような説得で人の気持ちが前向きになったという経験はない。はしごを外されたり、嘘をつかれる、裏をつかれるなど、次から次へと生まれる反対に丁寧に向かい合っていたら、精神的にも持たなくなる。ましてや、今はコロナの時代だ。「寿命」と感じる企業は、時代の新陳代謝の流れには逆らってはならない。社会科学の世界に「正解」など存在しない。「世界」があるとしたら、それは強いビジョンだけだろう。
そして、アフターコロナの時代では、産業の「膿」が吐き出され、価値のあるものだけが残ることになる。私は、何十年も企業再生を生きがいのある仕事であると錯覚していたようだ。今は、ラストチャンスである。長く続いたラットレースから抜け出し、ともに前を向く人や組織と改革することが私以外の方も含めた改革者のミッションだ。
では次ページで、①仕入れた商品はすべて売り切る②値引きをしないための、具体的手法を解説する。
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