新型コロナウイルス感染拡大に伴う巣篭もり消費の活発化により、特需に沸く食品スーパー業界。店舗だけでなく、ネットスーパーの利用も増加傾向にあり、各社の業績はまさに絶好調だ。コロナ禍収束の兆しがいまだ見えない中、食品スーパーは「我が世の春」を謳歌し続けられるのか。大手食品スーパーの戦略を連載で見ていく。
業界の重鎮・清水信次会長の先見性
食品スーパー業界の最大手は、首都圏と近畿圏で事業を展開するライフコーポレーション(大阪府:以下、ライフ)。日本チェーンストア協会会長など食品スーパー業界の要職を歴任し、政財界にも顔が利く業界の重鎮、清水信次会長が一代で築き上げた企業だ。
「食品スーパーはこれからある程度の規模になっていないと勝ち残りは難しい」(清水氏)とし、1990年代前半から清水氏が言うところの「怒涛の出店」を繰り広げてきた同社。東京と大阪の中心エリアに大量出店を仕掛け、今日に続く基盤を築いてきた。
2008年には、総合商社大手の三菱商事と資本業務提携を電撃的に締結し、業界を騒がせた。次世代の成長を担う人材を求めたライフは、三菱商事出身の岩崎高治氏を社長に迎え入れる。こうした清水氏の先見性もあり、業績は堅調に伸びていき、現在は業界最大手の地位を獲得している。
早くも業績を上方修正!
足元の業績も好調だ。コロナ禍収束の気配が見えないなか、巣篭もり消費の恩恵を受け、既存店売上高は絶好調と言っていい。コロナ直近月の既存店売上高を見てみると、2020年2月が対前年同月比8.6%増、3月が同6.9%増、4月が同15.0%増、5月が同8.9%増。6月に入り同2.5%増と落ち着くかと思われたが、7月は同7.1%増と再び大きく伸びている。
21年2月期第1四半期業績を発表した7月10日には、通期業績予想を早くも上方修正。営業収益は7340億円と期初予想から80億円上振れるとし、営業利益も161億円と13億円上方修正している。予想通りとなれば、過去最高益を記録する見通しだ。
アマゾンとのタッグでネットスーパーを展開
好業績の原動力となっているのは、既存店売上高の増加であることは間違いない。ただ、かねてより展開しているネットスーパー事業も業績に大きく寄与していると思われる。
ライフは19年9月にアマゾン ジャパン(東京)と提携し、店頭で扱う生鮮食品や総菜、プライベートブランド(PB)商品を宅配するネットスーパーサービスを開始している。
同サービスはアマゾンの有料会員向けの即時宅配サービス「PrimeNow(プライムナウ)」で利用することができる。利用客はプライムナウの専用アプリで注文、オーダーを受けたライフの従業員が店頭で商品をピッキングし、アマゾンの配達員が配送する仕組みだ。注文から最短2時間で商品を届けることができる。
同サービスは都内7区からスタートし、約1年を経過しようとしている現在は都内23区、都下4市を加えている。7月16日からは大阪市内16区でもサービス提供を開始、順調にエリアを拡大中だ。
コロナ禍に伴う巣篭もり消費の活発化により、食品スーパー各社のネットスーパーは一時期、「注文しても届くのは数日後」という状況となった。強固な物流網を持つアマゾンとの提携は、ライフにとって追い風となった格好だ。
ライフの岩崎社長は今年1月時点で、ネットスーパーは「(展開店舗のうち)20店が黒字化している」と発言している。巣篭もり消費という特需で、ネットスーパーにも思わぬ加速があったのは想像に難くない。
ビオラルがついに東京進出
今後の巣篭もり消費の行方は不透明だが、「一度でもネットスーパーの利便性を享受した消費者は継続して(ネットスーパーを)利用するようになる」(ある食品スーパーの幹部)と言われている。ネットスーパー市場の拡大は、サービス拡大中のライフにとって確実にプラス材料となるだろう。
さらにライフは、新たな店舗フォーマット構築も力を入れており、「Miniel(ミニエル)」という都心型の小型食品スーパーを大阪府内に開業。まだ実験的な要素が強いが、「BIO-RAL(ビオラル)」という自然派志向のスーパーの展開にも乗り出しており、今年は東京1号店を吉祥寺にオープンする予定だ。
足元の業績が好調に推移する中でも、次の成長に向けた布石も着々と打っているライフ。最大手の動向に業界の注目が集まっている。