価格転嫁進まぬアパレル業界……衣料品は本当に30%も売れ残っているのか?

小島健輔 (小島ファッションマーケッティング代表)

環境省が発表した「令和6年度(2024年)循環型ファッションの推進方策に関する調査」では、衣料品の平均売れ残り率は29.6%と報告されている。果たして本当なのだろうか? 前後して日本繊維輸入組合が発表した「日本のアパレル市場と輸入品概況2025年版」や24年の家計調査と合わせて検証してみた。

文=小島健輔 (小島ファッションマーケッティング代表)

Rafa Jodar/iStock

29.6%が売れ残って24.4%が持ち越される

 環境省が三菱UFJリサーチ&コンサルテイングに委託して調査した「令和6年度(2024年)循環型ファッションの推進方策に関する調査」は重量(kt/キロトン)ベースの報告で下着やナイティまで含むが、輸入と国内生産から輸出を差し引いた国内新規供給量は822kt、販売量はユニホームなど業務用も含めて811ktだった。新規供給に加えて前期からの持ち越し在庫205ktが市場に投入され16ktが廃棄されたから、新たな持ち越し在庫が201kt発生したと結論している。

 国内新規供給量(822kt)に対する新規発生持ち越し在庫(201kt)の比率は24.4%になるが、これは環境省が矢野経済研究所に委託した「令和4年度(2022年)アパレル事業者アンケート」に基づくもので、令和6年に新規に調査したデータではない。小売・メーカーから卸・商社まで対象190社中109社、57.4%が回答した矢野経済研究所のアンケート調査(ヒアリングも含む)によれば、『平均して29.6%が売れ残り、うち2.7%を二次流通業者に売却、1.9%を廃棄・焼却し、24.4%を翌期に持ち越した』と報告している(図表①)。

図表① (出典:矢野経済研究所)

 「29.6%が売れ残った」という調査結果は個別企業段階としては驚くほどの高さで、アンケートの設問や集計に問題があったと疑わざるを得ない。同じ環境省が日本総合研究所に委託した「令和2年度(2020年)ファッションと環境に関する調査」では、似たような設問のアンケート調査の結果として、『平均して13.61%が売れ残り、うち3.16%をアウトレットで販売し、3.59%を卸・商社など川上産業に返品、0.3%を廃棄処分し、6.25%を持ち越した』(図表②)と報告しているから、矢野経済研究所による2022年のアンケート報告とは随分と乖離している。

図表② (出典:日本総合研究所)

 2020年の調査は小売・メーカーから卸・商社まで500社に調査票を発送して29社(5.8%)の回答を得たとしているから、回答率から見て回答要請のプッシュやヒアリングは行われなかったと推察される。2022年の矢野経済研究所によるアンケート調査では57.4%という格段に高い回収率を得ているから、回答要請のプッシュやヒアリングを行ったと推察されるが、そのぶん、回答にバイアスがかかった可能性が指摘される。2020年の調査も5.8%という低い回収率では回答の偏りが否めず、どちらも環境省という国家機関の発表値としては信頼性を欠くものと言わざるを得ない。

1 2 3

記事執筆者

小島健輔 / 小島ファッションマーケッティング 代表

小島ファッションマーケティング代表取締役。洋装店やブティック、衣料スーパーを経営する父母の下で幼少期からアパレルとチェーンストアの世界に馴染み、日米業界の栄枯盛衰を見てきた流通ストラテジスト。マーケティングとマーチャンダイジング、VMDと店舗運営からロジスティクスとOMOまでアパレル流通に精通したアーキテクトである一方、これまで数百の商業施設を検証し、駅ビルやSCの開発やリニューアルにも深く関わってきた。

2019年までアパレルチェーンの経営研究会SPACを主宰して百余社のアパレル企業に関与し、現在も各社の店舗と本部を行き来してコンサルティングに注力している。

著書は『見えるマーチャンダイジング』や『ユニクロ症候群』から近著の『アパレルの終焉と再生』まで十余冊。

関連記事ランキング

関連キーワードの記事を探す

© 2025 by Diamond Retail Media

興味のあるジャンルや業態を選択いただければ
DCSオンライントップページにおすすめの記事が表示されます。

ジャンル
業態