価格転嫁進まぬアパレル業界……衣料品は本当に30%も売れ残っているのか?
「中抜き」か「製販同盟」か
輸入コストが急上昇する中、卸段階(OEMサプライヤーや商社も含む)や小売段階でコスト上昇分の多くが吸収され、差益の減少や売れ残り(翌期への持ち越し)の増加を招いたが、アパレル業界はどう対策したのだろうか。一言で言えば「中抜き」の加速だったのではないか。
前述したように輸入コスト上昇分の卸価格転嫁率が91.5%と苦しかったから、商社の多くは繊維製品部門の縮小や売却に動き、アパレルチェーンは「直貿」の拡大に走った。「直貿」と言っても発注と決済にとどまっては生産管理(縫製仕様と工程・納期の擦り合わせ)や調達物流に齟齬をきたすから課題を残すが、とりあえず幾分かのコストは吸収できる。工場直の調達原価率(売価比)とOEMサプライヤー経由の調達原価率の差は2018年の調査でも2019年の調査でも2.2ポイントだったから、「直貿」によって吸収できるコストはその半分弱、最大でも1.0ポイントほどと推察される。
「直貿」のもうひとつの弊害はサプライヤーの補給力を断ち切ってしまうことだ。小売チェーンがOEM/ODMサプライヤー経由でPBを調達する場合、一括調達とは限らず、販売消化に応じた分納や補充生産を委任するケースもある。それをEOSデータ連携して製販同盟に昇華したのがVMI※だが、それを「直貿」で崩した事例がある。
※VMI(Vendor Managed Inventory)・・・あらかじめ定めた陳列棚割と販売計画に基づいてベンダーに在庫管理と補給・補充生産を委任する取引形態。同一商品を継続補給する「台帳型サプライ」が一般的だが、アクセサリーやベルトなど服飾雑貨では類似アイテムをリレー供給する「トコロテン型サプライ」も多い。

ワークマンは長らくVMIを活用して欠品回避と在庫リスク軽減を両立させ、値引きロスは1〜2%に収まっていたが、「ワ―クマンプラス」や「#ワークマン女子」への急激なシフトで25年3月期のPB比率は68.5%、海外直接調達比率は63.1%に高まり、VMIが崩れて在庫回転が4期間で4.79回から3.48回に減速し、値引きロスも増えた。その一方、しまむらはJB(Joint Development Brand)という擬似的なVMIを活用して在庫効率も付加価値も高めている。
アパレル業界はコストインフレと売価転嫁困難という現実に挟まれ、工場直接調達による「中抜き」か、サプライヤー活用による製販同盟VMIか、という正反対の選択を迫られている。自社にとって、どちらが顧客の支持と経営効率を高める「全体最適」か、慎重に検討するべきだろう。
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