もはや日本は亜熱帯!? 温暖化でもアパレル小売が儲けるための3つの秘訣

2025/06/23 05:00
小島健輔 (小島ファッションマーケッティング代表)

VMIと二毛作という選択

 定番商品はスペック開発も補給や期中の補充生産もサプライヤーと組んでVMI※を仕組むのが賢明で、「#ワークマン女子」を展開する前のワークマンはVMIサプライと買取型FCを組み合わせて欠品回避と在庫リスク回避を上手く両立させていた。

※VMI(Vendor Managed Inventory)・・・あらかじめ定めた陳列棚割と販売計画に基づいてベンダーに在庫管理と補給・補充生産を委任する取引形態。同一商品を継続補給する「台帳型サプライ」が一般的だが、アクセサリーやベルトなど服飾雑貨では類似アイテムをリレー供給する「トコロテン型サプライ」も多い。

 「ワークマン+」と「#ワークマン女子」を合わせた売上高がワークマンの全体売上高の65.7%を占め、PB比率が68.5%、海外直接仕入れ比率が63.1%に達した253月期は本部在庫の回転数(FC店在庫は含まない)が3.48回と223月期の4.79回から1.31回転も減速したが、VMIから直接調達のSPAへシフトした影響も大きかったと思われる。

 VMIとまではいかなくても、スペック開発と補給をサプライヤーと分担してもらうという点では、しまむらのJBJoint Development Brand)も同様のメリットがある。「ファッションセンターしまむら」の平均商品単価は過去3期間(232月期~252月期)で862円から990円へ14.8%上昇しており、付加価値と粗利益率の向上(同期間に0.9ポイント上昇)に貢献していると推察される。

 米国でも、カントリージーニングのカジュアルチェーン、バックル(Buckle)がサプライヤーと組んだJBを競わせて在庫効率を高め、突出した高収益を謳歌している。251月期のギャップとバックルを比較すれば、売上規模はギャップ(GAP)の1509000万ドルに対してバックルは122000万ドルと、12倍以上の大差があるものの、営業利益は4.6倍の差しかない。粗利益率※はギャップの47.2%に対してバックルは58.9%、営業利益率はギャップの7.4%に対してバックルは19.8%と収益力が格段に違う。

高収益で知られるバックルのJB(筆者撮影)

※粗利益率・・・ギャップ社もバックル社も商品原価にオキュパンシーエクスペンス(地代家賃)含んで開示しているため、その分、見せかけの粗利益率が低くなっている。本稿では商品原価からオキュパンシーエクスペンスを差し引いて粗利益率を算出している。

 セレクト商品が過半を占めるバックルの粗利益率が元祖SPAのギャップより11.7ポイントも高いという事実は、自社完結の開発型SPAよりサプライヤー活用のVMIのほうが消化歩留りが格段に高いことを実証している。バックルの消化歩留りの高さは在庫運用のエリア分権も奏功しており、詳しくは24327日のダイヤモンド・チェーンストア・オンライン掲載記事『イトーヨーカ堂とギャップがハマった現場弱体化の「落とし穴」とは』を参照されたい。

 VMIと並ぶもうひとつのサプライヤー活用策が「二毛作」だ。紳士服や防寒衣料など季節の売上が偏るアパレル小売の場合、夏場や端境期の売上を底上げしようとしても在庫負担がネックになって踏み切れないことが多い。販売期間が短いと在庫が残って利益を食い潰してしまうからだ。そんなネックを催事販売による「二毛作」が解決する。

 かつてはリゾートウェア、エスニック衣料・雑貨の専門サプライヤーなどに限られていたが、昨今では均一価格雑貨やキャラクター雑貨のラックジョバー、お洒落なD2Cアパレルのポップアップショップ(期間限定店舗)などにも広がっており、スペースに余裕のある店舗なら相応に活用できる。客層が共通し、什器・照明、フィッティングルーム、レジが使えることに加え、店舗のスタッフに陳列・販売を任せられるなら、組めるサプライヤーの幅が広がる。

 期間限定の催事販売では、陳列・販売のスタッフを遠隔派遣するコスト(交通費や宿泊費)が重く、現地でのバイトや派遣の確保はスキル不足の懸念があって難しい。そのため、サプライヤーとしては陳列・販売スタッフを用意してくれる出店案件に絞らざるを得ない。

小島健輔(小島ファッションマーケッティング代表)
小島健輔(小島ファッションマーケッティング代表)

 ポップアップショップを広げる商業施設では地元の販売代行業者と組んでサプライヤーを勧誘しているぐらいだから、小売店舗側のスタッフが陳列や販売を担うなら売上の取れるサプライヤーを確保し易くなる。そうすれば「二毛作」も難しくないのではないか。

 戦略的な次元から泥臭い現実対応まで、温暖化への多様な損益対策を挙げてみたが(コンサルの実務ではこの多次元視点が不可欠)、それぞれの事情に応じて可能なところから取り掛かればよいと思う。

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記事執筆者

小島健輔 / 小島ファッションマーケッティング 代表

小島ファッションマーケティング代表取締役。洋装店やブティック、衣料スーパーを経営する父母の下で幼少期からアパレルとチェーンストアの世界に馴染み、日米業界の栄枯盛衰を見てきた流通ストラテジスト。マーケティングとマーチャンダイジング、VMDと店舗運営からロジスティクスとOMOまでアパレル流通に精通したアーキテクトである一方、これまで数百の商業施設を検証し、駅ビルやSCの開発やリニューアルにも深く関わってきた。

2019年までアパレルチェーンの経営研究会SPACを主宰して百余社のアパレル企業に関与し、現在も各社の店舗と本部を行き来してコンサルティングに注力している。

著書は『見えるマーチャンダイジング』や『ユニクロ症候群』から近著の『アパレルの終焉と再生』まで十余冊。

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