アパレル業界再編のトリガーは?A.T.カーニー福田稔氏が見通す
サステナブル開示が業界再編を誘発する
──サステナブルに対するニーズはあるのでしょうか。また、サステナブルブランドは国内でどの程度成長できるのでしょうか。
福田 業界全体の要請として、サスナビリティ(持続可能性)に関するさまざまな基準の開示や順守が今どんどんルール化されています。欧州ではすでに自社の環境負荷条項を開示するようになっています。
国内でも経産相の諮問機関である産業構造審議会内の繊維産業小委員会で、6月に「環境配慮情報開示ガイドライン」が公表されました。上場企業であれば、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)対応が必要です。
また、消費者側も変わってきていて、多少お金が高くてもサステナブルなブランドを選ぶ人がだいぶ増えています。この動きは規制側、消費者側の両方で強まっていくでしょう。
ただ、コンセプトとしてサステナブルがビジネスになるかどうかは別の話です。サステナビリティの順守はアパレルビジネスを手掛ける前提として守るべきことです。それを売るためのトレンドとか、もうかるかどうかで捉えるのは、間違っています。
──ルールの順守にはコストがかかるので、対応するには企業の収益力が今後より重要になるということですね。
福田 そうです。アパレルに限らず、さまざまな消費材で中堅企業の淘汰が今後起こると思います。グリーント・ランスフォーメーション(GX:クリーンエネルギー中心の社会への変革)は、コストがかかるため、企業によって明らかに差が出るでしょう。
──対応するためには最低どの程度の企業規模が必要でしょうか。
福田 難しいですが、上場企業でも最低売上高1000億円程度は必要なのではないでしょうか。非上場であれば開示コストはだいぶ減りますし、必要な対応を行えばよいので、ハードルは下がると思います。
──サステナブル情報の開示を回避するためMBO(経営陣による買収)による非上場化の可能性もありますか。
福田 検討はできますが、イグジット(投資回収)が難しいと思います。たとえば日本は同じ業態で売上規模が横並びの会社が多いので、上位2、3社へのロールアップ(連続的な企業買収)や集約が進んでいくでしょう。
──集約するためにどんな動きが考えられますか。
福田 商社主導による合従連衡が進んでいくかもしれません。2022年に日鉄物産の繊維事業と三井物産アイ・ファッションがMNインターファッション(東京都/吉本一心社長)に事業統合したような動きが今後も起こると思います。
ブランド側も、たとえば他ブランドを買収するパターン、ファンドが投資するパターン、アパレルに参入したい別事業を行っている企業や総合リテールが専門店の一つとしてアパレルを買うなどさまざまなパターンがあり得ると思います。