ドラッグストア業界の売上高首位がまた入れ替わった。ツルハHD(北海道)が2019年5月期連結決算を発表し、ウエルシアHD(東京都)を抜いてトップに躍り出た。先月はココカラファイン(神奈川県)をめぐる“縁談話”が取り沙汰されるなど、話題が尽きないドラッグストア業界。本稿では、これらのトピックスを踏まえ、ドラッグストア業界の今後を予想してみる。
※HD=ホールディングス
マツキヨ・ココカラの“縁談”にスギが「待った」
6月17日、ツルハHDが2019年5月期の連結決算を発表した。売上高が対前期比16.2%の7824億円、本業の稼ぐ力を示す営業利益が同4.0%増の428億円と2ケタ増収を達成。ウエルシアHDを売上高で30億円ほど上回り、売上高トップに躍り出た。
2015年にレデイ薬局、17年に杏林堂グループ・HD(現・杏林堂薬局)を買収しているツルハHD。今回の首位浮上も、中部圏地盤のDgS企業であるビー・アンド・ディーHD(現・ビー・アンド・ディー)の買収効果が大きい。
このように、ドラッグストア業界ではほかの小売業と比べてM&A(合併・買収)に積極的な企業が多い。次はどの企業がM&Aに踏み切るのか。いま業界で最も注目を集めているのが、ココカラファインをめぐる経営統合の動きである。
整理してみよう。事の発端は、マツモトキヨシHDが4月26日に発表した、ココカラファインとの「資本業務提携」に関する検討および協議を開始するという内容のニュースリリースだ。この約1カ月後の6月1日、スギHDがココカラファインとの「経営統合」に関する検討および協議をスタートすると発表した。すると、その2日後の6月3日、マツモトキヨシHDはココカラファインとの協議を継続するとのニュースリリースを公表。さらに5日には、ココカラファインと「経営統合を含むあらゆる選択肢」を検討・協議を進めていくと“追い打ち”をかけている。
ドラッグストア業界に詳しいアナリストの1人は、一連の動きについて「ちょうどマツモトキヨシHDとココカラファインの“縁談”に、スギHDが『待った』をかけた状況。マツモトキヨシHDから『経営統合』という言葉を引き出した意義は大きい」と評価する。
ココカラファインが手を結ぶのはどちらか。3社の最新期(19年3月期)の売上高は、マツモトキヨシHDが5759億円、スギHDが4884億円、ココカラファインが4005億円。経営統合が実現すれば、ツルハHDの売上高を上回る企業連合が誕生することになる。
ドラッグストア企業連結営業収益トップ10社
順位 | 社名 | 決算期 | 売上高 | 増減 | 営業利益 | 増減 |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | ツルハHD | 19/5 | 782,447 | 16.2 | 41,826 | 4.0 |
2 | ウエルシアHD | 19/2 | 779,148 | 12.1 | 29,045 | 0.8 |
3 | サンドラッグ | 19/3 | 588,069 | 4.2 | 35,233 | ▲ 2.3 |
4 | マツモトキヨシHD | 19/3 | 575,991 | 3.1 | 36,028 | 7.3 |
5 | コスモス薬品 | 18/5 | 557,999 | 11.0 | 22,749 | 2.3 |
6 | スギHD | 19/2 | 488,464 | 6.9 | 25,817 | 4.3 |
7 | ココカラファイン | 19/3 | 400,559 | 2.5 | 12,915 | ▲ 5.8 |
8 | アインHD | 19/4 | 275,596 | 2.7 | 16,067 | ▲ 18.1 |
9 | クリエイトSDHD | 18/5 | 268,161 | 8.4 | 13,861 | ▲ 4.0 |
10 | カワチ薬品 | 19/3 | 264,926 | ▲ 1.2 | 3,886 | ▲ 15.0 |
単位=百万円、%
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サンドラッグが組むのはあの企業!?
業界3位サンドラッグはどう動く?!
そうなると、気になってくるのは売上高3位のサンドラッグ(東京都)の動きである。前出のアナリストが指摘するのは、コスモス薬品(福岡県)との提携・経営統合の可能性だ。
福岡を地盤とするコスモス薬品は、標準化を徹底した食品強化型フォーマットで“東征”を続けており、今年4月には東京・広尾に小型店を出店、東京進出を果たしている。なぜ、サンドラッグとコスモス薬品なのか。
意外にも2社の共通点は多い。「システム志向、標準化志向であることに加え、トップが“割り切った経営”をする点でも共通している」と前出のアナリストは話す。
眉唾に思える話かもしれないが、サンドラッグは4月、創業者・多田幸正氏の長男である多田直樹氏が取締役管理本部長に就任する人事を発表している(前役職は非常勤取締役)。「創業家一族が表舞台に現れる最大のメリットは、意思決定スピードが早くなること。多田氏の人事は、近い将来に予定するM&Aに備えているととらえることもできる」(同アナリスト)。
ドラッグストア売上高ツートップの“イオン系”2社の売上高を合わせると約1兆5000億円になる。マツモトキヨシHDがココカラファインとの“縁談”を成立させれば、1兆円規模のドラッグストア企業が誕生する。可能性は低いが、スギHDを含めた3社連合となればイオン系2社に匹敵する規模になる。そして、サンドラッグ・コスモス薬品連合が仮に実現するとなれば、これも売上高1兆円超の企業体となる。
ドラッグストア業界は1兆円企業の「三極体制」となるか。成長鈍化が囁かれるドラッグストア業界。これまでにないほど、合従連衡の機運が高まっている。