熊本県を中心に、九州北部で総菜専門店を展開するヒライ(熊本県/平井浩一郎社長)。主力の総菜と弁当に加え、飲料や加工食品などの物販スペース、多種多様なメニューを揃える飲食スペースも併設するという特徴的なフォーマットと商品力の高さで熱烈な支持を集めている。独自路線で成長を遂げるヒライの店づくりに迫る。※文中の価格・商品名は取材時(19年3月)のもの
総菜・コンビニ・食堂をミックス!
「おべんとうのヒライ」と聞いてピンときたあなたは、もしかすると熊本出身ではないだろうか?
1968年、熊本県で創業した総菜チェーンのヒライ。九州以外ではあまり知られていないが、現在は本拠の熊本県のほか、福岡県、佐賀県、大分県を含む九州北部で約130店舗を展開している有力企業だ。
少子高齢化や有職女性の増加といった社会環境の変化により、中食市場は拡大の一途をたどっている。ただ、総菜専門チェーンはコンビニエンスストアに年々シェアを奪われており、上位企業でも売上が減少傾向にあるなど厳しい状況だ。熊本という地方を本拠としながら成長を続けるヒライは、業界でも異色と言える存在なのである。
ヒライの店づくりのコンセプトは一般的な総菜専門チェーンとは大きく異なる。標準的な店舗の売場面積はおよそ55~60坪で、コンビニエンスストアとほぼ同じ。しかしその限られたスペースの中で、本業である総菜・弁当の売場だけでなく、飲料、菓子、加工食品などを販売するコンビニエンスストア的な機能を持つ売場、そしてうどんやカレーなどを提供する食堂の3つを併設している。
総菜店でもあり、コンビニエンスストアでもあり、飲食店でもあるという3つの顔を持ち合わせているのがヒライの大きな特徴だ。日常のさまざまな生活シーンに対応することで、地域住民にとってなくてはならないライフラインとなっているのである。
「ちくわサラダ」の発祥!高い商品力がお客を引きつける
そうした利便性の高いフォーマット以上に人気を集めているのが、商品力の高さだ。
店内に入るとまず目に飛び込んでくるのは、売場中央部の平台や冷蔵ケースにぎっしりと並べられた店内調理の総菜の数々。天ぷらやフライなどの揚げ物類、グリル総菜、中華総菜、煮魚や焼き魚などの魚総菜、サラダ、おでんなどが展開されている。
そのなかでひと際大きな存在感を放つのが、「ちくわサラダ」である。今や熊本のB級グルメとして全国区の知名度を誇るメニューだが、実はヒライが発祥である。
20年ほど前、ある店舗で発注ミスによってポテトサラダが大量に余ってしまったことがあった。そのとき女性の従業員のアイデアで、ちくわの穴にポテトサラダを詰めて揚げてみたところ大ヒットしたというのが誕生秘話だ。最近ではカルビーとヒライがコラボ開発した「ポテトチップス ちくわサラダ味」(ヒライ限定発売)も発売され話題となっている。
店内調理の弁当も大きな集客ツールの1つだ。「焼鯖弁当」「大きな明太子弁当」(各476円)、「牛カルビ焼肉弁当」(509円)、「ハンバーグステーキ弁当」(444円)など多彩なメニューをリーズナブルな価格で販売している。
このうち一部のメニューについては、注文してから調理する「出来たての商品」の購入も可能だ。弁当コーナーに設置されたモニター端末で発注すると、オーダーが厨房に転送され調理が開始される。数分で出来上がるため、ほかの買物を済ませてからレジに行くと、商品を受け取ることができるという仕組みだ。
一方、物販スペースではチルドの米飯やサンドイッチ、アルコールを含む飲料、菓子、アイスクリーム、パン、挽きたてコーヒー、新聞などを販売する。コンビニエンスストアを意識した品揃えだが、値札に「毎日安い! !」と掲げているとおり、価格は全体的にコンビニエンスストアよりも安く設定されている。
たとえば、おにぎりは100~110円の商品が中心。自社の製造工場から供給を受けている独自商品であり、そのぶん価格は割安となっている。また、ヒライはCGCグループ(東京都)に加盟しており、菓子や加工食品の一部で同グループのオリジナル商品を展開している。見た目はコンビニエンスストアと変わらないが、安価な商品を差し込むことで、物販も重要な集客装置となっているのだ。
食堂のメニューは50種類以上!
最後に食堂についても見ておこう。多くの店舗では20席~30席ほどを設置しており、提供するメニューは50種類以上に及ぶ。ラーメンやうどん、そば、カレー、カツ丼や焼肉丼などの丼もの、さらに午前6時から10時の間には朝定食も販売する。とってつけたような飲食スペースではなく、正真正銘の食堂なのである。
メニューの豊富さ以上にここでも驚くのが価格の安さだ。たとえば「かけそば」は220円、「カレー」は420円、「カツ丼」は500円。取材時に最も高かったのは「春待ちちゃんぽん チャーハンセット」で780円だ。ファストフード店と同等か、それよりもリーズナブルに感じる。
安いだけでなく、もちろん味にもこだわる。食堂のメニューは、売場に並ぶ総菜・弁当と一緒に店内併設の厨房で調理される。基本的に冷凍素材は使わず、生の素材を使用しているのもヒライの特徴だ。といっても、店内で一から調理・加工しているわけではない。自社の調理センターで素材をキット化して各店舗に配送し、店舗では揚げたり焼いたりといった最終工程のみを行うことで、オペレーションの負荷を下げている。
また、食堂で提供するメニューも、売場に並ぶ総菜も、価格と味の両方を追求するのがヒライの大原則だ。商品開発に際しては、地域で人気の店の商品をベンチマークすることが多いという。本格的な味の商品を手頃な価格で手軽に味わえるために、ヒライは「食事する場所」としての人気も高いのである。
消費者の目線で考えると、ヒライさえあれば、ふだんの買物や食事をほとんどまかなうことができる。総菜・コンビニ・食堂を融合させるという、一見すると異色のフォーマットではあるが、実は今日の消費者ニーズに合った合理的なフォーマットだと言える。
ヒライの店づくり、商品づくりの手法は、多くの食品小売業にとって、既存のビジネスモデルを変革するうえで大きな示唆を与えてくれるのではないだろうか。
※「ダイヤモンド・チェーンストア」4月1日号では、ヒライの平井浩一郎社長のインタビューも掲載しています。ぜひご覧ください