ライフ創業者 清水信次さん、逝去 生前語った「日本の流通業の在り方」
寡占化は進まなくて良い
──ここにきて、日本市場も寡占化傾向が鮮明になってきましたが、欧米との比較でいえば、まだまだ序の口です。
清水 ヨーロッパの先進国では上位5社を合わせたシェアは60~70%と言われています。それに対し日本はまだ1桁%台です。
日本の流通市場寡占化は、いまのところ進んでいません。しかし、それでいいと思っています。欧米のような数社による寡占化は肯定できません。
かつて日本でも、GMS(総合スーパー)を展開する大手企業5社が巨大化を図っていましたが、いまは事実上、2社態勢になっています。基本的に巨大化には賛成しかねますが、大規模なグループの存在を認めないわけではありません。
ただ、巨大な大手があるのであれば、中堅クラス、地元の零細クラスもあった方がいいのです。お客さまの選択肢の幅が広がるからです
──ライフコーポレーションは、大きな目標を立てています。巨大化を志向されているのではないですか?
清水 3年後の創業50周年に向け、250店舗、売上5000億円という目標設定をしています。しかしながら、巨大化・肥大化は危険だと考えています。お客さまのご要望があり、自然体で大きくなっていくのはやむをえませんが、ムリに背伸びして、大きな借金をこしらえてまでの巨大化は望みません。地味で、堅実な方がいい。
──「無謀な拡大」よりも「着実な発展」が求められています。
清水 歴史に学べば、そのようにいうことができます。かつて、スペイン(パックス・エスパニューラ)やイギリス(パックス・ブリタニカ)が世界を制覇したことがありました。
しかし、現代は同じ位置にはいません。アメリカは一時期、かなりの勢いがあったけど、国の中身を見れば決していい状態とはいえません。そんなアメリカがアジア、中東、アフリカ、またヨーロッパの政治・経済にまで口出ししようとしています。自分の足下を穏やかに、静かに見ていればいいのに、と思います。
自己利益追求一辺倒はいつか破綻する
──それでは日本の流通業界はどうすべきだとお考えですか。
清水 まず業界全体としての戦略が必要です。明治期以来、140年が経過しましたが、明治時代の45年、大正時代の15年、計60年を費やして日本は世界の大国のひとつにのし上がりました。
それなのに昭和元年からの20年間ですべてを台無しにしてしまった。戦争で負け、こんな体たらくになってしまっている。実を言えば、明治から間違っていたという考え方もあります。日清戦争だって、日露戦争もそうです。つまるところ国家政策という戦略の間違いが原因だったのです。
──その意味で流通業界も大局観に立った戦略が必要だということですね。
清水 これからはどういう姿があるべきかという大きなテーマのもとに、流通業界のリーダーは話し合わなければなりません。
日本には流通業界の団体がたくさんありますよね。日本スーパーマーケット協会、日本チェーンストア協会のほか、CGCのようなボランタリーチェーンなど多くの団体もあります。これはどういうことか。つまり全体としての流通戦略がないわけ。ばらばらなのです。
われわれの絶対的な使命は、安全、安心な商品を安定供給することにあります。
ここに注力すべきなのです。その大前提を破って、自分の会社だけが大きくなろうとしたり、利益を上げようというのは社会性に反しているといえるでしょう。自分の利益ばかり考えていると、いつか破綻を生じるはずです。
何ごとも適正規模というのがあります。あるところまで行けば、それ以上は望まない、みんながよくなればいい、という考え方でなければおかしくなってしまいます。
──ほどほどにという考え方があってもいいということですか。
清水 それが一番、望ましい。みなが安定して長寿を保てるようなね。今の姿を見ていると、あまりにもぎすぎすとし過ぎています。対話もなければ、心の通いもない。先ほども言ったとおり、すべてアメリカの悪い影響ですかね。
──みなが安定して長寿を保つ、日本でも実現可能でしょうか。
清水 日本には、他国にはない独自の歴史、伝統、文化があります。たとえば江戸時代は264年間もの長期間、平和な時代が続きました。当時の日本を見て、オランダやスペイン、ローマからの宣教師は「こんなに清潔で礼儀正しく、真義に厚い国は神が地球に与えた最大の贈り物」と言ったそうです。つまり、日本にはもともと、みなが安定して長寿を保つための土壌があるのです。