メニュー

店舗を活性化、めざすは「お客さまにとっての地域一番店」=東急ストア 須田 清 社長

13年2月期にはとくに既存店の改装に力を入れてきた東急ストア(東京都)。その効果もあり、既存店の売上高は徐々に回復の兆しを見せている。須田氏は、12年3月に急逝した木下雄治氏の後を受け、同年5月31日に社長に就任。「お客さまにとっての地域一番店」をめざすという須田社長に話を聞いた。

店舗の人員不足を解消 12年度下期に既存店が復調

──社長就任から約9カ月が過ぎました。期中でのトップ就任となりましたが、2013年2月期の業績をどのようにとらえていますか。

東急ストア代表取締役社長
須田 清(すだ・きよし)
1956年6月生まれ 79年3月明治大学法学部卒業後、東急ストア入社 2009年3月執行役員。11年2月取締役常務執行役員。商品本部長、営業統括本部長を経て、11年11月取締役専務執行役員。12年5月代表取締役社長に就任。営業統括本部長を兼務。

須田 まだ最終的な数字が出ていませんが、第3四半期までの実績は営業収益が対12年2月期比微減、営業利益がほぼ横ばいです。売上高が伸び悩んでいましたので、まずはここに手を打ちました。

 昨年の秋以降は、除々にその効果が表れ始め、12年11月から3カ月連続で既存店の売上高が前年を上回っています。14年2月期は、前期の売上高をクリアできるという手応えを感じています。

──既存店を活性化させるために、どのようなことを実施したのですか。

須田 苦戦している理由を探るため、店舗に出向いて店長や従業員の話を直接聞くとともに、本部の社員にもヒアリングをしました。すると、売場の人員が足りていないことがわかりました。過去、売上高が伸び悩む中で過度に人員のスリム化を進めてきたために、店舗ではオペレーションを遂行することに支障が出ていたのです。

 たとえば、バックルームに商品が届いているのに、すぐに補充ができていない店舗もありました。これを解消するために、店長に足りていない人員を記した要望書を提出してもらい、必要と判断した場合には、その補強を図りました。

 その結果、品切れによる機会ロスが減少したほか、夕食需要のピーク時に合わせてインストアで総菜を製造する体制を整えることができるようになりました。また、お客さまをレジで待たせるようなことが少なくなりました。

 こうした努力がお客さまにも伝わったのだと思います。昨年末に全店舗を回って確認をしましたが、お客さまから「お店がよくなったね」と声をかけられることも増えているようです。

──人員を増やした分、人件費がかさむことになりますが、どのようにコストを吸収するのですか。

須田 売上高を上積みすることで吸収していきます。増加した人件費を上回る利益を確保できれば、十分にカバーすることができます。

 当社は、立地に恵まれており、約8割の店舗が駅前か駅近くにあります。駅前店舗は客数の多いことが強みで、チャンスロス削減の効果が売上に与えるインパクトは大きいのです。

 現在は、利益を確保するために、プロセスセンター(PC)を活用し、店舗作業のコスト削減に注力している最中です。

 昨年は鮮魚のPCを稼働させたほか、青果のPCを拡張しました。青果と鮮魚はPCから全店に一部の商品を供給しています。精肉については、グループ会社の東急百貨店(東京都/二橋千裕社長)の子会社であるセントラルフーズ(東京都/原田清社長)から一部の商品の供給を受けています。

 総菜については、東京都内と神奈川県内の5カ所にサテライトキッチンを設けています。製造を1カ所に集中させてしまうと、遠方にある店舗に届く前に商品の鮮度が落ち、店舗で販売できる時間も短くなります。総菜は出来たて感が重要なので、今後もある程度まとまったエリアごとにサテライトキッチンを配置していく考えです。

「店舗戦略室」を新設し、店長をサポート

──店舗の営業体制が整ってくると、店長の役割にも変化が出てくるのでしょうか。

2012年2月末に旗艦店である「東急ストア中目黒本店」を大幅改装した。クロスマーチャンダイジングによるメニ ュー提案に力を入れている

須田 店長は売場づくりの中心を担っています。主体的に動いてもらうために、店長には店舗運営の多くを任せてきました。しかし、そのことで店長に過度の負担がかかっていたようなところがあります。このため、14年2月期には本部が店舗をサポートする体制の強化を図ります。

 この3月1日、地域に密着した店舗運営のスピードアップを図るために、営業統括本部内に「店舗戦略室」を新設しました。私が営業統括本部長として指揮するとともに、店舗戦略室長には専任の執行役員を据えました。マーケティングやデータ分析に長けた人材を集めて、店舗をサポートする体制を整えていきます。

──店舗戦略室ではどのようなことに取り組むのですか。

須田 まだ具体的なことはお話しできませんが、「お客さまにとっての地域一番店」になることを目標に掲げました。店長独自の考えを反映させた店舗運営を維持しつつも、本部がしっかりとバックアップする体制を強化する方針です。

 本部と店舗が一体となり、マーケットの実態を知る、店舗の販売データと照合する、従業員の話を聞く、そしてお客さまの話を聞くというステップを踏んで、「お客さまにとっての地域一番店」をめざします。

──品揃えにも変化を加えていくのでしょうか。

須田 そうです。地域のお客さまのニーズに合わせた品揃えとともに、当社独自の商品の打ち出しを強めていく考えです。当社は競合他社の店舗に比べて、売場面積が小さいために、陳列できるアイテム数が少ないのが実情です。その中で、既存店の売上高を伸ばしていくために、競合店の品揃えに負けない重点商品を14年2月期から設定します。

 たとえば、青果部門ではオイシックス(東京都/髙島宏平(たかしま・こうへい)社長)さんや、当社直営の農場「東急ストアファーム」の専用コーナーを導入する店舗を増やします。また、水産部門では刺身、精肉部門では国産牛の独自の品揃えを増やすなど、カテゴリーごとに強化する商品を明確にしていきます。

中目黒本店の地下1階青果売場では、オイシックスが 取り扱う青果をコーナー展開する。今年2月には「駒沢通り野沢店」と「洗足店」にも同コーナーを設けた

「Tokyu Store PLUS」で簡便性の高い商品を強化

──商品面では、12年5月からプライベートブランド(PB)の「東急エクセレント」と「東急セレクト」を「Tokyu Store PLUS(トウキュウストアプラス)」に統一しました。一方で、加盟している八社会(東京都/伊藤英男社長)のPB「Vマーク」商品も扱っています。

須田 基本的には八社会のVマーク商品が、当社にとってのメーンPBととらえています。しかし、Vマークは最大公約数のお客さま向けに企画された商品です。競争が厳しくなり、1店舗当たりの商圏が狭まっていく中で、お客さまの幅広いニーズに応えるためには、独自のPBを開発する必要があると考えています。

 そのため、自社のPBを「Tokyu Store PLUS」に一本化しました。ナショナルブランドの商品やVマーク商品では提供しきれていない、品質の高さや簡便性、使いやすいサイズ設定などの独自性をプラスしています。商品開発にあたっては、「お客さまにご満足いただける価値の具現化」をテーマに、お客さまの声を反映させています。

 「Tokyu Store PLUS」は現在、170アイテムあります。14年2月期中に、新たに500アイテムを開発する計画です。

──具体的にどのような商品を「Tokyu Store PLUS」として開発していくのですか。

須田 まずは下ごしらえや調理をする手間を省いた、簡便性の高い商品の開発を優先的に進めていく方針です。

 たとえば、すでに商品化したカット野菜は、お客さまから大変好評を得ています。これからレトルトパウチの総菜や、生鮮食品を加工した半調理品など、温めればすぐに食べられる商品を充実させていきます。お客さまからいただいたご意見をしっかり取りまとめ、当社の定番商品に育てていこうと考えています。

──八社会に加盟する食品スーパー(SM)企業の店舗において、「Tokyu Store PLUS」を販売することはないのですか。

須田 実は、売上好調の「Tokyu Store PLUS」商品を、八社会の「Vマークバリュープラス」にパッケージを変更し、販売するケースがいくつも出てきました。当社が単独で展開するよりも、八社会のPBとしたほうがスケールメリットを享受できるので、PBの移行には積極的に取り組む方針です。

今秋、約2年半ぶりに新規出店

──さて、今後の成長戦略について教えてください。

須田 先ほどお話したように、まずは既存店の改装を進めていきます。当社は売場がしっかりしていれば、売上高を伸ばすことができる素地があります。東急沿線の駅ビル内や駅前に多くの店舗を展開する優位性や、東急のブランド力を生かすことができます。今までこうした強みを十分に生かし切れていなかったと反省しています。

 そして、成長戦略には新規出店が欠かせません。今秋には、11年3月に開業した「二子玉川ライズ東急ストア」以来、約2年半ぶりに田園都市線の「高津」駅前に出店する予定です。これを皮切りに継続的に出店したいと考えています。

 出店エリアは東急沿線です。東急線沿いには約100の駅がありますが、当社が駅ビル内や駅前に出店しているのは40数駅しかありません。まだまだ出店する余地があり、現在は出店の候補地を探しているところです。

 ただ、当社のSMの標準的な広さである300?400坪を確保できる場所は多くないので、小型の店舗を軸に出店を進めていく考えです。すでに小型店「フードステーション」を、「西小山店」(売場面積175坪)と「大倉山店」(同106坪)の2店舗展開しており、いくつかの実験をしています。そのノウハウの蓄積を、今後出店する小型店に投入していくつもりです。

──ネットスーパーは、事業拡大を進めていくのですか。

須田 ネットスーパーの売上高が対前年比7割アップとなる店舗もあり、利用者は着実に増えています。しかし、収益面で貢献するまでには至っていません。今後は、東京急行電鉄(東京都/野本弘文社長)が展開する見守りサービスやリフォーム相談など、ホーム・コンビニエンスサービスを提供する「東急ベル」や、東急百貨店の通販事業と連携し、効率化を図る考えです。

 この3月1日には、営業統括本部内に「グループ事業推進部」を設置し、同事業部内にネットスーパーの担当部署を移管しました。まずは、東京急行電鉄との連携を強化し、新規顧客獲得のための施策を立案、実施していく方針です。

──少子高齢化が進む中で、どのように企業規模を拡大していく考えですか。

須田 小売業を取り巻く環境はより一層厳しくなるでしょう。人口減少で胃袋の数が減り、高齢化でその大きさが縮小していく。それにもかかわらず、SMだけでなく、コンビニエンスストアやドラッグストア、ディスカウントストアの店舗数は増え続けています。

 こうした中で生き残っていくためには、これから増加していくシニアの方々のニーズに合わせた商品政策(MD)が必要となります。

 当社の商圏には、定年退職後もある程度の資産を持ち、悠々自適な生活を送るシニアの比率が高いというデータもあります。当社としてもそれに合わせたMDを構築している最中です。

 当社としては、POSデータとハウスカードのデータを組み合わせ分析し、シニア向けの品揃えに生かしていく考えです。