知恵を出して価値ある商品づくりを追求、「デザイン革命」で新たな価値創造=エステー鈴木喬社長

聞き手:千田 直哉 (株式会社ダイヤモンド・リテイルメディア編集局 局長)
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──多くの小売業は、原資なき低価格路線に舵を切り、既存店売上高減少の一因を自らつくっています。そんな 状況の中で、しっかりと売上が確保できるだけの価値がある商品を求めています。その意味では、「自動でシュパッと消臭プラグ」の1300円(税抜)という 価格設定は小売業にとっても魅力的に映ります。

鈴木 確かにそうですね。今の低価格訴求型の売り方は、だれもがいずれ行き詰まると感じているはずです。

 知恵がなければ価格で勝負するしかありませんが、知恵があれば価値で勝負できます。もともと私はエステーを工場をたくさん持っているような、ものづくりカンパニーではなく、ソフトカンパニーにしたいと思っています。

 実は、ベンチマークにしているのは任天堂(京都府/岩田聡社長)さんなのです。任天堂さんは、かつてはソニー(東京都/ハワード・ストリンガー社 長)さんやマイクロソフト(同/樋口康行社長)さんに水をあけられていましたが、今ではゲーム業界で独り勝ちしています。見習うべきは、徹底して娯楽性を 追求し、幅広い消費者に新鮮な感動や驚きを提供していることです。

 私はよく一般家庭を訪問して、当社商品についてのご意見を伺っています。ある家庭で、そこのお子さんが、「自動でシュパッと消臭プラグ」から香り が出てくるのを楽しみにして待っているという話を聞きました。その家庭では「シュパッと」が一家団欒に話題を提供しているのです。お客さまは、特殊な技術 などよりも、生活の中のちょっとした感動やおもしろさを求めているのではないでしょうか。

4月に社内のほとんどの会議を廃止

──さて、スピード経営という点では、どんな対策を採られたのでしょう。

鈴木 従来のエステーは合議制を採用し、会議ばかり多くて、何をするにも時間がかかりました。そのため、商品開発のタイミングも少しずつ遅れ、現場の意見もとおりにくいという問題点がありました。

 そこで、4月に社内のほとんどの会議やプロジェクトを廃止しました。現在は社内の会議は、朝会、執行役会、取締役会だけになりました。これで、当社の最大の強みが大手にはまねができない「スピード経営」だと宣言できます。

 スピード経営にはトップダウンが不可欠です。日本ではトップダウンにはあまりいいイメージはありませんが、海外の優良企業はすさまじいトップダウンで動いています。

 強いトップダウンがあってこそ、強いボトムアップも出てきます。その代わり、私自身も何事にも死にもの狂いで取り組んでいます。今度の新商品の商 談でも、トップセールスもいとわず、営業マンの先頭に立って、お取引先にうかがいました。経営トップが自ら新商品のために土下座するようなつもりでない と、人を動かせません。経営トップは外見はかっこよく見えますが、ビジネスは泥臭いものです。

 また、企業も競争がないと強くなりません。当社には社内外に合わせて8人の執行役がいます。その任期は1年で、アメリカやヨーロッパと同じです。 しかも、40代が中心で、昇進は早いのです。このように社内に競争を持ち込んで、いつも議論ができるような雰囲気をつくることが重要です。

──人材育成ではどんなことをやっているのでしょう。

鈴木 今、毎年、社員を2週間の世界一周旅行に派遣しています。今年も2チームを出しました。こんな不景気に、そんなことをやっていていいのかという人もおりま すが、こういうときこそ、こんなことをやるべきだと考えています。しかも、派遣者にレポートを出させたりはしません。2週間海外を回ったからと言って、す ぐに成果なんて出ませんが、いずれはそれが役に立つときが来ると思っています。

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聞き手

千田 直哉 / 株式会社ダイヤモンド・リテイルメディア 編集局 局長

東京都生まれ。1992年ダイヤモンド・フリードマン社(現:ダイヤモンド・リテイルメディア)入社。『チェーンストアエイジ』誌編集記者、『ゼネラルマーチャンダイザー』誌副編集長、『ダイヤモンド ホームセンター』誌編集長を経て、2008年、『チェーンストアエイジ』誌編集長就任。2015年、『ダイヤモンド・ドラッグストア』誌編集長(兼任)就任。2016年、編集局局長就任(現任)。現在に至る。
※2015年4月、『チェーンストアエイジ』誌は『ダイヤモンド・チェーンストア』誌に誌名を変更。

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