「LGBTQ」や「LGBT+」など多様性のあるセクシャル・マイノリティへの理解、対応を企業は求められている。メルカリが社内研修用に作成したLGBT+に関するeラーニング動画が一般向けに公開された。企業の研修担当者のみならず、いつでもだれも見ることができる。
グループ全体で、「社内のダイバーシティ&インクルージョン(多様性と受容)」を強力に推し進めるメルカリが目指すのは、生物学的な性、ジェンダー・アイデンティティー、性的指向に関わらず、多様な人材が活躍できる環境の実現だ。グローバルに活躍する企業として、「インクルーシブなプロダクトやサービスの開発」を行うには、社員一人ひとりが多様で、インクルーシブなカルチャーを体現する必要があると考える。
メルカリが取り組むLGBT+への取り組みとは。D&Iチームのフアン・ガルシア氏に話を聞いた。
社内コミュニティから生まれたLGBT+の研修プログラム
グループ全体で、「社内のダイバーシティ&インクルージョン(多様性と受容)」を強力に推し進めるメルカリ。2018年から、「Pride@Mercari」、「Women@Mercari」、「Multicultual@Mecari」という3つの社内コミュニティをつくるなど、社員を巻き込んだ活動を続けてきた。
その中で「Pride@Mercari」は、LGBT+の当事者とそのアライ(ally、仲間の意味、多様な性のあり方に理解のあるサポーター)が集い、LGBT+に関する理解を促進するための社内勉強会やセミナーを開催している。
2022年6月から一般向けに公開を始めたオンライン研修プログラム「Mercari Pride E-Learning」は、「Pride@Mercari」に集うメンバーが「LGBT+への社内理解をもっと深めたい」と自らの手で作り上げたeラーニング動画だ。本業とは別の、有志コミュニティ活動の中で完成した。
東京都の調査によると「LGBT+の当事者の33%が、これまで性的マイノリティであることから困難な経験をしたことがある」と回答するなど、社会全体でLGBT+への理解がまだまだ進んでいないという実態だ。その内、最も経験率が高いのが「周囲のリテラシー不足によって引き起こされる問題」であるという結果もある。
D&Iチームのフアン・ガルシア氏は「実際、数年前のメルカリ社内は、東京都の調査と同じような状況にあった。LGBT+を社員一人ひとりに正しく理解してもらうためにできることは何か。そう考えて『Mercari Pride E-Learning』を作成するに至った」と話す。
2021年8月から、社内向け研修の一環として年1回グループ会社を含む全社員に向けて配信を行い、新任マネージャーは受講必須のプログラムとして位置づけている。
あくまでも社内向けの研修プログラムだった「Mercari Pride E-Learning」。一般向け公開のきっかけは、特定非営利活動法人東京レインボープライドが主催する、アジア最大級のLGBTQ関連イベント「東京レインボープライド2022」(4月22日~4月24日開催)に、はじめて協賛、ブース出展したことにある。
メルカリ出展ブースの来場者を対象としたアンケート調査で「メルカリに企業としてもっと取り組んでほしいものは何ですか?」という質問に対し、実に141名から「社内で使用している研修リソースを公開してほしい」の回答を得たのだ。多数の声が寄せられたことで、LGBT+を専門とする第三者機関による内容の監修を実施した上で、「Mercari Pride E-Learning」の社外公開を決めた。
世界的なマーケットプレイスを作るための企業文化づくり
一般公開がスタートして数カ月。実際の閲覧数などは集計していないが、アクセスは順調に伸びているという。
「社内からの感想として、余計な情報がなく、それでいて十分な情報が入っていてわかりやすい、という声が多く上がっていたが、LGBT+の当事者とそのアライが作り上げたコンテンツということもあり、社外からもポジティブな声をいただいている」(ガルシア氏)
メルカリがこれほどまでに「ダイバーシティ&インクルージョン」を推進する理由は何なのか。
「“新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る”ことが当社のミッション。より多くのお客さまにとって使いやすいプロダクトやサービスを提供するためには、私たち自身が多様で、インクルーシブ(包括的)なカルチャーを体現する必要があるとの考え方からだ」(同)
「Pride@Mercari」、「Women@Mercari」、「Multicultual@Mecari」の3つのコミュニティも、誰にとっても心地よく働ける場所であり、ありのままの自分が受け入れられていると実感できる職場環境をつくるためのもの。参加はあくまでも自主的なもので、本業とは別のボランティアとしての活動となるが、社内では大きな存在感のあるコミュニティへと成長している。
現在「Pride@Mercari」に関連チャンネルのメンバーは90名を超える。「Mercari Pride E-Learning」を一般公開したことでメンバーが一気に増えた。さまざまな部署からLGBT+の当事者とアライが集い、本業をしっかりとこなしながら、上司と相談した上で業務時間の2割ほどをコミュニティ活動に充てている。「今後は、コミュニティ意識をより大事にしていきたい」とガルシア氏は言う。
「Mercari Pride E-Learning」の全社展開で、メルカリ社内でLGBT+についての認識はどう変わったのだろうか。
「3年前に入社したときは、LGBT+って何?という空気感だったが、コミュニティ主体で多数のセミナーを開催したこともあり、あなたの隣にLGBT+がいますよ!というメッセージが広く伝わったと思う。活動の成果として、対話がしやすくなったという社内の空気感を実感している」(同)
多様性を認め、誰もが活躍できる社会を目指す
「Pride@Mercari」の活動のゴールは、LGBT+の当事者がありのままで自分らしく働ける環境をつくることだという。
「社会全体では未だ多くの課題が残されている。メルカリは日本に影響力を持っている会社だと思うので、最終的には生物学的な性、ジェンダー・アイデンティティー、性的指向に関わらず、誰もが活躍できる社会を目指していきたいと考えている」(ガルシア氏)
メルカリのプロダクトやサービス上にも変化が見られる。性別の選択肢について、これまで「男」「女」の2択であったところ、今は「無回答」という3つ目の選択肢が追加されている。多くの人の目に留まるCMについても、以前はターゲットを女性に設定し女性のみを起用していたが、現在は男性もトランスジェンダーも登場する、まさに多様性を表現した内容となっている。
実際、トランスジェンダーのユーザーから「これまでお店で靴のサイズを伝えると、見た目との違いにいつも店員さんに驚かれて嫌だった。メルカリのおかげで自分に合うサイズを気兼ねなく手に入るのでありがたい」といったリアルな声も届くようになった。
「バックグラウンドによって個人の可能性が決めつけられることなく、誰もが簡単に取引に参加でき、自由に価値を生みだす機会を手にできる社会の実現をめざす」と公言するメルカリ。すでに社内では確実に、一歩先を行くダイバーシティ&インクルージョンが進んでいる。