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連載・GMS復活宣言 #1「総合」にこだわるイオンリテールのゆくえ

イオン(千葉県/吉田昭夫社長)グループにおける総合スーパー(GMS)事業の中核企業イオンリテール(千葉県/井手武美社長)は、新型コロナウイルスが直撃し、2020年度218億円、21年度85億円と2期連続営業赤字に陥った。
22年度は挽回できるのか。その第1四半期(3〜5月)決算では、営業損益が前年同期80億円の赤字から2億円の黒字となった。第1四半期の営業黒字は13年度以来、実に9年ぶりだ。第1四半期は低調で、第4四半期に巻き返すというのがイオンリテールの例年のパターンだが、それからすると好スタートを切った格好だ。

売上回復で利益が出やすい体質に?

 第1四半期決算説明会によると、損益改善の主要因は構造改革の成果だ。構造改革によって収益構造が変化した結果、損益が改善したとしている。

 イオンリテールはこの2年間、「リバイバル期間」と位置づけ、在庫削減や固定費の圧縮・変動費化などの構造改革に取り組んできた。商品在庫高は19年同期に1700億円以上あったが1000億円程度にまで削減。在庫回転率も向上させ、在庫回転日数は19年同期比で11.3日減となった。

 収益改善の要因には、売上が伸びたこともある。既存店売上高は対前年同期比1.3%増。商品別に見ると、食品やH&BC(ヘルス&ビューティケア)はほぼ横ばい、住居余暇は振るわなかったが、衣料は4、5月に前年同期を上回るなど大きく伸ばした。売上総利益率は0.6ポイント改善した。

 売上伸長と売上総利益率の改善によって営業総利益を増やす一方、人件費など販管費を削減した結果、営業損益を改善したという形だ。

 イオンリテールの過去のコスト改革では、一時的な収益改善に終わっていた。しかし今回は一時的なものではなく、売上が回復すれば利益が出やすい体質に構造的に変わったと自信を見せる。今年3月には社長直轄組織として収益構造改革担当を配置するなど、構造改革をさらに押し進める手を打っている。

最重要課題であるGMS改革の成果は…

 イオンはかねてGMS改革を最重要課題の一つとして取り組んできた。

 GMSは1980年前後に変調が表れ始め、停滞が長期化する。イオンは2000年頃から、衣料品専門店に対抗し低価格戦略を打ち出すほか、GMSを核店舗とした大型SC(ショッピングセンター)の積極出店、旧態依然とした箱型GMSからの転換を図った。一方で、ビジネス構造を変えようと、商品、物流、ITなどの改革にも取り組んでいった。

 2010年には、企画・製造・販売を手がける新会社トップバリュコレクション(千葉県/三浦隆司社長)を設立し、SPA(製造小売)による新ブランド「トップバリュコレクション」を立ち上げ、衣料品のテコ入れに乗り出した。

 18年には、衣料・住関連で「インナーカジュアル」「キッズリパブリック」「グラムビューティーク」「ホームコーディ」の4事業を商販一体の専門会社化する方向を打ち出す。しかし、この専門会社化はほどなくして頓挫した。GMSの既存組織と相容れず運営上の課題が大きかったからだ。

 一連の改革にもかかわらず、収益は不安定なままだった。過去10年間のイオンリテールの営業利益を見ると、11年度には400億円を超えていたが、14年度になると25億円に落ち込む。その後、いったんは100億円台にまで回復したが、再び収益は悪化している。

 イオンの稼ぎ頭はディベロッパー事業と総合金融事業だ。この2事業で連結営業利益の約6割を占める。これはGMSを核店舗にしたSCのビジネスモデルから生まれるところが大きい。GMSは儲けこそ小さいものの、イオンのSCの集客装置として欠かせないものになっているし、ディベロッパー事業や総合金融事業の利益創出に密接に結びついている。それだけに、グループにとってGMSの収益力回復が持つ意味は大きい。

デジタルシフトでも「総合」を追求

 近年、生活全般にデジタルが浸透し、EC(ネット通販)も拡大するなか、イオンは中期経営計画の柱の一つにデジタルシフトを掲げデジタル施策に取り組んできた。

 イオンリテールのオンラインサイトは、衣料・住居余暇を扱うイオンスタイルオンライン、食品中心のイオンネットスーパー、ギフトや名産品を販売するイオンショップなどがある。これに加え、23年には英オカド(Ocado)との提携による次世代ネットスーパー事業を開始する。

 千葉市緑区誉田町に開設する物流施設ではオカドのAIやロボティクスの技術を活用し24時間稼働で効率的なピックアップを行うなど大量受注に応えられる態勢を整え、30年までに6000億円の売上をめざすとしている。26年には東京都八王子市に2カ所目の物流拠点を開設する計画だ。既存の店舗発送型のネットスーパーと次世代ネットスーパーでは、食品を中心にしながら、衣料品、住関連品などにも品揃えを拡張し総合化を図るとしている。

 イオンは、グループのデジタル売上を19年度の700億円から、25年度に1兆円に引き上げる。過大とも言える数字はオンライン売上比率10%程度の想定によるものだ。

 GMSは業態としての役割を終えたという指摘もあるが、イオンリテールは「総合」の看板を下ろす考えはない。むしろ、コロナ禍において、ワンストップで衣食住の買い物ができる利便性が消費者に見直された強調する。店舗でもデジタルでも総合にこだわる同社はGMSをどう変えるのか。新しい「総合」の姿を生み出す力が問われている。