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ローソンが成城石井の上場検討、腑に落ちない4つの疑問とは

成城石井が株式公開へ–
最近筆者が最も気になったのがこのニュースです。日本経済新聞の本年4月12日報道によれば、早ければ年内に東京証券取引所に上場をする方針で、現在100%の株式を保有するローソンは50%未満へ持ち株を引き下げる見通しということでです。その後のローソンのリリースなどを見ると、社内で検討されていることは間違いないようで、確度の高い案件だと思います。ローソンにはそろそろ何らかの戦略的な打ち手が欲しいと思っていた矢先でしたので、筆者は「この手で来たか!」と感じました。一方、報道の範囲では腑に落ちない点もあります。今回はこれらの諸点を整理しながら、この案件の意味を考えてみたいと思います。

成城石井「幡ヶ谷店」
写真は「幡ヶ谷店」(東京都渋谷区)

 次の一手は必然だった

 ローソンは現在、今後の戦略的方向性を示すタイミングにあります。

 ローソンが業界二位の時代には、トップのセブン&アイ・ホールディングスは国内コンビニ事業(セブン-イレブン)が盤石な一方、グループ全体では低採算の百貨店やスーパー事業を抱えており連結ベースの資本効率が課題でした。これに対してローソンは、コンビニ業界の成長と集約が進む時期に、成長と資本効率の二兎を追うことができました。

 しかし、ファミリーマートとサークルKサンクスの統合後、程なく市場の飽和とドラッグストアとの競争激化、そして人手不足によるフランチャイジー(フランチャイズ加盟者)の収益低下という逆風が業界を襲い、業界三位となったローソンは業績的にも株価的にも精彩に欠ける展開になっていました。

 ここで、コロナ禍による人流の変化、商圏変化が業界を覆います。

 セブン&アイは海外コンビニ強化に対して経営資源の集中を図り、ファミリーマートは伊藤忠商事の完全子会社になって中期的な観点で体質強化を図る中、ローソンの次の一手がまさに待たれていたと思います。ポストコロナが見えてきたと同時にいよいよ次の一手を打ち始める、というところでしょう。

 開示データは限られていますが、成城石井は増収増益基調でローソンの中では有望事業で、これを梃子にするという考え方は納得感が高いと思います。

成城石井 直近3期の業績推移(単位:100万円)
決算期 20年2月期 21年2月期 22年2月期
営業総収入 93,769 103,486 109,200
営業利益 9,105 11,103 11,988
経常利益 9,042 11,099 12,156
当期純利益 5,348 6,516 7,377

 

疑問1 シナジーは出尽くしたのか

  しかし、腑に落ちない点も多々あります。

 日経の報道では、成城石井とコンビニ事業とのシナジーが薄く、株式持分を5割以下にするとあります。しかし、ローソンにとって規模の大きいコンビニ事業で他社と差異化を進め勝ち残るためには、「成城石井→ナチュラルローソン→ローソン」という流れに沿って、ユニークかつ高単価・高粗利の商品を増やしていく必要があるはずだと思います。

 例えばローソンで成城石井セレクトのコーナーを通年で設けるといった取り組みを行うべきではないでしょうか。それが成城石井の認知を高め、ローソンにも成城石井にも集客効果になるはずです。筆者の身近なローソンでたまたま目にする機会が少なかっただけなのかもしれませんが、成城石井と他事業とのシナジー発現について徹底できたようには思えません。

 

ローソン全体で成城石井の成長を支えれば良いのではないか

 次に腑に落ちないのは財務戦略です。

 ローソンが成城石井の成長ポテンシャルを高く評価するのであれば、まずやるべきはローソンの配当性向の引き下げによって内部留保を増やし成城石井の成長原資に充当すること、それでも不足であればローソンが増資を行い、その資金を重点的に成城石井に充当することだと思います。

 成城石井の成長余地とローソン全体でのシナジーのポテンシャルをしっかり示せばローソンによる増資は問題なく資本市場で消化されると思いますので、その選択肢を選ばない理由をぜひ知りたいと考えます。

 疑問3 なぜ完全に売却しないのか、新たな親子上場の是非

  もう一つ問われるべきは新たな親子上場(ローソンの親会社である三菱商事から見れば孫会社上場)を許容するのかです。

 仮に成城石井とローソンの他の事業に相乗効果が期待できないならば、あるいはローソンにとって他に投資すべき案件があるならば、成城石井の持分を完全に売り出してしまうべきではないでしょうか。成城石井の安定株主工作が必要であれば、粛々とそれを進めれば良いと思います。

 また、「ローソンが成城石井の株を売ることが、成城石井の成長ポテンシャルのピークを暗示する」ことを配慮して、ローソンが持分を部分的に残すという可能性も考えられます。しかし、それが事実であればローソンの株主の利益にはならない選択です。また、本当に成城石井の成長ポテンシャルのピークが近いのであれば、成城石井の上場のための投資家向けロードショーで早々に資本市場に悟られると思います。単なる市場の憶測に過ぎないのならば、成城石井の経営陣がその払拭に努めるばかりです。

 仮に相乗効果を今後期待できるなら、やはりローソン自身が資金を調達すべきだろうと思います。

 

疑問4 ローソンは株式譲渡金をどう使うのか

  仮に成城石井の株式時価総額を2000億円として、その半分を売却した場合の税引き後の受け取り金額は500−600億円の規模になるかと思いますが、それをどう使うのかがもう一つの大きな疑問点です。

 ちなみにマクロ的に考えると、インフレ基調に入ったことで実質所得の目減りリスクが家計で高まっており、消費者の価格に対する目は厳しくなると思います。したがって、コンビニ事業の根幹にある「高粗利をフランチャイザーと分け合う」事業モデルが盤石でなくなる可能性は否定できません。省人化を軸として店舗運営コストの削減、顧客の囲い込み、広告などの新たな収入源の開拓が不可避ではないでしょうか。さらに言えば、既存のフランチャイジーとの関係を悪化させずに、コンビニ型自販機や無人店舗などによる直営型の展開も考えるべきタイミングだと思います。ローソンがシナジーの薄い事業を換金し、事業モデルの抜本的転換のために使うとなれば、一定の理解は得られそうに思います(ただし、それならなおさら全株処分して転換を加速するべきだと思いますが)。

  ということで、現時点ではまだ完全に腹落ちしないスキームです。ローソンはおそらくこの辺りのモヤモヤをいずれ解消するべく十分な説明をすることでしょう。期待したいと思います。

 

プロフィール
椎名則夫(しいな・のりお)
都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、米系資産運用会社の調査部で日本企業の投資調査を行う(担当業界は中小型株全般、ヘルスケア、保険、通信、インターネットなど)。
米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、独立系投資調査会社に所属し小売セクターを中心にアナリスト業務に携わっていた。シカゴ大学MBA、CFA日本証券アナリスト協会検定会員。マサチューセッツ州立大学MBA講師