トラック運転手の時間外労働に法律で年960時間の上限が課される2024年4月まで1年に迫った。物流業界では、慢性化している運転手不足がさらに深刻となり、各地で荷物が運べなくなる事態が懸念されている。各社は「2024年問題」への対応を急いでいるが、課題は山積している。
野村総合研究所は、この問題により30年に予想される国内の荷物量のうち35%が運べなくなる可能性があると試算。物流網を維持するには「料金割り増しや運送頻度低下が生じる恐れがある」と分析する。背景には、電子商取引(EC)市場拡大で荷物量が増える一方、人口減少や労働環境の過酷さで若手の運転手確保が年々難しくなっているという事情がある。
輸送の効率化が求められる中、物流各社は1台で大型トラック2台分の荷物を運べる「ダブル連結トラック」活用や、トラック輸送から船や鉄道に転換する「モーダルシフト」などの取り組みを加速。西濃運輸では大阪―東北間など走行距離600キロ以上の9区間について既に転換した。
商品などを長距離で運ぶ輸送と、顧客からの注文を届けるための配送の共同化も広がっている。ヤマト運輸や日本通運など4社は19年から連結トラックで関東―関西間での共同輸送を実施。食品や事務機器メーカーなどでも同業種や異業種間で共に商品を輸送・配送する動きが広がりつつある。
再配達の多さや荷受け・荷降ろし時の待ち時間の長さも長時間労働を招く要因だ。ヤマトは駅や商業施設で好きな時間に荷物を受け取れる宅配ロッカーを首都圏中心に約6700台設置した。宅配各社は、スマホなどで利用者が配送場所や日時を手軽に変更できるサービスも提供し再配達を回避しようとしている。
荷主企業に対しては、国が待ち時間削減などの物流改善計画の提出を義務付けることも検討している。斉藤鉄夫国土交通相は「(問題解消には)荷主や消費者の協力も必要だ」と訴える。
燃料費高騰などのコスト増も重なり、物流業界の経営環境は厳しさを増している。特に危惧されているのはトラック輸送の下請けを担う数多くの中小企業へのしわ寄せだ。日本の場合、トラック運送事業者の99%超を中小が占めている。
最大手のヤマトと佐川急便は「価格への反映が遅れている」などとして、4月にそれぞれ宅配の基本運賃引き上げに約5年半ぶりに踏み切る。こうした価格転嫁の動きが、中小の運転手の待遇改善につながるかが物流課題解決への焦点となりそうだ。