前回は「モノを選択する場所としてのオフライン店舗」はほぼ機能しなくなっており、最近ではオンラインで商品を選ぶ人が増えているというお話をご紹介しました。ウェブ上でウィンドウショッピングをしながらお店にはモノを受け取りに行くだけというウェブルーミングの買い方が今後増えていくと予測されるなか、日本の小売店舗はどのような準備を行うべきなのでしょうか。
EC化率は意外に伸びない?
まずは現状を数字で振り返ってみましょう。小売全体の市場規模に対するEC市場規模の割合を指示す指標として「Eコマース比率」(あるいは「EC化率」)があります。コロナ前から成長を続けてきた日本のEコマース市場ではEC化率は約8%くらいでしたが、これがコロナ禍でさらに伸びるという予測も少なくありません。とはいえ、コロナが収まると、ある程度リアル店舗での買物が元に戻ることも想定されるため、なかなか2ケタ台にはならないだろうと考えられています。世界を見ると、中国のEC化率は突出して高いのですが、実は米国ではそこまで高くありません。
経済産業省の調査によると、2020年における米国の越境EC市場規模は1兆7108億円で、前年度から9.9%上昇しています(引用元:経済産業省:電子商取引に関する市場調査<2021年7月30日>)
順調に拡大していくように見えるEC化率ですが、中国を除けば今後もモノを「買う場所」としてのECの可能性は30%にも満たないと私は予測しています。ただし、前回の記事でもご紹介したように、モノを「選択する場所」としては、楽天市場やアマゾン、YouTubeなどのデジタルプラットフォームが持つ力がかなり強いため、モノを選ぶ場所・探す場所は今後もオンラインに移行を続け、拡大していくでしょう。これは小売全体のマーケティングを考える上で非常に重要です。
オフラインの利便性が相対的に悪くなる
現在に至るまで、ネットでの消費や買物の仕方は変化を続けています。デジタル上でのUX(ユーザーエクスペリエンス)と言われる買物体験の観点からすると、とくに若者においてはオフラインよりオンラインの方が便利だと感じるようになっています。
たとえば、そのお店にほしい商品の在庫があるかどうかは行ってみないとわからないなど、デジタル化が進む以前は当たり前だったことが、現在では不便に感じるようになっているのです。もっと言うと、ECで翌日に商品が届くのであれば、わざわざ週末に買物に出かける必要性も感じません。それほど現在のオフラインでの買物は、オンラインと比べると利便性が悪いと思われるようになっているのです。
返品が買物における慎重さをなくす
なぜ米国ではアマゾンが圧倒的トップシェアを占め、今も急成長を続けているのかというと、「早く届く」というユーザー体験がその要因の1つです。モノを買ってからいかに早く手元に届くかということは買物客にとって非常に重要で、米国ではアマゾンより配達スピードが早いスタートアップも出てきているほどです。また、交換がすぐにできる点もアマゾンの支持が高い要因の1つです。
これまでの買物に対する慎重さや、買って失敗したらどうしようという不安を持つ人は非常に少なくなっています。とくに若者世代は「買ってだめなら返せばよい」という感覚になっているため、消費のハードルが下がっているのです。このように、配送問題と返品のハードルを両方とも壊したのがアマゾンです。
ほかにもアマゾンにはレビュー機能があり、若い人はほしい商品があった際に、商品の説明文はあまり読まず、画像と価格を見て、レビューを確認すれば中身を見ずに購入を判断してしまいます。これは、従来の買物の世界観ではあり得ないことですが、ネットではそれが普通になっており、仮に期待したような商品でないことがわかっても、返品すればよいので失敗にすらならないのです。
こうしたなか、店舗での接客は不要になり、商品のうんちくなどの説明も求められなくなるのです。このような変化は、以前から進行していましたが、コロナ禍では店舗で買いづらい状況になってしまったため、強制的にさらに進むことになりました。
今回ご紹介したようなデジタルの利便性は、本当にネット上でのみ提供できるサービスなのでしょうか。もしリアル店舗の利便性がさらに高まれば、消費者の利用は増えるでしょう。日本は国土が狭く、駅前立地などアクセスがよい店舗であれば、モノを受け取るまでの時間を含めたコストがネットより低くなる可能性があります。こうしたことを総合的に考えることで、リアル店舗がオンラインやデジタルプラットフォームを攻略するヒントが見えてくるでしょう。
プロフィール
望月智之(もちづき・ともゆき)
ニッポン放送でナビゲーターをつとめる「望月智之 イノベーターズ・クロス」他、「J-WAVE」「東洋経済オンライン」等メディアへの出演・寄稿やセミナー登壇など多数。